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強制をやめても大丈夫? PTA改革から5年、その後見えてきた課題とは

大塚玲子ライター
札幌市立札苗小学校(撮影:川崎克彦PTA会長)

 今年度もあと少々。4月からの新年度に向けて、強制的なやり方を見直すPTAの動きが徐々に広がっているようです。

 「強制をやめて、本当にだいじょうぶなの?」と心配な方もいるでしょう。そこで、5年前に強制加入をやめ、入退会や活動を任意にしたことで知られる札幌市立札苗小学校PTAの、川崎克彦会長にお話を聞かせてもらいました。その後、同PTAでは、どんな課題が見えてきたのでしょうか?

*2、3年目以降に備える

 札苗小PTAは2013年度から、前会長・上田隆樹さんの主導で、入退会自由を明らかにしました。このとき「各クラスから〇人必ず出す」という委員会制もやめ、各活動ごとにやりたい人を募るボランティア制を導入しています。自由化した際には、広報紙の作成や廃品回収など、やめた活動もいくつかありました。

 筆者が前・上田会長にPTA改革の話を聞かせてもらったのは、2013年の夏のこと。このときのインタビュー内容は、拙著『PTAをけっこうラクにたのしくする本』におさめられています。

 以降5年間、入会率はあまり変わらないそうですが(毎年90%超え)、同PTAで問題となったのは、活動への参加率が下がったことでした。1年目は、強制だった頃の「参加は義務」という感覚のまま手をあげる保護者が多かったのですが、2年目以降、手をあげる人が減ってきたのです。

 「強制でやっていたときを知る保護者が卒業して減っていくのに比例して、活動に手をあげてくれる人が少なくなってきました。

 2、3年目は、人が足りなくなった分を本部役員でカバーしようとして、役員さんたちが大変なことになってしまいました。ボランティアさんだけでなく、役員のなり手まで見つからなくなり、この頃は悲壮感だらけでしたね。僕が会長になったのが3年目ですが、その頃が一番きつかったかもしれません」

 強制をやめれば、それまでのように人が集まらなくなるのは、やむを得ないことではあるでしょう。先日の記事にも書いたことですが、筆者も個人的に団体(活動)をやっており、イベント時の人集めや運営スタッフの確保には、毎回頭を悩ませます。

 PTAも一般の団体と同様に、強制の代わりに活動内容をアピールし、参加しやすくすると同時に、あとは「集まった人数でできることをやる」と割り切るしかありません。もしそこで、強制のときの活動をただ継続しようとすれば、担い手は苦しまざるを得ないでしょう。

 当時の役員さんたちも、このままではもたないことに気づき、4年目の2016年度から、やり方を見直すことにしました。

 「この年度から、4月の時点で各活動を全部開示するようにしたんです。『何月頃にやります』とか『こういう活動内容です』とか、活動時期や内容をできるだけ詳細に書いたお手紙を配布して、時期が近づいてきたら、再度案内を出すようにしました。

 また、決して強制ということではなく、『できる範囲で、年1回くらいお願いします』といったニュアンスで、声かけをするようにもしました。

 そのテコ入れ以降、立て直してきました。いまは同じ人が複数のボランティアをやれる形なので、重複してやる方はけっこういらっしゃって、それでまわっている部分もありますね」

 たとえば「旗振り(登校見守り)」の活動。これは子どもの安全にかかわる仕事であり、また町内会の人やスクールガードさんも一緒にやってくれる活動なので、「保護者がやらないわけにはいかない」と判断したそう。当初は人集めにかなり苦労しましたが、2016年度以降は、ある程度安定してきたそうです。

 自治体からPTAに委託される「プール開放の監視」についても同様です。プール開放は子どもたちが楽しみにしており、また「PTAがやらなければ誰もやらなくなってしまう」ため続けているそうですが、これも思うように人が集まらず、存続が危ぶまれた時期もありました。でもこれも、再度募集をかけたり、一部の保護者が複数回担当したりすることで、継続しているそうです。

 プール開放の監視については、筆者としては昨年の夏の記事に書いたように、行政が予算を確保してプロを雇うのがベストと考えますが、もし保護者が納得のうえ、責任をもって自主的に監視を行えるのであれば、それはありかもしれません。

 ただし、万が一その保護者が「いやいや、我慢して」監視を担当しているのだとしたら問題です。その場合には、自主的に集まった人だけで無理なくできる範囲まで、プール開放の日数を減らすなど、規模を縮小する必要があるでしょう。

 なお、プール開放に限らず、PRをがんばっても人が集まらない活動は、「不要なものと判断してやめる」という選択もあるはずです。

 念のため川崎会長に「校長先生や行政、地域から、必ずやるように要請されていて、『絶対にやめられない活動』というのはあるか?」とお尋ねしたところ、「それはない」とのこと。

 あくまで会員の保護者が「やってあげたい」と感じる活動を、やっているそうです。

*3、4割でも、やる気のある人がやってくれる

 現在、同PTAでボランティアを募っている活動は、上記の旗振り、プール開放の監視のほか、バザー、花壇の手入れ、開放図書、ベルマーク、おやじの会(餅つき)など。いずれの活動も「人が足りないというほどではないけれど、気を抜くとすぐ参加人数は減ってしまうので、気は抜けない」と、川崎会長は言います。

 「強制する部分がないから、『保護者がやりたくてやっている』という意識は強いと思います。『やらされ感』でやっている人は見かけません。実際に参加してくれる保護者は全体の3、4割でも、十分にやる気のある方がやってくれているので、びっくりするほどPTAの組織が弱体化しているわけでもないですし。

 いまになって思うのは、もしかしたら最初から委員会を全部なくすんじゃなくて、委員長・副委員長くらいは残して、その人たちがボランティアの募集を段取りするような形にしてもよかったかもしれません。うちははじめから全部なくして、一時期、役員さんが仕事を抱えすぎちゃった、というのはあったので」

 これはまさに、やってみたからこそ見えてくるアイデアでしょう。活動の見直しを進めているPTAの方には、とても参考になるのではないでしょうか。委員会という名称じゃなくてもいいでしょうが、各活動の旗振り役を1、2名確保するようにしておく、というのはいいかもしれません。

 今後の課題については、川崎会長としては、このように考えているそうです。

 「せっかく入会したのなら活動にも参加して、そのメリットを感じていただきたい、とは思います。自分自身、父子家庭で、PTAをやってまわりのお母さんに助けられた部分はありました。やってみないとわからないメリット、というのはありますから。

 もちろん、このご時世で『強制』っていうのはない話ですから、『活動の良さを、うまく周知していかないとな』というのが、いまのわたしのテーマですかね」

 なお、3年間会長をやってみて学んだことは「素直に“ごめんなさい”と言えることが、会長の一番の仕事なんじゃないか」ということだそう。おそらくこの間、いろいろご苦労もあったのでしょう。

 しかし、川崎会長のその口調は、決して暗いものではありませんでした。

お仕事中の川崎克彦会長(インド料理 ランゴーリ 店長)
お仕事中の川崎克彦会長(インド料理 ランゴーリ 店長)
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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