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未来を考える3つのPの思考軸――プロダクト、プロダクション、プロデュース

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント
出典:Estonia Tool Box

最近、想定外の事象がよく起こる。地震や天災に加え戦争がほぼ10年おきに起きる。2001年の米国同時多発テロ、2011年の東日本大震災と原発事故、本年のウクライナ侵攻などだ。

天災は予測不可能だが被害の大きさは人災といえる。同時多発テロもウクライナ侵攻も米国の対外政策が積もり積もって起きたという見方ができるし、原発事故も東京電力の企業体質に由来する部分があった(近所の東北電力の発電所では起きなかった)。

〇フレームワークで時代を予見する

先の見えにくい時代に役立つのが「フレームワーク」である。フレームワークは写真の画面のフレームと同じく情景の一部を切り取って必要な情報を強調して見せてくれる。そこから抽象思考が進み、類推や推測の幅と精度が上がる。

古典的なフレームワークは「3C」である。カスタマー、コンペティター、カンパニーの略である。まずは顧客のニーズを知れ。競合はだれで何に強いかを調べよ。それから自社(カンパニー)のできること・すべきことを考えよというものだ。

当たり前に思えるが、意外にこれは役に立つ。多くの会社は自社の技術、つまりカンパニーを中心に戦略を考える。しかし消費者ニーズを調べていなかったり、競合の先行を無視していたりする。フレームワークは人生訓、箴言(しんげん)のようなもので、「まずはカスタマーを見よ」「競合の動向をチェックせよ」「最後に自社のスキルを点検せよ」と私たちに語りかける。

〇3つのPで未来を予測する

次の時代を予想するために最近、筆者が多用するフレームワークは「3つのP(プロダクト、プロダクション、プロデュース)」である。

プロダクトとは、商品やサービスそのものを生み出すことである。たとえば自動車の発明。自動車は今までなかったプロダクトである。その発明はそれだけで大きな進歩だ。だが自動車が社会に影響を与えたのは安く量産できたからだ。そこで威力を発揮したのがプロダクション技術だ。鋼板をプレスし、塗装し、さらにジャストインタイム方式で大量生産する。それで低コストで迅速な量産ができるようになった。またそれを見越して道路が整備され、車社会の実現につながった。

今後はどうか。プロデュースという言葉を当てはめてみる。これからは量産だけではなく、それをどう使うか、個別ニーズにどう役立てるかが大切になる。モノのプロデュースとはどういうことか、カスタマー視点から考えてみると、「いつでもどこでも好きなだけ」車が使える状態をつくることとなり、レンタカー、シェアカー、サブスクリプションによるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)などへの展開が考えられる。

自動車産業自体にプロデュースをあてはめると、注文生産で個人の好みに合わせた個性的な車の注文生産のサービスが考えられる(エルメスなど高級ブランドでは富裕層向けにすでにある)。あるいはソニーやもしかしたら将来ヤマダ電機がEV(電気自動車)に参入するのを既存メーカーがプロデュースするといった技術提携が思い浮かぶ。

あるいは自動運転を想定すると、ホンダの車をソニーがプロデュースして社内でエンタメを楽しむ、そこから派生して広告会社がプロデュースした宣伝ラッピングカーのビジネスや広告・話題作りのための派手な車体の運賃ゼロのタクシー事業、さらに車体広告付きの格安あるいは無料のレンタカービジネスなどを思いつく。

〇3Pの農業への応用

農業の歴史に3Pを当てはめてみる。農業でのプロダクトとは、人間にとって役立つ作物の発見と品種の改良だろう。プロダクションは当初は灌漑(かんがい)と暦。そして肥料や家畜の導入、さらにトラクターなど機械の投入による量産技術である。

農業の起源は約1万年前のチグリス・ユーフラテス川流域の麦の栽培だ。定住生活を営むには、余剰食糧の発生と長期保存が必要だが、麦がそれを可能にした。狩猟採集社会では全員が食糧生産に従事した。ところが農業が始まると余剰食糧が発生し非生産階級が登場する。余剰食糧を売買する商人や農具を作製する職人、そして彼らを統治する統治者が登場し、職業と階級が分化して社会構造が高度化した。

やがて広大な地域をまたいで水を供給する灌漑設備ができる。その構築には、労働の大量動員と指導者が必要だった。灌漑は生産性を高め、同時に統治者階級を育てた。耕作スケジュールを決める上では暦が不可欠だったが、その作成には天文学を必要とし、それも統治者の権威付けのツールとなった。

近代に入ると、化石燃料で動くトラクターと化学肥料が登場し、生産力は爆発的に増大する。農家は重労働と家畜の糞尿(ふんにょう)から解放され農業の労働生産性は飛躍的に向上して農業人口は大幅に減った。人々は農村から都市に向かい、食べ物は買って暮らす生活に入った。そして第二次・第三次産業が発展した。その意味で石油とトラクターと化学肥料が近代の都市文明を生んだといってもよい。

〇技術史を捉え直す「3つのP」のフレームワーク

このようにこれまでの農業と社会、経済の関係は「プロダクト」「プロダクション」の2つで見るとわかりやすい。今後はどうなるのか。第3のフレームワークの「プロデュース技術」をはめてみよう。

プロデュース技術は、これまで人間社会を支えてきたプロダクト、プロダクションの技術の上に、個人の欲求の充足を実現するものだ。典型は調理である。外食産業や加工食品は農産物を食べやすく提供するプロデュース産業といえる。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。平和堂、スターフライヤー等の社外取締役・監査役、北九州市及び京都市顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問や新潟市都市政策研究所長を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』『行政評価の時代』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまで世界119か国を旅した。大学院大学至善館特命教授。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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