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「日本の名目GDPを1,000兆円に」の視点から、日本の経済や国力について考えてみよう!

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
日本の今後はどうすべきか(写真:イメージマート)

 筆者は、本年5月30日付で、拙記事「日本は「失われたX年」をいつまで続けるのか?」を書き、 この30年のデータからみた場合、日本がかなり厳しい状況にあることを指摘した。

 本記事では、そのような状況も踏まえて、日本の国の力の現状および今後の可能性について考えていきたい。

 国の力である「国力」について考える場合、米国のCIA情報担当副長官や国務省情報調査局長、ジョージタウン大学教授などを歴任したレイ・クライン氏(Ray S Cline)が考案した「クラインの方程式『国力=((基本指標:人口+領土)+経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)』」が有名だ。

 だが、筆者は、国際および世界の状況や環境が大きく変化してきているなかで、「新しい方程式」が必要だとして、拙記事「試論:「国力の方程式」再考」で、「国力=([基本指標:人口+領土<含地理的位置・地勢>]+経済力+軍事力+新興要素-環境要素)×(戦略目的+国家意思)±非国家アクター力」を提唱した。

 これらの方程式に必ずしも基づくものではないが、国力ランキングというものがある。同ランキングでは、図表1のように、米国が1位で、中国、ロシア、ドイツ、英国が2位から5位を占めた。韓国が6位で、昨年6位だった日本は2段階順位を下げて8位だった。

 このランキングは、マーケティングおよびコミュニケーション専門企業VMLY&Rの系列会社のBAVグループとペンシルベニア大学ウォートン校が全世界のおよそ1万7000人を対象に調査したものを、「U.S. News and World Report」が発表している「世界最高の国ランキング2022」の一部。全体のランキングは、世界85カ国・地域における「冒険性」「敏しょう性」「文化的影響」「起業家精神」「文化的遺産」「移動人口」「ビジネスの開放度」「国力」「生活の質」「社会的目的」など10の要素の点数を基にした順位である。

 このように日本の国力は、国際的に低下してきていることがわかる。

 国力は、その方程式からもわかるように多面的な要素からの評価や判断が必要であるが、本記事では、テーマをよりわかりやすくするために、経済にフォーカスして論じていく。社会や国について考える場合に、経済がすべてではないが、国の力や影響力を考える際における重要な指標として考えていいだろう。

 図表2「名目GDPランキングの推移」をみればわかるように、日本は、「世界第2位の経済大国」と呼ばれる期間が長く続いたが、2010年に中国に抜かれ、「世界第3位の経済大国」となった。なおユーロ圏も一つの経済圏であると勘案すると4位となる。2023年にはドイツにも抜かれ、4位(EUも入れると5位)になった。他方、中国のGDPが急激に拡大、米国もある意味堅調に拡大してきている。

GDPの国際ランキングで日本はその順位を低下させてきている
GDPの国際ランキングで日本はその順位を低下させてきている写真:イメージマート

 またゴールドマン・サックスは、グローバル・ペーパー『2075年への道筋-世界経済の成長は鈍化、しかし着実に収斂』を先に公表したが、その中で、図表3「世界のGDP国別ランキング推移(1980年~2075年)」を発表している。

 また同ペーパーでは、次のようなことが示されている。

・今後30年間に世界GDPのウエートが(さらに)アジア諸国へと傾き、2050年には中国、米国、インド、インドネシア、ドイツが(米ドル建て換算で)世界5大国になる。

・予測期間を2075年まで延長すると、急速な人口増加の予想されるナイジェリアやパキスタン、エジプト等の国々が、適切な政策や制度を伴なった場合は、世界経済大国の上位に食い込む可能性がある。

・日本は、経済大国から外れる大きな可能性がある。

 そして、図表4「一人当たりGDPランキング推移」、図表5「日米とNIESの一人当たり名目GDP推移」からもわかるように、日本の一人当たりGDPは、2007年にシンガポール、そして14年に香港に抜かれた。2022年に台湾、23年に韓国に抜かれると、NIES(新興工業経済地域)であるアジア4か国・地域のすべてに抜かれることになる。このようにして、2000年代以降、そのランキングを急速に低下させてきている。

 以上のようなことから、日本の国力は、停滞してきているか、あるいは伸長してきていないのである。別のいい方をすれば、他国が伸長し、日本のランキングが低下してきているのである。その結果、国際社会において、日本の国力そして存在感は確実に低下してきている。

日本の国際社会での存在感も低下してきている
日本の国際社会での存在感も低下してきている提供:イメージマート

 他方で、現在の日本にも可能性や潜在性はある。また社会や組織の一部では大きな変化も起きてきている(注1)。

 しかし、日本の社会や国家全体としては、大きな変化を受け入れ、進展そして成長という意欲や意思・意志が欠落あるいは少ないのが現状である。

 そのようなものが生まれる環境を生むには、多様性と労働市場での人的移動の向上がされ、社会全体に変化が起きやすい環境を生み出していくことが必要だろう。そのような環境が形成されれば、日本社会でも、その進展や変化への意欲や姿勢が生まれてくるようになるだろう。

 その場合、日本は、エコノミックアニマルといわれようと、軍事力などよりも、やはり経済を中心にして社会のヴァージョンアップを図ることが必要だろう。その視点から、最近注目されている「経済安全保障」(注2)における問題・課題でも、守勢でなく、積極的で創造的な姿勢で対応していくことが必要だ。

 では、どうすればいいか。

 まずは手始めに、日本の名目GDPを「1,000兆円」規模にすることを目指すことに決めてはどうだろうか。そして、その実現のために、あらゆる政策や手段を駆使するのである。

 1,000兆円という数字は、今の日本のGDPの規模からすると困難な数字であると思われるかもしれない。

 だが実は、次のように考えることができるのである(図表6参照)(注3)。

 1992年の日本の名目GDPは505兆1278億円であった。それから2023年までの31年間の先進国平均成長率は2.06%であった。その成長率を、日本に適応すると、1992年505兆円規模だった日本の名目GDPは、少なくとも2023年には950兆円規模になっていたはずなのである。もし成長率が2.50%(同時期の全世界平均成長率が3.47%であることを踏まえると、無謀な数字であるとはいえない)であったら、2023年には、日本の名目GDPは1,086兆円規模になっていたのである。日本は、先進国で成熟国だから、以前のような成長はありえないといわれてきたが、その予想数字をみればその見解は間違った指摘であることがわかるだろう。

 最近の日本をみると、日本はもはや先進国であるとはいえない。中進国の先頭グループに属する程度の国になってきているのである。

 そして、日本がもし今中進国であるとするなら、全世界平均成長率3.47%(1992年から2023年の平均)を、日本の名目GDPの成長率に適用することを考えることも可能だろう。その場合、2023年には1,454兆円規模になっていたはずなのである。

日本経済は進展・発展の可能性がある
日本経済は進展・発展の可能性がある写真:イメージマート

 このように考えると、日本の名目GDPを1,000兆円にすることは決して無理筋ではないことはわかるだろう。

 日本の名目GDPを、現在の588兆円から1,000兆円規模にすることを計算してみると、次のようになる。なお、日本の1992年から2023年の間の日本の成長率は0.84%であった。

・年6%の成長を10年間継続できれば、1,055兆円規模に。

・年3%の成長を20年間継続できれば、1,064兆円規模に。

 日本は、極端ないい方をすれば、日本が社会的な進展・成長が遅れてきていると考えるならば、それは逆にすでに先進国等で進んでいるDXやGXなどの先進事例を積極的に導入するだけで、全世界平均成長率を実現でき、20年間以内(15年間程度でも可能であるかもしれない)で、日本の名目GDPを1,000兆円規模にすることは必ずしもありえないことではないということができるのではないだろうか。

 その意味において、まず「日本の名目GDPを1,000兆円にする」(目標として、今後15年間で)と決めて、バックキャストして、これからどのような政策や対応をすべきかを考えてみてはどうだろうか。

 このような視点や発想から、新しい日本の可能性を生み出していけるだろう。

(注)上図表は、IMF World Economic Outlook、世界銀行、日本経済研究センター、ライフコリア、ゴールドマン・サックスなどのデータや情報あるいはそれを基に筆者作成。
(注)上図表は、IMF World Economic Outlook、世界銀行、日本経済研究センター、ライフコリア、ゴールドマン・サックスなどのデータや情報あるいはそれを基に筆者作成。

(注1)この点については、別の機会に論じることとする。

(注2)経済安全保障とは、国家の主権や独立、国民の生命・財産などの国益を経済面から確保することであり、安全保障上の脅威の観点から、国家や国民の保護を目指すという取組みのことである。その具体的手段・方法は、半導体やエネルギー等の重要な物資・資源の確保、先端技術の開発・保護などの経済活動を通じて行うものである。

(注3)日本の2023年の名目GDPは588兆5734.2億円(2023年10月時点IMF推計)。また成長率は、1992年から2022年の平均。2021年および2022年のデータはIMF予想値。データの出所は、IMF World Economic Outlookである。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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