「女性の自己決定権を認めよ」...韓国で新法案成立控え'堕胎罪'めぐる議論が活発化
人工中絶について条件付きで妊娠24週までは認め、それ以降は刑事処罰を科す韓国政府の立法案に対し「女性の自己決定権を侵害するもの」という批判が韓国で高まっている。野党に続き、同国の国家人権委員会も反対意見をまとめた。
●「憲法不合致」判決も
刑法269条 第1項
「婦女が薬物やその他の方法で落胎(中絶)した時には1年以下の懲役または200万ウォン(約20万円)以下の罰金に処す」
刑法270条 第1項
「医師、韓医師、助産師、薬剤師または薬種商(医薬品販売業者)が婦女の嘱託または承諾を得て落胎(中絶)させた時には2年以下の懲役に処す」
韓国の刑法では女性の人工妊娠中絶に関しこのように定めている。「堕胎罪」と呼ばれる項目だ。だが今年4月、憲法裁判所はこの2項目に対し「憲法不合致」であると宣告し、合わせて2020年12月31日まで国会が法を改定することを注文した(なお、270条に関しては「医師」のみ違憲を適用)。
当時、裁判官9人のうち、4人が「憲法不合致」、3人が「単純違憲」、2人が「合憲」との見解だった。「憲法不合致」宣告の理由について憲法裁判所は以下のように要旨を明かしている。
○自己落胎(中絶)罪の項目は(中略)妊娠の維持・出産を強要しており、妊娠した女性の自己決定権を制限している。
○妊娠・出産・育児は女性の人生に根本的で決定的な影響を与える重要な問題であるため、妊娠した女性が妊娠を維持または終結させるかの余否を決定するのは、みずからが選択した人生観・社会観を基に、自身が置かれた身体的・心理的・社会的・経済的状況に対し深く悩んで結果を反映する全人的な決定である。
その上で、「胎児が母体を離れた状態で独自に生存できる妊娠22週内外に到達する前であると同時に、妊娠の維持と出産の余否に関する自己決定権を行使するのに充分な時間が保障される時期(決定可能期間)までの落胎(中絶)については、国家が生命保護の手段および程度を別途定められると見るのが妥当だ」とした。
韓国では長年、胎児の生命権と女性の自己決定権の間で、「堕胎罪」をめぐる論争が続いてきた。なお、2012年に同じ内容についての宣告があったが、当時は裁判官8人が4対4で同数となり、「合憲」とされていた。
このような歴史もあり、昨年4月の宣告後にはソウル市内で市民団体の集会が開かれ「もうこれから堕胎罪はない」と喜びの声が上がった。一方、宗教界などからは「無分別な中絶に拍車がかかる」という批判が相次いだ。
●政府案に多数の反対の声
「妊娠後14週までは女性の自己決定権により中絶を認め、15週から24週までは健康上や社会的・経済的な理由があれば中絶が認められる。24週以降は禁止する」。
韓国の法務部と保健福祉部が作ったこんな内容を含む刑法改定案(政府案)が10月に立法予告され、先月24日、国務会議(閣僚会議)を通過したことで今後、国会で審査される。
だがこの法案には「期待に満たないもの」という反対の声が根強い。
韓国女性弁護士会は10月7日の声明で「改定案は依然として女性に犯罪者のらく印を押し、事実上死文化した堕胎罪を復活させたという批判から自由ではない」とした。
また、韓国の代表的な公益法律家団体の「民主社会のための弁護士会(民弁)」も声明を出し「政府案は事実上、堕胎罪を復活させ女性の自己決定権と健康権を侵害する違憲的で時代錯誤的な法案」であるとし、「即時撤回」を求めた(以上『法律新聞』10月12日付け記事より)。
政界からの反発もある。リベラル野党の正義党は先月24日の会見で「どうやっても女性に罪を問うのか」と問い、「政府は罪の意識を要求され、個人の問題として(中絶)を受け止めていかなかった数多くの女性の人生を無視してはならない」と主張した。
さらに、韓国の独立機関・国家人権委員会は先月30日に全員委員会を開き、10人の委員のうち8人が「中絶の非犯罪化の方向で法案が再検討されるべき」という結論を下した(聯合ニュース)。政府案に反対する立場を明確にしたということだ。
憲法裁判所の決定にしたがい、巨大与党の主導で今月中に新法の成立が見込まれる。議論する時間が限られた中で、どこまでこうした声が届くのかが注目される。