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今年のアカデミー賞、オッペンハイマーやゴジラも押しのけ、VIPに選ばれたのはワンコだった!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
アカデミー賞の公式Xより

3/11(日本時間)に開催されたアカデミー賞授賞式は、『ゴジラ-1.0』の視覚効果賞と『君たちはどう生きるか』の長編アニメーション賞受賞で日本のメディアは賑わい、一方で主演女優賞のエマ・ストーンと助演男優賞ロバート・ダウニー.Jr.がオスカー像を受け取る際の態度が炎上するなど、さまざまな話題がニュースになったが、授賞式でホッコリを誘った瞬間も忘れられない。

なんと会場の席に犬がいたのだ。オープニングの司会者ジミー・キンメルのトーク時には、彼がキリアン・マーフィーを紹介する際に、その犬がアップになり、まるでキンメルの言葉を理解しているかのように頷いていた。また、ロバート・ダウニー・Jr.が助演男優賞に輝いたシーンでは犬が自分の前脚で拍手する様子が映し出されていた。

写真:ロイター/アフロ

こうして授賞式を盛り上げたことで、その犬は今年の「VIP」に選ばれた。えっ、VIPに選ばれる? MVPではないの……と思ったら、VIPの略はVery Important Pup(最も重要なワンコ)であった。

この犬は、作品賞など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞したフランス映画『落下の解剖学』に出演した、ボーダーコリーのメッシ。現在7歳。名前の語源は、もちろんあのスーパースター。すでにメッシは、カンヌ国際映画祭でパルムドッグ賞(最も優れた演技をした犬に贈られる賞。ほぼ毎年“受賞犬”が誕生)を受賞しており、またも栄冠にあずかることになった。

今回のアカデミー賞に先立つランチョン(ノミネート者が集まる昼食会)にもメッシは出席。スターたちを差し置いて、会場で最も注目を集める存在になっていた。ライアン・ゴズリングらと“交流”する姿はニュースでも報道されていた。

この流れでアカデミー賞の本番にも参加するか期待されていたが、見事に期待に応えて参加。客席での愛くるしい姿が世界中に中継され、またも人気を拡大することになった。

『落下の解剖学』でメッシが演じたのは、主人公一家のペットであるスヌープ。夫が山荘から転落して死亡。事故か、自殺か、あるいは妻による殺害かを描くミステリーで、スヌープはその家の目の見えない息子に寄り添う存在でもある。映画の終盤では、メッシにも衝撃のシーンが用意され、その演技力はたしかにパルムドッグ賞に値するものだった。

そんな名犬メッシにしても、3時間以上にもわたるアカデミー賞の授賞式でおとなしく座っていられるものだろうか? じつはメッシのシーンは、授賞式に先立って撮影されていた。当然といえば当然だが……。

前脚での拍手もさすがに不可能で、人間のサポートが入っている。

ホッコリした瞬間の夢を壊すような話ではあるが、違和感なく授賞式の中継に組み込んでしまうのは、さすがアカデミー賞でもある。そして、このメッシの天才ぶりを知るうえで、『落下の解剖学』は日本で劇場公開中という最高のタイミング。ぜひ、その名演技をスクリーンで確認してほしい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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