世界初、5Gによる国際遠隔医療連携 ベンチャー、日本とシンガポールつなぐ メタバース活用
医療業界で国境を越えた連携が進んでいる。
年明け、5Gのネットワークを介したVR技術の活用により、シンガポールにいる医師が日本から遠隔操作で指導を受けた。5Gを通じたVR空間上における国際間の遠隔医療のカンファレンスは世界初という。
今後、実証を進めてデータを蓄積し、AI(人工知能)による解析を重ねながら実用化を図る。サウジアラビアなど他の国でも実証を進めており、徐々に精度を高めていく考えだ。
ドコモと連携
遠隔地の実証実験は今年1月、NTTドコモなどの5G技術と、3Dデータを処理・作成する医療系ベンチャーのDental Prediction(デンタル・プレディクション)、VR技術に強みを持つHoloeyes(ホロアイズ)の医療用画像表示サービス(非医療機器)「Holoeyes XR」とオンライン遠隔共有カンファレンスサービス「Holoeyes VS」を組み合わせて行われた。
デンタル・プレディクションの社長で歯科医師の宇野澤元春さんと、最高学術主任でニューヨーク大学歯学部准教授の岡崎勝至さんが、シンガポールにいる歯科医に、インプラント治療や器具をVRで示しながら説明した。
Oculus Quest 2のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を着けて手ほどきを受けた医師らは「非常にスムーズに利用できた。医師の技術力向上や歯学部の学生への教育に役立ちそうだ」と話していた。
指導医の岡崎さんは「この革新的なシステムは次世代医療の教育・医療を支えるスタンダードとなる」と話し、実証の加速に意欲を示した。
サウジでも実証
デンタル・プレディクションは3月に再び、シンガポールにある国立歯科センターシンガポール(National Dental Centre of Singapore: NDCS)の歯科医師たちにXR技術とメタバースを用いたVR空間でのコミュニケーションを実施。解剖学の講義と外科手術のワークショップを行った。
また同じ3月、サウジアラビアでも同様の実証に取り組んだ。首都リヤドにある同国最高峰のキングサウード大学歯学部などと共同研究に着手。「日・サウジアラビア・ビジョン2030」に基づく政府の研究プロジェクトの一環で、医療・医学教育分野におけるデジタル技術の活用を試みた。デジタルによる医療支援・医学教育システム導入の可能性を探る実証研究で、医療システムの効率化や医療教育水準の向上が狙いだ。
サウジアラビアの学生らとXR技術とメタバースを通じ、VR空間上に映し出される患者の3次元映像を用い、リアルタイムのシミュレーションを実現した。また、解剖学の講義と外科手術のワークショップは、学生たちの評判も上々だったという。
取り組み加速
岡崎さんは現在、長く教鞭を執ってきたニューヨーク大学の歯学部と研究プロジェクトを進めている。加えて、アジアや欧州、アフリカなど世界各地の国々と連携し、メタバースでどこにいても症例を共有できる空間の実現を目指している。
宇野澤さんが代表を務めるデンタル・プレディクションは、症例検討や歯科器具の取り扱いをメタバースで指導する「Dental Metaverse Academy」を提供している。今後、歯科医療トレーニングプラットフォーム「トレラボ」やAIを活用したオンライン歯科健康相談サービス「デンプレ」を展開していく予定。