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大企業ほど残業が多くなる理由

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

労働に関する非常に優れた論考を紹介したいと思います。

【参考リンク】割増率が高い企業ほど長時間残業の実態

「残業手当は残業を抑制しない」「日本の長時間残業は雇用の調整弁」「大企業ほど長時間残業から逃げられない」等、雇用問題を理解する上でいろいろと示唆に富む内容です。

ところで、労組がしっかり労使交渉するような大企業ほど、なぜそうでない企業より残業時間が長くなるんでしょうか。働き方改革のあるべき方向性を理解する上でも、また個人や組織で生産性を上げるためにも、残業が増えるメカニズムは知っておくべきでしょう。

残業が多くなるメカニズム

日本においては、労使が協定を結ぶことで月45時間・360時間までの残業が認められます(三六協定)。ただ、特別条項を取り決めることで、上記の上限を超えて残業することも可能となります。事実上、日本には残業の上限が無いと言われるのはこの特別条項が理由ですね。

上記記事中の図を見ると、従業員10人未満の会社でこの条項があるのは35.7%ですが、従業員300人以上の企業では実に96.1%に存在することがわかります。要するに「大手ほどいっぱい残業できるような手続きを労使で行っている」ということです。

理由は大手ほど終身雇用の維持に労使が熱心だからです。繁忙期にも現在の人員数で対応できる体制を作っておくことで会社の利益を最大化し、同時に新規採用を抑えて今いる従業員の雇用を定年まで守れるためです。繁忙期にすぐ人を雇ってしまえば暇になったら誰かが解雇されるということですからね。中小企業でも特別条項結ぶ企業はありますが、実際問題として月に45時間以上も残業させるとすぐに辞められます。そうまでして会社に滅私奉公するメリットなんてないですから。

では、なぜいっぱい残業できる仕組みを導入している大企業ほど、実際に残業が多くなるのでしょうか。それは、ホワイトカラーの生産性は時間に比例しないからです。

たとえば、労使で特別条項付きの三六協定を結んで月130時間まで残業できるようにしているA社と、残業そのものが想定せず基本給しか払わないB社があって、両方とも経営側は人件費として50万円払うとします(社保は考慮せず)。恐らくA社は基本給25万円程度に抑え、残りは残業手当として残しておくはずです。一方のB社は最初から基本給として50万円を支給することになります。

さて、実際の現場では何が起こるでしょう。B社の従業員はとにかく無駄な打ち合わせとか意味の無い仕事を省いて定時に退社することを目指して一致団結するでしょう。実際、筆者はそういう中小企業を何社も知っています。

一方、A社では誰も無駄を省こうなどと思わないでしょう。なぜなら残業しないと低い基本給をカバーできませんから。早く帰った人間ほど損をして、いっぱい残業した人間にご褒美を上げるルールで仕事をしてるようなものですから。これが「特別条項作っていっぱい残業できる体制を作っている大企業ほど、実際にいっぱい残業している」理由ですね。

ここから得られる教訓は「世の中にただ飯はない」ということです。「席に残っていれば残ってる分いくらでもお金貰える!」と思って残業しても、基本給やらボーナスが抑えられる形で結局それを負担しているのは自分自身というわけです。得するどころか、一度しかない貴重な人生を浪費しているという点で明らかに損ですね。

では処方箋はどうあるべきか。ホワイトカラー限定で時給管理を外し、時給ではなく成果に対して支払う仕組みの導入ですね。上記の例でいえばB社の働き方を目指すということです。もちろん健康配慮のため、労働時間そのものは管理しつつ上限ももうけるべきでしょう。政府の進める働き方改革はそうした方向に沿ったものであり、速やかな実現が望まれます。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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