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夏休みの学校プール開放、監視を行うのは誰? 安全はタダでは手に入らない

大塚玲子ライター
(写真:アフロ)

 今月初め、四日市市の小学校の“プール開放”で児童が溺れ、意識不明となる事故が起きました。現在は回復しつつあるということで、胸をなでおろしましたが、一歩間違えば、おそろしいことでした。

【伊勢新聞/学校プールで児童溺れる 四日市で救急搬送 三重県】

 同校のプール開放の監視業務は、市から委託を受けたPTAの保護者が行っていました。

 今回は、そもそもプール開放とはどんなもので、監視業務の委託にはどんな問題や方法があるのか、考えてみたいと思います。

 まず、プール開放というのは、学校教育以外の目的で、学校のプールを児童・生徒や、地域住民に開放するものです。現在プール開放を行っているのは、公立の小・中・高校の約2割(公立小学校の約3割)です(平成27年度「体育・スポーツ施設現況調査」)。

 プール開放で監視業務を行うのは、外部委託の業者、教育委員会から委託を受けたPTA、自治体による直接雇用者など、地域や学校によって異なります。

 外部委託の場合、どんな業者にでも委託できるわけではありません。

 2011年、大阪府の学校プール開放で児童の死亡事故が起きたことを機に、2012年に警察庁が要件を強化しており、外部委託できるのは、警備業の認定を受けた業者に限定されたのです。

 以来、監視業務の委託料は大きく値上がりし、また業者の側も人員の確保が難しくなったことなどから、翌年以降、プール開放をとりやめる自治体や、実施日数や校数を減らす自治体が相次ぎました。

 ただし、警察庁が監視業務の要件を強化したのは、有償で外部委託する場合のみです。通達では、PTAが無償で行う場合は該当しないとされており(監視にあたる保護者は無償でも、教育委員会からPTAに対して委託料が出ることはよくあるのですが…)、PTAによる監視はそのまま続けられてきました。

 しかしこれでは、PTAに監視を委託する際は、子どもの安全が確保されません。このままで大丈夫なのだろうか? と不安を感じていたところ、今回の事故が起きました。

 やはり、プール開放の監視業務はプロに頼むべきでしょう。少なくとも素人だけで行うことは、避けねばなりません。

 事故に遭った児童はもちろんのこと、現場で監視当番にあたっていた保護者にも、同情を感じてしまいます。

*外部委託の費用はどれくらい?

 無償のボランティア(自主的活動)以外の方法としては、外部委託をするか、または自治体が直接、人を雇用するやり方が考えられます。

 監視業務の外部委託は、どのように行われているのでしょうか? 2013年からプール開放の監視を警備業者に委託している、千葉県柏市に取材しました。

 「2012年に警察庁から通知が出たのを機に、柏市でも翌年から、監視業務を警備業者に委託するようになり、費用がはねあがってしまいました。

 そのためやむなく、開放するプールを減らしています。以前は、最大20の小学校(市内小学校の約半数)で実施していましたが、現在は12校で、期間も短縮しています。ただし、市内に住む小学生であれば、開放されている12校のプールのどこでも利用できます」(生涯学習部スポーツ課・橋本さん)

 気になるのは、外部委託の費用です。監視業務の外部委託に、どれくらいかかっているか尋ねたところ、今年度の入札額は896万円とのこと。なるほど、それなりの金額です。

 しかし、たとえば市営プールを新たにつくるのに比べたら、ずいぶん安くあがるとも考えられます。建設費や、その後の施設維持費を考えれば、学校プールを活用し、この程度の金額で子どもたちの遊び場を近所に増やしてやれるのは、ありがたいことです。

 市営プールと違って、低学年でも保護者の付き添いなしで利用できる点も、忙しい保護者にとっては大変助かります。

 柏市と同様に、監視業務を外部委託する自治体のなかには、少額ながら利用料を徴収しているところもあります。そのようにすれば、多少は費用を補うこともできるでしょう。

*直接雇用と外部委託の併用も

 外部委託のほか、もうひとつ考えられるのは、自治体が直接監視する人を雇用するというやり方です。

 たとえば福井市の教育委員会では、プール開放の監視業務を、外部委託と直接雇用の併用で行っています。人数比率はだいたい6:4で、外部委託がやや多いということです。

 「今年の夏休みは、市内48の小学校と1つの中学校で、16日間プール開放を行っています。もともとは全て警備業者に委託していたのですが、2012年の警察庁の通達以降、委託費の値上がりに伴って、一部を直接雇用に切り替えました」(教育委員会スポーツ課)

 市が直接雇用する人材は年配者が多いそうですが、元気な方ばかりで、また必ず外部委託のスタッフと組んで監視を行っているということです。

 今年度の予算は、外部委託が1252万円、直接雇用が345万円。人数の比率が6:4程度であることを考えると、だいぶ費用を圧縮できたことがうかがえます。

*安全にはお金がかかる

 監視業務の委託にはお金がかかるんだな、と思われた方が多いかもしれませんが、子どもたちをプールで安全に遊ばせるためには、やむを得ないでしょう。

 PTAに頼めば安く済むのでしょうが、半ば義務として監視にあたっている保護者たちの労働力も、本当はタダではありません。実際に事故が起きたことを踏まえ、今後はやり方を見直すことが必至と考えられます。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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