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なぜチェルシーは“98億円”でムドリクを獲得したのか?フェリックス、フォファナ…大型補強とCLの野心

森田泰史スポーツライター
競り合うムドリクとサラー(写真:ロイター/アフロ)

すべてを欲するように、積極的に動いている。

チェルシーが、大型補強を行っている。先日、シャフタール・ドネツクからミハイロ・ムドリクを獲得。移籍金固定額7000万ユーロ(約98億円)+ボーナス3000万ユーロ(約42億円)で、ウクライナの至宝を確保した。

■ムドリクの獲得競争

ムドリクを巡っては、獲得競争が繰り広げられていた。アーセナル、ニューカッスル・ユナイテッド、チェルシー、複数クラブが興味を抱いていた。

アーセナルは、カタール・ワールドカップでガブリエウ・ジェズスが負傷。前線の補強を必要としていた。

ニューカッスルは、2021年10月にサウジアラビアの政治系ファンドを中心とした『コンソーシアム』に買収され、以降、アレクサンダー・イサク、スヴェン・ボットマンらを獲得するなど積極的な補強を行ってきた。

チェルシーでデビューしたムドリク
チェルシーでデビューしたムドリク写真:ロイター/アフロ

強い関心を寄せていたのはアーセナルだ。アーセナルは移籍金7000万ユーロ(約98億円)を準備していたとされ、またミケル・アルテタ監督が「(ムドリク獲得に)チャレンジしている」と認めていた。

アーセナルは【4−3−3】を基本布陣としている。アルテタ監督は選手の配置を重視しており、左サイドにはブラジル代表のガブリエウ・マルティネッリが置かれている。そこにムドリクを加えるというところには、1対1に強い選手を据えて、ドリブルで相手陣形を崩す狙いがあった。昨冬の移籍市場で、リヴァプールがルイス・ディアスを獲得したのに似ているかもしれない。

だが最終的には、チェルシーがムドリクを射止めた。ムドリクを逃したアーセナルだが、ブライトンからレアンドロ・トロサールを引き入れている。

■シャフタールの事情

獲得レースを制したのはチェルシーだった。しかし、無論、保有権を有していたシャフタール側の事情もあった。

シャフタールは今季、多くのプレーヤーを放出せざるを得ない状況に置かれていた。ダビド・ネレス、アラン・パトリック、ペドリーニョ、デンチーニョ、ドド、マーロン…。ロシアとウクライナの政治情勢の影響で、彼らは移籍していった。

「我々はアイデンティティーを失いかけていた。しかし、ムドリクは、これまでシャフタールでプレーしてきたブラジル人のどの選手よりもクオリティが高い」とはシャフタールのダリオ・スルナSD(スポーツディレクター)の言葉だ。

「大袈裟ではないよ。私は、生まれてからずっと、サッカーの世界に身を投じてきた。そんな私から見て、現在、ムドリクはエムバペ、ネイマール、ヴィニシウスの次点に位置するウィンガーだと思う」

ムドリクは2026年夏までシャフタールとの契約を残していた。だがボーナス込みで1億ユーロという破格のオファーが届き、シャフタールが売却を決断した。

■チェルシーの思惑

チェルシーはこの夏、オーナーの交代を行った。政治情勢に顧みて、ロシア人のロマン・アブラモビッチ氏が退任。アメリカ人実業家のトッド・ベーリー氏が新たにオーナーに就任した。

この冬、チェルシーに到着したのはムドリクだけではない。ジョアン・フェリックス(レンタル)、ベノワ・バディアシル(移籍金3800万ユーロ)、ダトロ・フォファナ(移籍金1200万ユーロ)、アンドレイ・サントス(移籍金1200万ユーロ)といった選手が今冬のマーケットで加入した。

夏の段階で、マルク・ククレジャ(移籍金6000万ユーロ)、ヴェスレイ・フォファナ(移籍金8000万ユーロ)、ラヒーム・スターリング(移籍金5600万ユーロ)、カイドゥ・クリバリ(移籍金3800万ユーロ)らをすでに獲得していた。

ベーリー・チェルシーは、2022−23シーズン、4億2500万ユーロ(約589億円)を補強に投じている。

D・フォファナとポッター監督
D・フォファナとポッター監督写真:ロイター/アフロ

一方、見逃せないのは、多くの選手が長期契約を結んでいる点だ。ムドリク(2031年夏)、バディアシル(2029年夏)、W・フォファナ(2029年夏)、D・フォファナ(2029年夏)、ククレジャ(2028年夏)といずれもロングタームの契約が締結された。

これはUEFAのFFP(ファインシャルフェアプレー)への対策、いわゆる“抜け道”だとみられている。高額な移籍金だが、長期の契約を結ぶことで減価償却費を低く抑えられる。年間の支出コストは下がり、FFPには抵触しないという算段だ。

シュートを打つフェリックス
シュートを打つフェリックス写真:ロイター/アフロ

そこまでしてチェルシーが大型補強を行うのには理由がある。水平線には、チャンピオンズリーグ出場権の獲得という目標がある。

チェルシーはプレミアリーグ20試合を消化して暫定で10位につけている。来季のCLに出場するためには、4位以内でフィニッシュしなければいけない。そのためには、戦力アップが必須なのだ。

とはいえ、フットボールは数勘定ではない。大型補強をしても、ビッグプレーヤーを確保しても、戦術的に嵌まるとは限らない。だがチェルシーはすでに舵を切っている。後戻りはできない。判断の材料は、シーズン終了時の結果のみである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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