政治とカネ ―国民が「納得」し「共感」するために
5月にこのコラムで「政治とカネ」について提言を書きました。今回はその続編で具体策です。
1.政党に企業会計を適用する
前回の「提言」を具体的なものにするため、構想日本はこの半年間、専門家と検討してきました。近く、政治資金規正法の改正案として公表する予定ですが、内容を一言で言うと、政党や政治団体も、企業や公益法人と同等の財務諸表を作り、外部監査を受けるというものです。今さらそんなこと、というほど当たり前のことですが、前回も書いたように、政治の世界の資金管理はそれぐらい“ずさん”だということです。
具体的には以下のようなことです。
① 政党や国会議員が代表等を務める政治団体は、損益計算書(P/L)や貸借対照表(B/S)などの財務諸表を作成、公開し、外部監査を受ける。
② 政党、政治団体間で資金の移動がある場合は、その移動先の政治団体を含めた連結財務諸表を作成、公開する。(連結化することで「資金管理団体を一つにする」という前回の提言が実質的に実現する)
③ 内閣から独立した監査機関を新設して、上述の財務諸表を監査する。
2.政策活動費はどうなるか
この間ずいぶん話題になった自民党の「政策活動費」を例に、現状と企業会計に則って資金管理をした場合の比較をしてみましょう。
「政策活動費」とは、政党に入ったお金の中から、幹事長はじめ党幹部の議員個人に渡されたもので、令和4年分で約14億円にのぼります。
会社に例えると、給与とは別に14億円が役員など個人に渡されたことになります。会社がそのお金を「業務を行うために必要な経費」として渡したものならば、経理上、仮払金となります。そして受け取った役員はどう使ったか領収書を付けて会社に報告し、もし余ったお金があれば会社に返します。他方、会社がその金を役員たちに贈与したのなら、もらった人は自分の個人所得として税務署に申告しなければなりません。
ところが、「政策活動費」の場合、政治資金規正法では個人に渡したお金の使途についての報告は必要なく(贈与的な扱い)、一方、受け取った党幹部は「すべて使い切って手元に残っていないから税務署に申告しなくてよい(法人の経費的な扱い)」と言うのです。
完全に政党という法人と議員という個人が混淆され、ある時は仮払金的に、ある時は贈与的に扱い、報告も納税も行わない「いいとこどり」になっているのです。しかも、その混淆が政治資金規正法では許容されています。一部で言われている「政策活動費」をやめても、こういった扱いが許されている限り問題は解決しません。
しかし、企業会計では個人と法人の混淆は許されませんから、会計方式を整え、財務諸表を作るようにすれば、「政策活動費」問題は解消します。
このほかに、企業並みの財務諸表を作れば、政治団体が持っている資産もすべて記載されます(現在は預貯金は記載されない)から、団体にどれくらいのお金がどんな形で貯まっているかも明らかになります。
なお、財務諸表の整備については、先の国会で政治資金規正法が改正された際の「附帯決議」に、
とあります。国会でここまでの議論は行われているわけですから、私たちやメディアができるだけ大きい声をあげて実現させたいと思います。
3.独立した監査機関
監査機関について最も大事なことは「内閣から独立」しているということです。内閣の中に作られる機関では時の政権の意向に従ってしまうからです。
この点についても改正された政治資金規正法の「附則15条」に
と定められています。こちらも既に道筋はつけられているのですから、新政権が実現すべきことです。
4.政党ガバナンスの確立
以上見てきたように、企業や公益法人と同等の会計ルールを導入することで、政治資金の透明性が増し、資金の動きを通して政党や政治団体の活動のかなりの部分は適切に管理できるようになります。専門家によると、資金管理を徹底すれば組織のガバナンスの8割は確立できると言います。
では残りの2割をどうするか。それには、政党などの組織の構成や権限を定め、議員の行動自体を国民に説明することが必要です。そうすることで、国民が政治家に対して持っている不透明さ、胡散臭さが減り、結果として政治家個人個人の説明負担が減って、本来の政治活動に専念できる効果も持つのです。
議会政治の中核となる政党については、特に、資金管理による自己統治に加えて組織ルールによる自己統治が強く求められます。
主な事項は以下のとおりです。
(1)党組織の役割と権限などの明確化
① 党の機関(主要機関、役員等)の権限、責任、任期
② 政策や役員選任等についての党内の決定プロセス
③ 党と議員、党員の関係
④ 党則、綱領等の党運営に関する基本ルール
(2)選挙の候補者選定の透明化
① 候補者の選定方法や過程を党則で定める
② 候補者の「公認」「推薦」「支持」を定義する
構想日本が「政党法」の制定を10年来提言してきたのは以上の理由からです。政党ガバナンスについても企業にとっては当たり前のことで、「会社法」などで詳細に定められています。
政党法の制定による政党ガバナンスの確立は、かねてより石破総理の持論です。
企業の場合、業績を上げるにはガバナンスをしっかりすることは不可欠の条件です。このことは政党でも同じです。財務諸表に加え、「残りの2割」についても現内閣で実現し、政党のガバナンスを盤石にして、ここから日本の政治が再生するようにしてほしいと思います。
そのためにも、読者の皆さんにもおおいに声を上げていただきたいと思います。