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「JUDGIT!」国が何をしているか発見できるサイト

加藤秀樹構想日本 代表

1.国の予算の検索サイト

今や私たちは、スマホにキーワードさえ入れれば、買い物もホテルの予約もできるし、世界のニュースを知ることもできる。ところが、私たちの税金で行われている政府の予算や事業はこれまで全くその埒外にあった。

国も地方も多くの統計情報を公表しているが、それらはもともと行政が使う目的で作られているため、多くの国民も、企業も、メディアも本当に知りたいことがなかなか分からない。

これらがデータベース化されたら、一気に国や地方の状況や行政の中身が見えてくる。

構想日本は、政府の情報の中でも核心に位置する「予算」をデータベース化し、キーワード検索で誰でも使えるようにすることに成功した。そのサイトがJUDGIT!だ。

ここで重要なことは、予算の何をデータベース化したかだ。

それを知ってもらうことが、このサイトを有効に使い、政府の予算や事業について多くの人が様々な「発見」をすることにつながるので、少し説明したい。

実は、従来の予算関連資料には、事業の詳細や具体的な目的は書かれていなかった。ほとんどの国民はこれを見ても何もわからない。だから国会の予算委員会でも事件やスキャンダルの追求は多いが、予算の中身の議論は深まらなかった。

2.行政事業レビューシート

2008年、自民党が行政改革を進めるために党内に作った「無駄撲滅チーム」の一つの班(班長 河野太郎議員)で、日本初の国の事業仕分けを行った(余談になるが、その時にも、後に話題になったスパコン事業は「ハードだけ作っても有効に使えない。不要」という結論になっていた)。構想日本はそれに協力し、議論の基礎資料とするため対象事業の「事業シート」を初めて作った。

「事業シート」とは、従来の予算資料にかわり予算や事業の実態が分かるように作ったもので、行政機関が行っている事業毎に「何が目的か」「事業の内容」「予算額」「事業予算の支払い先」「どんな成果があったか」など約30項目をフォーマット化して各省の担当課が記入する。

翌年、民主党政権となり、政府による事業仕分けが行われた際もこのシートに基づいて議論された。その後安倍政権になってから現在に至るまで「行政事業レビューシート」と名を変えて約5,000ある国の事業すべてについて継続して作られている。

今回は、2015年度以降の「行政事業レビューシート」をデータベース化し、キーワード検索できるサイトとしてオープンしたものだ。だから、何か知りたいこと、疑問に思うことをキーワードで検索したら、是非その関連「行政事業レビューシート」を読んでいただきたい。これを読み込むと国が何をしているのか、そんなにお金をかける必要があるのかなど、様々なことが分かる。

3.JUDGIT!から分かることの例

JUDGIT!では、キーワードを入れることで国が行っている事業を様々な面から検索できるため、例えば以下のようなことが分かる。

(1)「人気ラベル」には重複事業が多い

サイトの検索項目の一つである「行政事業検索」から「まちづくり」というキーワードで検索してみた。さらに画面左側の項目で、【実施方法】に「補助」、【実施年度】に「2019」を入れて絞り込んでいくと22件がヒットする。

画像

※検索結果⇒https://judgit.net/projects?keyword=%E3%81%BE%E3%81%A1%E3%81%A5%E3%81%8F%E3%82%8A&condition=and&method=%E8%A3%9C%E5%8A%A9&projectYear=2019

それを省庁ごとに見ていくと、国土交通省は、都市局では「景観」、水管理・国土保全局ではインフラ整備など、様々な切り口で「まちづくり」に関連した事業がある。

文化庁には「歴史活き活き!史跡等総合活用整備事業」として文化歴史の観点から、スポーツ庁には「スポーツによる地域活性化推進事業」としてスポーツの観点からの「まちづくり」の補助事業がある。

ところが、補助を受ける側はだいたいが市町村であり、これら自治体からすると各省庁が示す補助事業の「趣旨」ではなく、「自分の町で行う事業に合うものはあるか」という視点で補助事業を探している。要するに国の省庁、その担当局は、自分の所管業務の枠の中で町づくりにつながる事業を考える。そして、それを並べると22種類にもなる。ところが、現場である自治体からすると、目の前の現実に合った事業、そのための補助が欲しい。各省庁が頭で考えた事業にそのまま合うわけではない。無理やりその枠の中に入れると、私たちが時々感じる、何でここにこれが、といったいかにも中途半端な事業が行われることになる。

22件もの町づくりのための補助事業があるということは、国としては、「まちづくり」というラベルをつけると各省とも予算を取りやすいという事情があることも示している。「まちづくり」を目的とした補助事業がこれだけ細分化、あるいはファッションのようになっていいのだろうか。

(2)「年金」を検索すると意外な事業が引っかかる

今、話題となっている「老後2,000万円」問題。一昔前には「消えた年金」の話も出ていた。つい先日(2019.7/22)は、日本年金機構が個人情報の入ったDVDを紛失したニュースが流れた。とかく「年金」については話題が多い。

そこで、「行政事業検索」で「年金」「文書」を入れて検索してみると、厚生労働省の「年金関係文書等保管事業」がヒットした。これは、文書保管のための倉庫に毎年約11億円の借料を払う予算だ。どういうことかというと、「年金」に関する文書は、公文書法の文書規定にある保存年限以上にを保管する。そのために民間の倉庫を借りる予算がついているのだ。

これは、先に述べた「消えた年金」に端を発しており、「今後は問題が発生した際に記録を確認できるよう、長期間にわたって年金文書を保管しておこう。」ということで始まった事業なのではないか。

そもそもこれが「事業」と言えるのかと思うし、このご時世に年間11億円もの税金を使って紙文書を保管することが本当に必要なのだろうか。行うべきことは、再発防止のための適切な管理と、年金の適切な交付、そしてきちんとした記録の保全である。これらのことをどこまで真剣に考えたのだろうか。11億円をムダだと決めつけるつもりはないが、国民の税金を軽く考えてはいないか。

厚生労働省「年金関係文書等保管事業」
厚生労働省「年金関係文書等保管事業」

※検索結果⇒https://judgit.net/projects?keyword=%E5%B9%B4%E9%87%91%E3%80%80%E6%96%87%E6%9B%B8&condition=and

(3)「支出先一覧」からは多くのことが見えてくる

JUDGIT!は各省庁の予算の支出先についても検索することができる。

「主要支出先検索」のページに移動してみると、国からの支出額の大きい順にリストが現れる。リストの一番に出てくる「全国健康保険協会」は健康保険のほか船員保険などを管掌している団体のため、支出金額が大きいということが分かる。

「行政事業検索」から各事業のページに入った場合、支出先一覧を確認できる。この機能の活用方法は、国からどこにお金が流れているかのチェックだけではない。例えば、国の事業を受注したい企業や団体にとっては、事業の特徴や競合他社を調べられるなど、ビジネスの観点からも活用できる。

主要支出先検索
主要支出先検索

※検索結果⇒https://judgit.net/payees

(4)事業は「当初予算」だけではないことも見える

一口に「国の予算」といっても、基本的な年間予算として決められる「当初予算」、当初予算が不足しそうな場合に追加して決められる「補正予算」、「前年度からの繰越し」「翌年度への繰越し」などいくつかの項目があり、それらの足し引きによって最終的な金額となる。

「行政事業検索」で「宇宙」を検索してヒットする、文部科学省の「国際宇宙ステーション開発に必要な経費」を見てみよう。ページの中段に現れる予算額・執行額の表の2017年度には、当初予算約287億円、補正予算45億円、前年度からの繰越し17億円となっているが、結局56億円が翌年度に繰り越されている。そんなことなら補正予算を組む必要はあったのだろうか。

文部科学省「国際宇宙ステーション開発に必要な経費」
文部科学省「国際宇宙ステーション開発に必要な経費」

※検索結果⇒https://judgit.net/projects/2796

当初予算と異なり補正予算には国会審議などのチェックがほとんどない。その結果補正予算の大盤振る舞い的なことが最近よく見られる。この事業については何か事情が背景にあるのだろうか。どなたか是非調べてみていただきたい。

4.国のことを「自分ごと」に

7月11日にサイトをオープンして以来、ページビューは13万を超えた。この間に参院選挙があったこともあり、キーワードとしては「選挙」が最も多く約2,200件、ついで「オリンピック」だ。

ツイッターなどを見ると「このサイトはすごい!」といったものが多く、ありがたいと思うが、このサイトが本当に威力を発揮するのは、検索した後、もともとの「行政事業レビューシート」を読んでもらうことによってだ(各事業のページの一番下に、年度ごとのレビューシートへ飛ぶボタンがある)。調べたいことの元データはそこにあるからだ。ジャーナリストであれば、それを元に様々な取材ができる。

近く消費税率が上がる予定だが、税金は少しでも無駄なく使ってほしいものだ。そのためには政治家や官僚に任せきりではなく、できるだけ多くの人がいろんな面からチェックすることが一番だ。

もちろんこのサイトは予算のチェックだけが目的ではない。国の事業を受注したい企業にとっては事業の特徴や競争相手を調べることができる。特定の分野の補助金についても調べられる。国の予算や事業について何かを調べたい人がそれぞれキーワードを入れて検索すればいいのだ。

誰でもが国がしていることについて知りたいことを知り、何かを発見する。それがJUDGIT!だ。国の予算や事業を通して政治・行政が多くの人にとって「自分ごと」になる。政治・行政は、緊張感が出てレベルが上がる。それがJUDGIT!の目指すところだ。

★JUDGIT!サイトはこちらから ⇒ https://judgit.net/

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

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