Yahoo!ニュース

国民と政治家。こんなに違うのか!お金の扱い方。

加藤秀樹構想日本 代表
(提供:イメージマート)

1.国民の常識、政治家の非常識

 政治がカネで大揺れに揺れている。

 メディアは連日検察の捜査や政局について報道し、岸田総理や野党も政治資金規正法の改正に言及し始めた。

 しかし、これでは「揺らし方」が全然足りない。

 問題は政治資金の規正の仕方だけでなく、政治家とカネ全体、さらには政党のガバナンスの話だからだ。政治の世界では、私たち国民や企業が普通に守っているルール、国が決めたルールが守られていないことがたくさんある。例えば私たちは、

 ・個人のサイフと会社のサイフをごちゃ混ぜにしてはいけない。

 ・もらったお金、収入は税務署に申告しないといけない。

 ・何かの事業に国や自治体などから(税金による)「助成金」をもらった場合、     細かな収支報告を提出し、お金が残ると返さないといけない。

というのは常識だと思っている。ところが、政治の世界ではそうではない。逆に「ごちゃ混ぜ」「申告しない」「返さない」が常識になっているように見える。

 元総務大臣がいみじくも言ったように、国民の常識と逆のことが自民党内で「文化」になっているのだ。それは野党を含め他の政党にも及んでいると思う。

 こういったことを国会議員について整理してみよう。

2.日本の国会議員が使っている税金等

 税金や非課税のお金がどれくらい国会議員に使われているかざっと見てみよう。

 まず、議員個人に支払われる歳費(給与)や様々な手当の合計が、一人当たり年間で約8,000万円、衆参議員全体で約600億円だ。これはいわば議員の個人事業主としての収入だ。

 次に、国から政党への助成金が300億円余り。そして、いま問題になっている議員の後援会や派閥などの政治団体に入る寄付、パーティー代金などの政治資金が約300億円。これは個人や企業などが出す金だが、非課税だ。これらをあわせると年間に約1,200億円にのぼる。

 アメリカは政党の役割が日本やヨーロッパとかなり違うが、日本と比較的似たヨーロッパの主な国と比べても、日本は相当多額の税金を使っている。

 以下、いま問題になっている政治資金と政党助成金について見ていこう。

3.サイフのごちゃ混ぜ

 政治資金とは、単純に考えると政治家や政党などが「政治活動」を行うために個人や企業などから集めるお金だ。つまり、

 ・お金の出し手:個人、企業、組合など

 ・集め方:寄付、パーティー券販売など

 ・お金の受け手:政治家、政治団体、政党など

ということだ。

 ところが総務省の資料(図1)を見ると、寄付者=お金の出し手として政治家や政治団体、政党が並んでいる。

図1:寄付の量的制限の概要(総務省自治行政局選挙部政治資金課「政治資金規正法のあらまし」より)
図1:寄付の量的制限の概要(総務省自治行政局選挙部政治資金課「政治資金規正法のあらまし」より)

 実は今回のウラ金疑惑の背景の一つはここにある。安倍派の政治団体=清和会がパーティー券を売って得た収入の一部を派閥の議員に渡したというのは、清和会が金の出し手になっているということだ。元々は個人や企業が出したお金が、政治団体、政党の間で「やりとり」され、その過程で一部の金が収支に記載されず、ウラ金になっているのだ。この「やりとり」が多くなれば、「漏れ」たり「隠され」たりする可能性は増える。

 また、多くの国会議員は自分の選挙区にある政党支部の代表者になっている。しかも、政党の支部は選挙区に一つと限ったわけではなく、市、町ごとにある場合が多いので、自分の選挙区内にいくつもの支部がある。政党支部とは言っても、会社のように本社と支社の関係、分担が明確にあるわけではなく、実態として支部は個々の国会議員の政治団体と変わらない。これがサイフのごちゃ混ぜ問題だ。

 図1の「受領者」の欄を見ると、政治家や「その他の政治団体」(政党を除く)に対する企業の寄付が禁止されていても、政党(支部を含む)への寄付はできるから、完全に抜け穴になっている。ごちゃ混ぜの結果、こういうことになる。

 図2は図1から金額の制限などの記述を取り去り、「禁止」部分だけを残したものだ。議員個人、政治団体、政党(支部を含む)の間で金が自由に動かせる限り、一部の献金を禁止しても何の意味もないことが一目瞭然だ。

図2:図1をもとに構想日本が作成
図2:図1をもとに構想日本が作成

4. 助成金は使いっぱなし、所得の申告はしない?

 図3は、自民党の政治資金収支報告書から作成したものだ。党から幹部議員に対して「政策活動費」として多額の金が支出されている。念のため言っておくと、これが問題だというのではない。金額の違いはあるが、野党でも同じ金の支出がある。この金の原資は政党助成金や寄付、パーティー代金などだろう。

図3:議員ごとの「政策活動費」受け取り金額
図3:議員ごとの「政策活動費」受け取り金額

 これについて岸田総理は、衆議院予算委員会で次のように説明している。

「自民党における、いわゆるこの政策活動費ですが、党に代わって政策立案ですとか、調査研究、そして党勢拡大を行うために、党役職者の職責に応じて支出しているものであります。」

 趣旨はその通りだと思うが、ここには大きな問題がある。

 ① 「政策活動費」とは何なのか、税金や非課税の政治資金を使っているのだか    ら、お金の出し手に対してきちんとした説明が必要ではないか。

 ② 民間企業や団体が国や自治体から助成を受けると、極めて詳細な収支報告書 (領収書などの添付を含め)が求められ、説明がつかない金は返さないといけない。ところが、政党助成金自体の収支報告書では抽象的な「組織活動費」といった説明だけで、帳尻は常に、もらった金=すべて経費として使った、すなわち残金ゼロとなっている。なぜ政党、政治家にこんなにも甘いのか。

 ③ 政党が党幹部に金を渡すと、それは受け取った議員個人にとっては収入になる。税務上は「雑所得」となり、所得税の対象だ。ところが、こちらも使途の詳細な説明はないままに、すべて「必要経費として使い切った」ということになっている。おそらく、「必要経費を控除して雑所得いくら…」と言って税務署に申告している議員は与野党ともにいないだろう。政治家個人に渡された資金は、政治資金収支報告の対象にはなっていないから、使途はどこにも出てこないのだ。

 以上のことをまとめると、政治資金とか政策活動費の内容がブラックボックスのまま、入ってきたお金をすべて使い切れば、すべてが経費でした、だから税金を払うこともない、助成金を返すこともない、何に使ったか言わないし、聞かれもしない、ということなのだ。庶民感覚からすると信じられない。なにしろ国民や企業には「真っ白なボックス」が求められているのだから。

5.なぜ政治家にはブラックボックスが許される?!

 政治資金についても、規正法によって監査が義務付けられている。総務省の「政治資金監査に関する具体的な指針(マニュアル)」によると、その目的、基本理念は、

1. 政治資金規正法は、政治活動の公明と公正を確保し、それにより民主政治の健全な発達に寄与することを目的とするものである。


2. 政治資金の収支の状況を明らかにすることがこの法律の本来の目的であり、これに対する判断は国民にゆだね、政治献金についての国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用すべきこととされている。

 ということだ。

 1.は大変立派だが、2.はよく分からない。一体何を「国民の判断にゆだね」るのか。何が「国民の自発的な意思を抑制すること」になるのか。

 もう少しこのマニュアルを読んでみよう。

 まず、この「監査」は政治団体のうち「国会議員関係政治団体(*)」の収支報告だけを対象としている。

 ここで図2をもう一度見ていただきたい。政党支部や政治団体間で資金を自由に動かせる状況で、監査の対象を限定したのでは、全体の把握は全くできない。

 また、マニュアルによるとこの監査の基本的性格は「会計事務に対する外形的・定型的な監査」であって、「政治資金の使途の妥当性を評価するものではない」。そして、その理由は「政治活動の自由を尊重することが求められる」ということだ。さらに、「政治資金監査は当事者間の相互信頼に基づく監査である」と断言している。

 相互信頼の結果が「黒いボックス」となり、国民総不信をもたらしたということなのか。民間ではこれは「監査」とは呼ばないし、このレベルの報告で上の基本理念で言う「国民の判断にゆだね」るのは無責任だろう。

 個人だって企業だって「活動の自由」が尊重されるべきだからこそ「使途の妥当性」が厳しく求められる。そして相互信頼に基づいて「白いボックス」を目指す。民間ではブラックではなく「グレーボックス」が発覚するだけでも社会から糾弾される。

 政治活動は、本来「公益」が目的であり、企業活動のように活動と成果の関係が明確でないのは事実だ。それにしても、と誰しも思うだろう。そしてその結果が「公益」に反することになっているのだ。

 収支報告書の公表の仕方についても触れておこう。

 政治団体の収支報告書は、その団体の活動が一都道府県に限られるか否かで、報告先が都道府県の選挙管理委員会か総務省かになる。多くの政治団体は都道府県の選挙管理委員会に報告し、選挙管理委員会がそれを公表する。今はオンライン公表され、閲覧だけでなくダウンロード、プリントアウトもできる。ところが同じ議員の政治団体でも、団体ごとに紙の資料をPDF形式で公表しているため、利用する側からすると大変使いにくく、データとしての汎用性も低い。ある議員の政治資金収支の全容を把握しようとしたら、自分で名寄せ、収支の再整理をしないといけないのだ。

 さらに驚くのは、この収支報告書は提出後でも訂正が可能なことだ。訂正は手書きで押印されていることが多いため、これでは利用者がデータとして使えない。しかし、それ以上に、監査後に訂正できる収支報告があっていいのだろうか。

6.”解き方”を間違ってはいけない政治資金問題

 これまで見てきた問題に対して、何をしないといけないのか。簡単に方向性だけ示してみよう。

 まず、「絶対注意」なのは、政党や国会あるいはマスメディアで政治資金規正法の改正、とりわけ資金の金額制限など(図1から図2への書き換えで削除した部分)を厳しくしようといった議論だ。金のやりとりを放置したまま一部の資金の規制を強めても、これまでの法改正と同じく何の効果もない。要は、ブラックボックスをなくすことなのだ。

 そのためには、

 ① 政治団体を一つに絞るか、または政党支部を含め一つの「政治資金管理団体」ですべての資金収支を統括する。

 ② 監査を外形的・定型的なものから、使途にまで踏み込んだものにする。

 ③ ②と併せて、政治資金と政党助成金の収支報告を具体的な使途が分かるものにする。

 ④ 政治資金規正法だけでなく、①~③に併せて政党助成法の改正も行い、さらに政党のガバナンス確立(本部・支部の関係や党役員の責任の明示など)のために政党法を制定する。

ことが必要だ。

 政治の劣化は必ず国の地盤沈下をもたらす。せっかく政界がこれだけ揺れてくれているのだから、この機会に政治の骨格を立て直さないといけない。総理も「火の玉になる」と決意を表明しているのだから、是非「(自民党の)禍を転じて(日本の)福」と成してほしい。

*国会議員が代表者になるなど、関係が特に深い政治団体。

構想日本 代表

大蔵省で、証券局、主税局、国際金融局、財政金融研究所などに勤務した後、1997年4月、日本に真に必要な政策を「民」の立場から立案・提言、そして実現するため、非営利独立のシンクタンク構想日本を設立。事業仕分けによる行革、政党ガバナンスの確立、教育行政や、医療制度改革などを提言。その実現に向けて各分野の変革者やNPOと連携し、縦横無尽の射程から日本の変革をめざす。

加藤秀樹の最近の記事