棒茶香る優雅などら焼き。ほろほろ粒餡たっぷり「やそとせ」は中田屋さん80周年記念のどら焼きです
秋が近づいてくると、自動販売機内の温かいお茶の面積が広がってきますね。青が優勢だった自動販売機が、赤と青半々になっていたり。ふと、こんなことを思ったことはありませんか?
「加賀棒茶って、ほうじ茶とは違うの?」
加賀は言わずと知れた加賀百万石の石川県金沢市。そして石川県の特産品の一つとして、ほうじ茶があげられるのですが、それは葉の部分。棒茶は若く柔らかな茎を焙煎したものです。金沢ではこちらのほうが一般的なのだとか。香ばしさと華やかさが共存するお茶は、和菓子にもよく使用されています。
石川県金沢市にお店を構える「中田屋」さんは言わずと知れたきんつばの名店なのですが、きんつばに欠かせないものと言えばあんこ。そしてあんこが必要不可欠な和菓子のひとつといえばどら焼き。そのどら焼きの皮に棒茶を合わせた中田屋さんの「やそとせ」をご紹介。
さて、やそとせ、という聞きなれない言葉。漢字にすると「八十歳」。こちらは中田屋さん創業80周年を記念して作られたお菓子なのだとか。真ん中の立派な「憲」の焼き印は、総御者である中田憲龍さんから。
表面は艶やかで深い栗の鬼皮色。やはり棒茶を使用した皮ということだけあり、一般的な焼き色とはまた異なるこっくりとした色合いですね。立ち昇る優雅な棒茶の風味と香ばしさたるや…。きめの整った皮でもありますね。
がぶり、と歯を立てた瞬間鼻腔に飛び込んでくるお茶の芳香を確かめた後、ほろほろと口の中で転がる大納言小豆たち。もう少し皮はしっとり、もしくは柔らかい方が好みかなぁと思っていたのですが、中の粒餡と出会って納得。なるほど、柔肌の皮だとこちらのあんこに負けてしまうのですね。豆立ちの良さが際立つメリハリのついた粒餡には、ある程度張りを備えた芯のある皮でないと、どちらか一方の存在感がぼやけてしまうのでしょう。
互いに持ち味を主張しつつ、一つのどら焼きというお菓子として成り立っているんですね。なるほど、深い。そして勉強になりました。