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東京五輪の延期の影響は…‥新型コロナ余波がまだ続く韓国スポーツ界

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:つのだよしお/アフロ)

本来ならば本日7月22日から2020年東京五輪が始まるはずだった。

だが、世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの感染拡大によって、大会は来年に延期となり、依然として収束の気配が見えない最近は「再延期」や「中止」といった声も出てきている。

昨日も『USAトゥデイ』が服装の専門家たちの見解をもとに「東京五輪開催は論理的に不可能」と報じた。4年に1度の大舞台を目指して汗を流してきた日本代表の選手たちにとってはもどかしい日々が続くが、それは全世界の選手たちも同じだろう。

(参考記事:「東京五輪開催は論理的に不可能」アメリカメディアが専門家の意見を引用して報じる)

2020年7月に照準を合わせきた韓国の選手たちもさまざまな変更を余儀なくされている。

例えば韓国のお家芸であるアーチェリーだ。韓国は前回リオデジャネイロ五輪でも男女ともに個人・団体の両方を制覇して金メダルを独占するアーチェリー大国で、女子子に関しては「五輪でメダルを獲得するよりも韓国代表になるほうが難しい」と言われているほどだが、男女ともに代表メンバー選考がリセットされた。

本来は代表選抜戦を1次から3次まで行なって最終的に勝ち残った者を東京五輪に送り出す予定で、すでに1次と2次の選考会を実施。最終の3次選抜戦のみを残すみだったが、東京五輪が延期されたことですべてを白紙に戻し、9月から新たなに代表選考会を行なうことになった。

ロンドン五輪とリオ五輪で金メダルのキ・ボベ、リオ五輪で金メダルのチャン・ヘジンなとどがすでに行われた選考会で敗れて代表争いから敗退していた選手たちにとっては挽回のチャンスだが、彼女らを破って五輪切符まであと一歩と迫っていた若手は複雑な心境だという。

ただ、難しい状況に立たされているのは、アーチェリーを含めた各種目の韓国代表選手たちだろう。

五輪種目の韓国代表選手たちは、最新設備が整ったナショナルトレーニングセンターである鎮川(チンチョン)国家代表選手村で寝食をともにしながら練習に明け暮れる合宿生活を送るのだが、新型コロナウイルス感染予防のためにその鎮川選手村が3月26日付けで一時閉鎖。15種目490名の選手・指導者たちが退村を命じられている。

4月下旬になって感染が落ち着いたことで5月中旬からバドミントン、体操、卓球、ボクシング、柔道、レスリング、空手、ウェイトリフティングの代表選手たちが復帰する予定だったが、それも5月12日に発覚したソウル・梨泰院(イテウォン)クラブでのクラスター発生で中止となり、それから2か月が経った今も鎮川(チンチョン)国家代表選手村はクローズドのままなのだ。

そのため、各種目の代表選手たちはそれぞれの所属先で個別練習に励んでいるが、最新鋭設備と充実した衣食住が整った選手村こそが「韓国エリートスポーツの総本山にしてメダル創作所だ」と言われるだけに、運営が再開されても“コロナ空白期間”が来年の東京五輪の結果に悪影響をもたらすのではないかと懸念されている。

大韓体育会は昨年、「東京五輪の目標は金メダル7個で総合10位以内だが、5個が現実的だろう」と目標設定しているが、それを下回ることも覚悟しなければならないかもしれないという意見も聞こえ始めている。

ただ、メディアを通じて伝わってくる選手たちの東京五輪に寄せる思いは強い。

『聯合ニュース』の取材に対して、男子柔道100キロ級のチョ・クハムも言っている。

「予定通りにオリンピックが開かれていれば今頃は東京だったのにとても残念。ただ、オリンピックが中止になるとは思っていない。来年の東京オリンピックは正常に行われるという心構えでこれからもベストを尽していく」

それは韓国だけではなく、世界のアスリートたちに共通する“想い”でもあるのだろう。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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