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中小自治体は専門人材の外注管理を企業に任せようーー人材派遣の「包括業務委託」は行革の最新&重要手法

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント
出典:ESTONIA TOOL BOX

日本国中どこもかしこも人手不足である。特に「エッセンシャル・ワーカー」が足りない。民間企業だとバスや電車、宅配便の運転手、警備員、スーパーのレジ係、機材の保守点検・メンテナンス、保育士、医師、ヘルパーなど。公的分野だと救急隊員、消防署員、警察官、道路や河川のパトロール人材など。彼らの仕事は現地現場のリアルな仕事でありネットサービスや遠隔サービスに置き換えられない。困っている人や設備の場所に赴き、現地現場で特殊技能を発揮し仕事する。必要なら夜中も休日も仕事をする。勤務条件は過酷といえよう。

 ●市町村はエッセンシャルワーカーに依存

 そんなエッセンシャルワーカーを多種、かつ大量に抱える職場が市町村(市役所、役場)である。消防や救急はもとより、道路の補修、ごみ収集、学校給食、保育、学校教員、医師(市民病院の場合)など種類も数も多い。市町村にとって彼らの人事管理は大変な負担だ。そもそも絶対数が不足し特に地方は足りない。おまけに夜勤や非常勤、あるいは夏休みは仕事が少ない(学校給食)、朝忙しい(ごみ収集)など勤務時間や勤務形態が特殊だ。多くの市町村では担当課(学校担当、消防局、保健部門など)が伝手を頼って個々に様々な専門職員を契約職員で雇っている。 

 だが求人から処遇、評価までの人事管理の事務は膨大だ。相手は専門家で自治体職員は事務職員だから業務内容や勤務環境、必要な機材を理解するだけでも大変だ。自治体は人事異動が多いので勉強するだけで一苦労だ。エッセンシャルワーカーの人事管理は自治体にとって過重労働の大きな原因である。

 ●多様な職種の臨時職員を企業がまとめて採用・管理

 こうした課題を包括的な民間への業務委託で解決する動きがある。企業側は外食サービスなどで実績がある大手上場企業だ(A社とする)。自治体は関西の小さな町である(B町とする)。B町では学校給食や図書館司書など約100人にのぼっていた役場の臨時職員の採用や人事管理をA社に一括して委ね、人材の確保、住民サービスの改善、役場職員の負担軽減を同時に実現した。

●「包括業務委託」という手法

 B町(人口2万人)は観光地でもあるが人口減少や財政問題を抱える。10数年前に隣の町と合併して役場業務が増加した。そこで役場は行政改革の一つとして2019年から包括委託を開始した。現在では現場の臨時職員約100人分の業務を「包括業務委託」の形でA社に任せている。

 従来、B町は給食センター、温泉施設、体育館、公園清掃などを司る役場の各部署が現場の作業人材を臨時職員として個々に雇っていた。それが現在では合計14の業務をまとめてA社に包括委託し、かつての臨時職員(合計100人)がA社の社員として仕事をしている。

●包括委託以前の状況

 例えば、包括委託をする以前、生活環境課で直接雇用していた臨時職員10人は、道路・水路(3人)、公園(2人)、公園(2人)、道路・公共用地・公衆便所(3人)の4班に分かれ、各施設の維持管理や清掃を行っていた。しかしそれだけでは手が足りず、役場の職員も清掃など現場の仕事を分担していた。

 手が足りなくなる原因の一つは、公園管理は生活環境課、公園内の遊具とトイレは観光課といったぐあいに担当が細分化されていたからだ。現地では担当課がどこかがすぐにわからず混乱したり、現場で隣の部署が忙しくても本庁の縦割りの壁があるため手伝いにくかった。また役場の各課が別々に臨時職員の労務管理の手続きを行っていた非効率で全部の課が些末な事務手続きに追われていた。

●委託後の変化

 改革後は、庁内各課の14の業務に就いていた役場の臨時職員(約100人)は全員がA社に雇用されることになった。課ごとに行っていた雇用契約や労務管理がA社のもとで一元化された。A社は現場の繁忙状況に応じて人員配置をする。スキルがある人材なら課の垣根を超えて何でもやるようになった。役場の労務管理の事務負担が減ったので由比届かなかった有給休暇の管理なども完全になった。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。平和堂、スターフライヤー等の社外取締役・監査役、北九州市及び京都市顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問や新潟市都市政策研究所長を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』『行政評価の時代』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまで世界119か国を旅した。大学院大学至善館特命教授。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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