『銀魂』お妙さんの「卵焼き」は真っ黒。いったいどんなモノか、自分で作ったら大変なことに……!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
『銀魂』には、印象深いエピソードがさまざまあるけど、これもその一つ……いや、インパクトでは筆頭クラスかもしれない!
それは、お妙さんが作った「卵焼き」だ!
志村妙さんは料理が壊滅的にヘタで、彼女が作る卵焼きは、完全に真っ黒なフレーク状だ。人々は、それを「ダークマター」と呼ぶ。
しかも食べると、気絶したり、記憶を失ったり……!
いったいどれほどキケンな料理なのか!?
それを知るために、筆者は自分でも作ってみることにしましたぞ。
◆食べた人の命がキケン!
お妙さんの卵焼きを食べた者には、凄絶な運命が待っている。
弟の新八は、卵焼きが原因で目が悪くなった。
近藤勲は気絶して、目覚めたときには記憶を失っていた。
目に入った山崎退は「刺さったァァ」「焼けるゥゥ」と悶え苦しみ、お通ちゃんは血を吐いて倒れ、ネコ型宇宙人も失神&記憶喪失した。
かぶき町を守るために戦った人々は、累々と倒れ伏し、ピクリとも動かない……!
この殺傷力は、どこから来るのか。
それはもちろん、卵焼きが真っ黒なことと無縁でない。そして、真っ黒になる原因は、明らかに火を通しすぎだっ。
コミックス14巻で真っ黒な料理を並べたお妙さんは、こう言っている。
「卵焼きは昔から得意なんです」
「もう極めたなってカンジでこれ以上 上はないなって思ってたんですけど」
「魚はちょっと失敗しちゃったかな まだ火の通りが甘いの」
その魚もすでに真っ黒で、もう何がなんだかわからない。
どうもお妙さんは、火の通し加減の基準がわれわれとは隔絶しているようだ。
――その懸隔がどれほどかを確認するためにも、さあ、いよいよ実験してみよう。
◆真っ黒な卵焼きを作ってみた
卵1個に砂糖と塩を適宜入れ、よく溶いてフライパンで焼いてみた。
通常、卵焼きは薄く広げて巻いていくが、お妙さんは箸でかき混ぜてフレーク状にしているので、ここではそのとおりにしよう。
火力は中火、換気扇は当然「強」である。すると……。
20秒後:半熟のスクランブルエッグ状になった。このまま食べてもおいしそうだ。
1分後:卵焼きとしてはどこから見ても完成。ああ、いま火を止めたい。
2分後:焦げ目がつき始め、みるみる増えていく。
3分後:煙が上がり始める。
4分後:表面が変色した「焦げ目」ではなく、内部まで侵された「焦げ」となり、食べたい気がまったくしない物体になってきた。だが、まだ真っ黒ではない。
5分後:焦げが全体の半分に達する。
6分後:煙が濛々と上がり、フライパンのなかがよく見えない。
7分後:焦げが全体の8割に達する。
8分後:黄色い部分が完全に消失。全体が茶色になった。
9分後:弾力性がなくなり、かき混ぜる音が「ジャリジャリ」に変わる。
10分後:ほぼ真っ黒になるが、まだところどころに茶色の部分が残っている。
11分後:火を止めたいが、茶色が残っているから、がまん。台所中に煙が漂う。
12分後:火を止めたいが、茶色が消えないから、耐える。目や鼻やのどが痛い。
13分後:火を止めたいが、茶色が残存しているから、忍耐。火災センサーが発動しないか心配。
14分後:ついに完全な真っ黒になった。なるほど、これが「極めたなってカンジ」か……!
完成したそれは、まさにダークマターだった。
これが14分前まで「卵」だったとは、この世の誰一人見抜けないだろう。
重さを量ると12g。もともと卵の中身は55gだったから、実に78%が水蒸気その他となって空中に雲散霧消し、22%の残骸が残ったわけである。
試しに火をつけてみると、メラメラと燃えた。なんと可燃性! あまりにキケンな卵焼きだ。
◆どうしても食べられない!
では、これを食べると、失神したり、記憶を失ったりするのだろうか。
筆者はいざ、これを食べ……、食べて……、食べてみようとして、何度も口の近くまで持っていったのだが、うむむむむっ。申し訳ないっ。どう心を鼓舞しても、食べる勇気が出ません。
本能的に、生命の危機を感じてしまうのだ。目の前にある卵焼きは、それほどオソロシイ物体になっている……。
というわけで、食べられなかった代わりに調べてみると、焦げは「炭化」ともいい、人間には苦く感じられるという。
その味はすなわち「食べてはいけないもの」という警告だ。
では、猛烈に苦ければ、失神などの可能性があるのだろうか?
失神は脳の血流が減ることによって起こり、原因の一つに強い痛みやストレスがある。これによって静脈が拡張する結果、脳への血流が減少してしまうのだ。
ということは、凄絶に苦いものを食べれば、そのストレスで失神するかも……。
では、お通ちゃんの吐血は?
吐血の一般的な原因は、食道動脈瘤、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など。激烈なストレスで、突発性胃潰瘍になったのかもしれない.
山崎退の目の痛みは?
眼球は、酸やアルカリに強く刺激される。
そこで筆者は、ダークマター(=真っ黒な卵焼き)を水に溶かし、BTB溶液を加えたところ、緑色が青に変化した。
アルカリ性だ! 目が焼けつくように刺激されたとしても、不思議はない。
――つまり、お妙さんの卵焼きは、黒くて、苦くて、可燃性で、アルカリ性。世にも危険な物質なのである。
皆さま、決して実際に作ったり食べたりしないでくださいね~。