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学校のウサギ飼育は間違いだった?夏は特に危ないウサギの屋外飼育について徹底解説!

いわさきはるかサイエンスライター
Pixabay

子どもの頃、学校でウサギを飼育していたという人も多いでしょう。しかし最近はその数が減っているのをご存じですか?実はウサギはそもそも屋外飼育に向かない動物です。特に暑さに弱く、夏の屋外飼育は命すら脅かします。

では逆になぜ昔は学校での屋外飼育が普通に行われていたのでしょうか?

この記事では、今ウサギを屋外飼育する危険性を今と昔の飼育環境の違いなどと合わせて、サイエンスライターの筆者がわかりやすく解説します。

ウサギは犬猫よりも暑さに弱い

ウサギは暑さに対して特に敏感な動物です。その主な理由は、体温調節の仕組みにあります。

ウサギには汗腺がほとんどないため、私たち人間のように汗をかいて体温を下げることができません。ウサギの主な体温調節手段は耳を通じた熱の放散です。しかし、この方法は周囲の気温が高すぎると、耳の血管を通じて体外に放出される熱量が減少するため、高温化ではあまり役に立たないのです。

さらに、多くのウサギ品種は元々涼しい気候に適応しており、現代の高温多湿な環境には適していません。また、ウサギは体が小さいため、体温の変化が急激に起こりやすく、熱中症のリスクが高くなると言われています。

ウサギにとって快適な気温は15~21度です。26度を超えると、熱中症などの健康リスクが高まります。

犬猫と比較すると、犬は最適温度が18~24度で、32度を超えると危険、猫は最適温度が20~25度で35度以上は危険となっているので、ウサギが特に暑さに弱い動物であることがわかります。

なお、昨年の8月における東京の最低気温の平均は26.1度です。8月の屋外は一日を通してウサギにとって危険な気温であると考えていいでしょう。日本の夏にウサギを屋外飼育することはウサギの命を脅かしかねない危険な行為なのです。

しかし、私が子どもだった20年ほど前までは、確かに小学校などでウサギは屋外飼育されていました。ウサギが暑さで体調を崩してしまった記憶もあまりありません。昔と今でウサギの屋外飼育を取り巻く事情はどのように変化したのでしょうか?

学校でウサギの屋外飼育が可能だった理由

PhotoAC
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昔、学校で普通にウサギを屋外飼育できていたのは、今と比べて気温が低かったことと、飼育されていたウサギの品種が異なるためです。

この20年間で、日本の夏の気温は大きく上昇しています。東京の8月の気温データを見てみましょう。

引用元:気象庁(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php)
引用元:気象庁(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/index.php)

このデータから、わずか20年の間に、東京の8月の日平均気温が3.2度も上昇したことがわかります。この気温の上昇は、ウサギの屋外飼育に大きな影響を与えています。20年前は夜間や早朝の比較的涼しい時間帯があり、ウサギが体温を調節する機会がありました。しかし、現在では一日中高温が続くため、ウサギが体温を下げる機会がほとんどなくなってしまいました。

また、昔の学校で飼育されていたウサギの品種も現在よく飼育されているミニウサギとは異なるものでした。飼育されていたのは、日本白色種など実験用や肉用に改良された品種で、比較的体が大きかったため暑さにもある程度耐性があったのです。

しかし、日本白色種は大人になると5kgを超える大型の品種であるため、ペットとしての人気は出ませんでした。現在は人間用や実験用としての需要もなく、ほとんど見ることがなくなっています。一方、小型のミニウサギはペットとしての人気があり、簡単に手に入ることから学校での飼育にも用いられるようになりました。

しかし、ミニウサギは、体が小さいぶん暑さには弱いウサギです。ミニウサギのルーツであるアナウサギは、本来穴を掘って暑さをしのぐ習性を持っていますが、多くの学校のウサギ小屋では床が掘れる状態にはなっていません。

一方、動物園などでミニウサギが屋外飼育されている場合は、下が土になっていて穴が掘れる環境が用意されていることがほとんどです。動物園では広く風通しの良い場所で、暑さをしのぐ日陰もあり、加えて穴を掘って地中で涼むこともできるという環境で、何とか屋外飼育を行っています。ウサギ小屋やケージではとても耐えることはできないはずです。

さらに、昔の学校での飼育環境も現在とは異なっていました。当時はウサギの健康管理や飼育方法について現在ほど知られておらず、動物福祉の考えもあまり広まっていませんでした。学校で飼育するウサギはあくまで子どもの情操教育を目的としたものだったため、ウサギにとって最適な環境を提供するという考え方自体が一般的ではなかったのです。

リスクは暑さだけじゃない!ウサギは屋内で飼育しよう

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ウサギの屋外飼育のリスクは、夏の暑さだけではありません。寒さもまた、ウサギの健康に悪影響を及ぼします。

ウサギは常に食べ物を消化管に通し続ける必要がある動物ですが、寒さで食欲が落ちると消化管の動きが鈍くなります。これにより、消化管内の食物や毛が詰まってしまい、うっ滞が起こる可能性があるのです。うっ滞はウサギの生命を直接脅かす重大な問題であるため、注意しなければなりません。

また、温度だけでなく、屋外飼育には捕食者に襲われたり害虫が体についてしまったりするリスクもあります。日本の都市部でも、カラスや、タヌキ、イタチなどの小型哺乳類がウサギを襲ったという報告があります。屋外飼育ではノミやダニといった虫に寄生される事も多く、特にウサギの耳に寄生するミミヒゼンダニは感染リスクが高まります。

屋内飼育であれば、年間を通じて適切な温度管理ができ、外敵からウサギを守ることができます。また、ウサギの健康状態を常に観察しやすく、問題が生じた際にも迅速に対応することができるでしょう。

一般家庭でウサギを飼う場合、その健康と幸せを第一に考えるなら、屋内飼育は不可欠です。これから夏本番、人間もウサギも無理せず空調に頼って健康に過ごせるといいですね。

サイエンスライター

保護猫2匹と暮らす理系ライター。猫や犬などペットとして身近な動物の研究をわかりやすく発信します。動物に関する研究は日々進んでいます。最新研究を知っておくと、きっとペットとの生活がより豊かなものになるはず。読めば人も動物もWin-Winになるような記事を書いていきたいと思います。

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