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ローラ危惧「ゾウを守ろう!」~年2万頭の虐殺、命運握る日本がやるべきことは?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
モデル/女優のローラさん。映画「アリー/ スター誕生」ジャパンプレミアにて(写真:アフロ)

 「いまは密猟によってゾウの数がすごく減ってきているんだ。どうか象牙製品を買う人がすくなくなりますように」

 ―モデル/女優のローラさんが、自身のインスタグラムに微笑ましい象の親子の動画を投稿。

 「人間と同じ感情をもっていて大切なものを失った時の心にポッカリと穴が空く感情や悲しみがあると涙を流したり、怒ったりもするんだ。そして長い年月たっても、愛する者をずっと忘れない感情もあるの」

と、ゾウが賢く感情豊かな生き物であることを紹介すると同時に、そのゾウ達が象牙目的の密猟によって殺され、急激に野生での生息数を減らし続けている状況を憂慮した。ローラさんが投稿したように、今、野生のゾウは深刻な危機にある。そして、そのゾウの危機は、私達日本人にも無関係ではないのだ。

○毎年2万頭の野生のゾウが殺されている!

 ローラさんが訴えたゾウの危機。その背景には何があるか。認定NPO法人「トラ・ゾウ保護基金」の事務局長、坂元雅行弁護士は「密猟が行われる背景には、象牙が高く売買されるということがあります」と語る。「象牙目的の密猟で、毎年、約2万頭のゾウ達が殺されています。野生生物の国際取引を規制するワシントン条約では象牙の国際取引は禁止されており、各国も税関での取り締まりを強化していますが、それだけではゾウの密猟に歯止めをかけることができませんでした」(坂元弁護士)。

 現地の自然保護官達の必死の密猟防止パトロールにもかかわらず、横行する密猟。特にコンゴやカメルーンなどアフリカ中部での状況は深刻で、近い将来ゾウが地域絶滅してしまう恐れも出てきた。「そのため、国際取引の禁止だけでは不十分であるとの認識が広がり、2015年には当時のオバマ米国大統領と中国の習近平国家主席が、国内市場での象牙の売買も禁止することで合意しました」(坂元弁護士)。

ローラさんのインスタより。投稿には #SaveTheElephants (ゾウを守ろう)とのハッシュタグ
ローラさんのインスタより。投稿には #SaveTheElephants (ゾウを守ろう)とのハッシュタグ

○堂々と象牙が売られる日本、規制に大きな抜け穴

 象牙の最大の市場である中国が、2017年末に象牙の国内取引の禁止に踏み切ったことは、ゾウ達にとって朗報であった。また、中国や米国のみならず、世界各国が象牙の国内取引の規制を強化した。その例外が日本だ。「日本ほど、国内市場で堂々と象牙が売買されている国は他にありません」と坂元弁護士は顔をしかめる。象牙の国内流通を禁止しない日本政府の言い分は、

  • 国内で流通している象牙は、ワシントン条約で国際取引が禁止された1990年以前の在庫であり、密猟象牙は日本にはほとんど入ってきていない。
  • したがって日本国内市場での象牙売買と野生のゾウ密猟とは無関係。

というものだ。だが、坂元弁護士は日本での象牙の管理には、大きな抜け穴があるという。

 「国内で象牙を売買するには、1990年以前の象牙であると環境省指定の機関に登録する必要があります。しかし、『1990年以前からあった』と自己申告するだけで登録できてしまう。そのため、虚偽の申告で登録されている象牙が相当数あると観るべきです。実際、昨年11月、宮城県警が摘発した象牙売買事案では、不正に買い取った象牙を『家族が昔から持っていた』などと偽って登録した会社経営者が略式起訴されています。宮城県警は、本事件で制度の抜け穴が利用されていたことを環境省に報告したとのことですが、捜査する側としては、こんないい加減な制度では困るということでしょう」(坂元弁護士)。

大阪で摘発された大量の密輸象牙(2006年) 写真提供:トラ・ゾウ保護基金
大阪で摘発された大量の密輸象牙(2006年) 写真提供:トラ・ゾウ保護基金

 登録制度の「抜け穴」について、環境省に問い合わせると「今後、放射性同位体による年代測定結果や、年月日が表示されたネガフィルムを提出させるなど、1990年以前のものである確認を厳格化して参ります」(同省自然環境局野生生物課)という。だが、そもそも、象牙の登録制度は全形を保持した象牙が登録対象で、分割された牙や、印鑑・アクセサリーなど加工された象牙は対象外で、国内外の専門家やNGOが「抜け穴」だと指摘してきた。

○「象牙は日本には密輸されてない」は本当か?

 日本政府の「日本には象牙が密輸されていない」とする主張も楽観的すぎるだろう。

 「つい先日公表された、ワシントン条約の『ゾウ取引情報システム』の最新報告書では、押収された違法象牙のサプライチェーンに日本が含まれていたケースを分析したところ、日本では象牙を見逃してしまい、他国で発見された割合が高いことが指摘されていました。つまり、税関をすり抜けてしまう違法象牙は、日本政府側が把握しているよりも、かなり多いのではないかということです」(坂元弁護士)。

坂元雅行弁護士(写真左) トラ・ゾウ保護基金のフェイスブックページより www.facebook.com/japantigerandelephantfund
坂元雅行弁護士(写真左) トラ・ゾウ保護基金のフェイスブックページより www.facebook.com/japantigerandelephantfund

 国際的な批判にもかかわらず、なぜ日本は国内の象牙取引を続けるのか。坂元弁護士は、「加工用象牙の8割を消費する印鑑を扱う業界が、官僚と結託して抵抗しているからです」と語る。「ただ、今後、印鑑が現在より使われなくなるかもしれません。今国会で審議されるデジタルファースト法案では、押印手続に代わり、本人確認のデジタル化が推進されます。行政やビジネスにおいて印鑑が使われる場面が激減するでしょう。印章業界が、印鑑登録制度の存続を訴えるなら、国際的な批判を伴う血塗られた象牙でなく、チタンやカーボンファイバーなど別の高級印材を使っていくことが、業界の自助努力による印鑑存続の努力というものではないでしょうか」(同)。

○日本の動向が野生のゾウの命運を左右する

アフリカゾウの親子 写真提供:田中光常/トラ・ゾウ保護基金
アフリカゾウの親子 写真提供:田中光常/トラ・ゾウ保護基金

 近年では世界最大の象牙市場であった中国で象牙取引が禁止された今、日本の動向が野生のゾウ達の命運を左右すると言っても過言ではない。過去を振り返れば、1980年代のバブル時代、日本での象牙需要の高まりは「象牙戦争」といわれた密猟の嵐を引き起こした。たった10年程で、134万頭いたアフリカゾウは、約半分が殺されてしまい、62万5000頭へ減少。その後も数を減らし続けている。こうした経緯からも、野生のゾウに対する日本の責任は大きいのだ。「だからこそ、発信力のあるローラさんが象牙の問題を訴えてくれたことは素晴らしい」と坂元弁護士は強調する。「ローラさんは大いに称賛されるべきです」(同)。

 今月4日には、日本の象牙市場の全面閉鎖を求める決議案が、ケニアやエチオピアなどアフリカ諸国によってまとめられた。この決議案は今年5月にスリランカで開催されるワシントン条約締約第18回締約国会議で提出される見込みだ。「どうか象牙製品を買う人がすくなくなりますように」というローラさんの願いは、世界の多くの人々の願いでもあるのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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