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炎鵬と翔猿の白星に国技館が沸いた! 角界に光を与える小兵力士たち

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
写真:毎日新聞社/アフロ

九日目を終えた大相撲11月場所。ここまで不振が続いていた小兵の人気力士・炎鵬に初日が出た。苦しかった8日間。ようやくその暗く長いトンネルをくぐり抜けた。花道を下がる端正な顔は、心なしか少し緩んでいるように見えた。

炎鵬の不振 原因は横綱の不在?

新型コロナウイルスの影響で通常開催ができなくなった3月場所以降、なかなか結果に結びついていない炎鵬。すでに4場所連続の負け越しが決まっており、今場所の成績次第では、幕内残留も危ぶまれている。

特に先場所は、もともと99キロしかない体重が92キロほどに落ちてしまうなど、体力の低下が見られていた。今場所はなんとか少し戻ったようだが、それでもやはり、昨年までのような体幹の強さが生かされていない。毎日見ていて、自身のなかの歯車がかみ合っていないような、どうも空回りしている状態に見受けられていた。

コロナ禍における稽古とトレーニングの制限、さらには周囲からかなり研究されてきていることが、不振の要因としてささやかれている。加えて筆者は、尊敬してやまない同部屋の横綱・白鵬の不在が大きいのではないかとも思っている。昨年、筆者が行ったインタビューでは、角界入りを決めた理由を「この世界で一番強い横綱がいる部屋で、しかもその横綱に声をかけていただいたから。宮城野部屋だったから、挑戦してみようと思ったんです」と、力強く答えている。横綱との日々の稽古が、彼を強い力士にしてきたことは間違いないし、「毎日横綱と稽古していること」が、彼の確固たる自信にもなっていたことだろう。その横綱と、ここのところ十分な稽古ができていないとしたら――。心身ともに、影響を受けないはずはない。

炎鵬の勝利に国技館が沸いた!

今場所初白星を挙げた九日目は、碧山との対戦。自分より100キロ近く体重の重い大きな相手に対して、立ち合いから左に大きく動いた。思い切って碧山の足を取ると、そのままスピードに乗って寄り切り。疾走感あふれる、なんとも彼らしい会心の相撲に、国技館は割れんばかりの拍手に包まれ、なかなか鳴りやむことがなかった。炎鵬本人は、つっかかりが取れたような安堵の心境かもしれないが、見ているお客さんは「待ってました」とばかりに、興奮と労いの気持ちをあの大きな拍手に乗せたのだろう。

この日の炎鵬の白星を見ただけで、彼の活躍と相撲人気が、高い相関関係にあることがよくわかる。

同じく小兵の翔猿・大関に初勝利

この日はさらに、同じく体の小さい翔猿が、唯一勝ちっぱなしだった大関・貴景勝を下し、大いに沸いた。先場所の躍進から一転、八日目までで2勝6敗と星につながっていなかったが、この日は大関に押されてもなかなか下がらず、突き押しで応戦。ついには大関が引いてしまう場面もあり、最後は思い切ったはたき込みが決まった。やはり、彼が勝つ取組も盛り上がる。

千秋楽まであと6日間。炎鵬・翔猿をはじめとする小兵力士たちには、ひとつでも星を伸ばして、見にくるお客さんを沸かせてほしい。判官贔屓な日本人の心をくすぐる取組が、あと何番見られるだろうか。

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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