建築耐震基準ではどの程度の震度までの安全性を保証しているのでしょう?
色々な方法で検証される耐震安全性
建築物の耐震安全性を検証する方法は、建築基準法施行令に規定されています。現在、施行令などで定められている検証法は、許容応力度等計算、限界耐力計算、エネルギー法、時刻歴応答解析の4種類です。
許容応力度等計算は、1981年新耐震設計法の導入以降、最も一般的に用いられている計算法で、施行令第82条-第82条の5で規定されています。これに対して、限界耐力計算は2000年の基準法の改正で新たに導入された方法で、施行令第82条の6に規定されています。また、エネルギー法は、施行令第81条ただし書きに基づいて平成17年国土交通省告示第631号で規定された計算法で、2004年に導入されましたが、現状は余り使われていないようです。これらは、高さ60m以下の建物で一般に用いられている計算法です。
一方、高さ60mを超える超高層建築物では、施行令第81条の2と平成12年建設省告示第1461号で規定される時刻歴応答解析を用いなければいけません。
このように、建築設計には様々な計算法が用いられており、建物の規模や特徴によって計算法が使い分けられています。建築構造設計者でもその全体像を把握できている人は多くは無さそうです。
安全性の審査
建築物の構造計算結果については、建築確認により確認されます。建築確認は都道府県などの建築主事や指定確認検査機関により行われます。ただし、大規模な建物については、指定構造計算適合性判定機関で構造の専門家による構造計算の判定も必要になります。一方で、小規模な建物(建築基準法第6条による分類で4号に規定されるいわゆる4号建築物)は、確認申請の労力の簡略化のため、建築士が設計したものであれば、建築確認申請の審査が簡略化できます。すなわち、木造2階建てのような戸建て住宅は、建築士と建築主の責任において安全性を確認すれば、構造計算は不要ということです。
許容応力度等計算
以下では、最も一般的に用いられている許容応力度等計算について紹介します。許容応力度等計算では、中小地震動に対する許容応力度計算と大地震動に対する保有水平耐力計算から構成されています。ただし、建物規模に応じて計算ルートが区別されており、中小規模の建物では、中小地震動に対して十分な耐力があることを確認したり、変形が過大にならないことや、構造的なバランスが悪くないことを確認すれば良いことになっています。
これに対し、高さ31mを超えるような大規模な建物では、保有水平耐力計算により、終局時の安全性の確認が必要とされています。
ちなみに、許容応力度とは、構造材料の強度を安全率で除したもので、許容応力度計算では、与えられた荷重によって材料に生じる単位面積当たりの力(応力度)が、許容応力度を超えないことを確認しています。
また、保有水平耐力計算では、建物の変形しやすさ(靱性能)に応じて荷重を低減した必要保有水平耐力と比べて、建物の保有する終局耐力が上回っていることを確認します。
許容応力度計算で考える地震荷重
許容応力度計算で用いられる地震荷重は、各層で負担する水平方向の力として、層せん断力により定義されています。
i層の層せん断力(Qi)は、層せん断力係数(Ci)とその層より上の総重量(ΣWj)の積で与えられます。i層の柱や壁はこの力に耐える必要があります。ある層に作用する力はそれより上の層で生じた慣性力(水平加速度×質量=水平震度×重量、水平震度=水平加速度÷重力加速度)の総和になりますから、層せん断力係数(Ci)とは、ある層より上の建物の平均的な水平震度と解釈できます。
層せん断力係数(Ci)は、標準せん断力係数(C0)×地震地域係数(Z)×振動特性係数(Rt)×層せん断力係数の高さ方向分布係数(Ai)の積で与えられます。標準せん断力係数は、標準的に考えるべき建物の平均水平震度を示しており、中地震動と大地震動で異なる値を定義しています。中小地震動に対しては、構造物は無損傷、大地震動に対しては、構造損傷はあっても空間が残り人命を守ることを原則にしています。
地震地域係数(Z)は、地域による地震危険度の大小を表しており、基本は1.0で地域によって低減しています。また、振動特性係数(Rt)は、地震動の周期特性を表したもので、基本は1.0で、建物周期や地盤の硬軟で低減されます。また、層せん断力係数の高さ方向分布係数(Ai)は、建物周期による建物の応答増幅特性の差を表すもので、最下層では1.0になります。建物周期が長いと上層でのAiが大きくなります。建物周期は、建物高さに概ね比例し、鉄骨造の方が鉄筋コンクリート造よりも長周期になります。
許容応力度計算で考えている地盤の揺れ
最下層の層せん断力係数は、C0×Z×Rtとなります。標準せん断力係数(C0)は、中小地震動では0.2、大地震動では1.0を用いています。また、地震地域係数(Z)は、東京・大阪・名古屋では=1.0です。振動特性係数(Rt)は、標準的な地盤(第2種地盤)であれば建物周期が0.6秒以下では1.0、1.2秒では0.8になります。ちなみに、5階建・高さ20m程度の鉄筋コンクリート造集合住宅の周期は0.4秒程度、10階建・高さ40m程度の鉄骨造事務所ビルの周期は1.2秒程度です。
以上のことから、中地震動と大地震動に対して、建物の平均的な揺れとしては、200ガル程度と1000ガル程度の加速度を考えていることになりますが、10階建事務所ビルではその8割程度に低減しているということになります。
Aiを使うと、建物で想定している加速度を逆算することができます。例えば、中小地震動では、平屋建てであれば、1階の揺れは200ガルですが、5階建鉄筋コンクリート造集合住宅では、1階は100ガル程度、5階は400ガル程度になります。一方で、10階建鉄骨造事務所ビルでは、1階は50ガル程度、10階は400ガル程度を想定したということを意味します。
建物の堅さや高さで異なる設計想定震度
このように建物の堅さや高さによって、考えている地盤の揺れや建物の揺れは相当に異なっています。建物周期が長いほど、上層階の揺れは大きく、1階の揺れは小さくなります。結果として、想定している地盤の揺れは50ガル~200ガルと大きな幅があります。震度5弱の下限が概ね60ガル、震度5強の上限が200ガル程度ですから、中地震動では震度5程度を考えていることになります。
一方で、大地震動はその5倍になりますので、250ガル弱~1000ガル程度を考えたことになります。300ガルが震度6弱の下限、1000ガルが震度6強の上限相当ですから、人命を守っている揺れの強さは震度6程度です。ちなみに、地盤の揺れは、大きな地震の起きやすさ、震源からの近さ、地盤の硬軟によって変わりますので、本来は、建設地によって異なるものです。
建物は構造躯体だけでできているわけでなく、沢山の間仕切りの壁なども有りますから、実際の建物の実力は、設計で考えている耐力より大きな場合が多いので、震度7になっても壊れない建物は多くあります。また、相対的に壁の多い低層の建物の方が想定している地盤の揺れが大きく、かつ耐力的にも余力が大きいので、震度7でも被害が微少に留まることが多いようです。