生ごみ乾燥機を105回使った結果・・・全国ごみ排出量ランキングから自治体のごみ削減対策について考える
ごみを減らすためには食品ロスを減らす
食品ロスを専門にしている筆者は、全国の自治体の「ごみ」(廃棄物)の担当部門から、食品ロスの講演依頼を受けることが多い。依頼の全てを受けきれないくらいだ。2012年2月に東京都港区3R推進行動会議主催会議、2012年7月に神奈川県横浜市磯子区から講演を依頼されたのを始め、2018年2月4日までの6年間、北は函館、南は宮古島や石垣島に至るまで、全国の自治体や組織で食品ロス問題に関する講演や啓発を続けてきた。
”食品ロスの人”が、なぜ「ごみ」を語るのか。「ごみ」のうち、特に家庭から出る「燃えるごみ」の、およそ40%が、食品関連の生ごみと言われるからだ。1980年(昭和55年)から京都大学と共に家庭ごみの調査を続けている京都市によれば、生ごみのうち38%が食べ残しで、そのうち、半分以上が手つかず食品という結果が出ている。しかも、手つかず食品のうち、賞味期限前の、まだ食べられるものは4分の1を占めている。ごみを減らすためには、食品ごみを減らすこと。そして、食べられるものを捨てないで食べきることが重要な施策なのだ。
全国ごみの少ない市町村ランキング(人口50万人以上編)
環境省が毎年3月に発表している、1人1日当たりのごみ排出量(リデュース)への取り組み、上位10位市町村、というのをご存知だろうか。市町村に暮らす人1人1日当たり、何グラムのごみを排出しているか、その量が少ないほど上位になるランキングだ。家庭から出る家庭ごみ、事業系から出るごみなどを合算し、人口で割ったものである(災害廃棄物は含まれない)。たとえごみ発生量が変わらずとも人口が増えれば一人あたりの排出量は(見かけ上)減る、ということにはなるが、廃棄物の削減を目指している自治体の方たちにとって、重要な指標である。
筆者は、2017年7月、埼玉県川口市の廃棄物対策審議会の委員に任命された。同じ月、川口市のクリーン推進員や関係者800名の方々に、ごみ削減と食品ロス削減について講演するという機会を頂いた。それを機会に、このランキングを、自治体主催講演などの啓発活動に取り入れるようになった。
- 川口市クリーン推進員制度
1995年2月から導入された。ごみの減量や適正処理についての普及やごみの分別・排出指導、集団資源回収や美化活動の指導、ごみステーションの排出調査・市への連絡・報告、施策への協力などにあたる。
ランキングは、
人口10万人未満
10万以上50万人未満
50万人以上
の3区分に分かれており、それぞれ10位までが公表される。リサイクルについても同様に順位が発表される。2017年(平成29年)3月に発表された結果のうち、人口50万人以上の部門ランキングは次の通りである。
川口市は、2017年12月に人口60万人を超え、2018年4月に中核市となる規模の首都圏のベッドタウンである。荒川を越えればすぐ東京都なので、"埼玉都民”という言葉の通り、都内に通勤する人も多い。
川口市は、2015年度も2014年度も、全国で5位。4位の横浜市、3位の広島市も2年連続で同順位である。が、1位と2位は逆転している。
たった2gの差で「10年連続1位」のはずが・・・
愛媛県松山市は、2014年度(平成26年度)まで、9年連続で全国最少のごみ排出量だった。当然、自治体の方々は「10年連続1位」を狙っていただろう。ところが、2015年度(平成27年度)は、東京都八王子市が1位となり、松山市は2位だった。1位の八王子市と、2位の松山市との差は、わずか2グラム。10年連続1位の座を逃した愛媛県松山市のホームページには「1円玉2枚の僅差で1位を逃した」と書いてある。「10年連続」を、あと一歩で逃した悔しさが、滲み出て伝わってくる。
報道によれば、家庭ごみは削減できたものの、飲食店での食べ残しなどが増えたことで、全体の量が若干、増えてしまったとのことだ。松山市のホームページでは、飲食店での食べ残しを少なくする運動「30・10(さんまるいちまる)運動」に協力する飲食店のリストが紹介されている。真摯に取り組む松山市の姿勢に好感が持てる。
10年ぶりに再び1位の座に返り咲いた八王子市
一方、2017年(平成29年)に市制100周年を迎えた八王子市。
八王子市は、人口およそ58万人。東京都の西部(多摩地域)に位置する。2004年度(平成16年度)と2005年度(平成17年度)には、ごみ排出量の少なさとリサイクル率で全国1位を獲得している。その後、2位・3位・4位・・といったトップクラスを保ち、今回、再び1位に返り咲くことができた。(八王子市 平成27年度清掃事業概要(平成26年度実績) 第6章 ごみ有料化後の状況)
2018年2月3日、節分の日。東京都八王子市より依頼を受け、八王子市主催の消費生活講演会で、食品ロスを減らすための講演を行なった。
消費生活講演会の会場となったクリエイトホールでは、第51回消費生活フェスティバルが開催されていた。
フードバンク八王子が出展するブースでは、家庭で余っている食料品を持ち寄り、必要とする人に届ける「フードドライブ」も行われていた。このイベントは毎年開催されており、市制100周年を迎えた今年は特に大々的に取り組んでいるという。「1人1日当たりのごみ排出量全国1位(人口50万人以上)」を獲得した八王子市の積極的な姿勢を肌で感じることができた。
家庭用生ごみ乾燥機で合計105回乾燥させてみた
前述の通り、埼玉県川口市の廃棄物対策審議会委員に任命された。委員になったからには、まず自分から日々実践しなくては説得力がない、と思い、家庭から発生する生ごみを減らすため、川口市が助成する制度を申請し、家庭用生ごみの乾燥機を購入した。川口市内の事業者から購入した方が助成金額は高いのだが、何軒か電気店に電話してみて、希望通りのものが探し当たらず、インターネットの通信販売で四国から取り寄せて購入した。島産業の「パリパリキューブ」という商品である。
2017年6月16日から2018年1月31日まで、生ごみを乾燥機で乾燥させた結果をグラフに示す。縦軸にごみ重量(単位:グラム)、横軸に回数(単位:回)をとった。乾燥前を青、乾燥後を赤で示している。
調査期間:2017年6月16日〜2018年1月31日
調査回数:105回
乾燥前のごみ平均重量:498グラム
乾燥後のごみ平均重量:219グラム
減少率:59%
乾かすだけで、ごみの重量は50%以上も減少することがわかった。
ごみが半分以上も劇的に減らせることで感じる清々しさ
生ごみの水分が少なくなるだけで、数百グラム単位で重さが減る。ということは、前述の「ごみ最少ランキング」の2g差で発生した順位の違いは、市民一人一人の行動一つで、充分、変えられる可能性がある。
これまで、ごみは、ごみ捨て場に持っていけばおしまい。と思っていた。が、それでは自分の家からごみ置き場に移動しただけであり、地球規模で考えると、地球上からごみはちっとも減らせていないのだ。
実際に、生ごみ乾燥機を使って105回乾燥させてみて、ごみが50%以上も減らせることのできる気持ち良さ、清々しさを実感することができた。他のことで、こんなに大きな結果は、なかなか味わうことはできない。自分が納めた税金を、より有効なことに活用できる一歩になる。
川口市の朝日環境センターを訪問し、燃えるごみの中には資源化できる紙ごみがまだまだ多いと、職員に伺った。これまでも、紙ごみは分別してはいたが、トイレットペーパーの芯や、郵送される紙の封筒にビニールがついているものなど、面倒そうなものは燃えるごみに入れてしまっていた。現場を知ってからは、より「減らそう」という意欲が高まり、できる限り分別するようになった。
生ごみ乾燥機を使ってみて気になるのは電気代だ。毎日使うと1ヶ月1,000円くらいになりそうなので、途中から、数日分をまとめて乾燥させるようにした。ごみ量を減らすのに貢献しているのに、毎回、電気代が余分にかかるのは、なんだか納得いかない。そこで、前からやってみたいと思っていたコンポストにもチャレンジしてみたが、夏場だったためか、やり方がまずかったのか、臭いがひどく、近隣に迷惑がかかると思って諦めてしまった。コンポストは上手に続けている人も多く、2018年1月には専門家の指導を受けた、コンポストのプロフェッショナルの方にもお会いし、やり方さえきちんとしていればできることがわかった。
生ごみ乾燥機によるごみ重量削減の取り組みについて、2017年6月、京都府立大学の「フードビジネス論」の講義で話したところ、他大学のある先生から「電力の消費、それによる二酸化炭素の排出を考えると、必ずしも環境に良いとは言えないのでは」というご意見を頂いた。これについては、ある自治体に質問してみたが、残念ながら回答を得ることができなかった。環境分野の専門家の方からご意見を頂けると有難い。
ごみを減らすために何をすべきか、食品ロスの観点から5つのポイント
ごみを減らすため、全国の自治体は、発生抑制(リデュース)のための家庭ごみの有料化(全部あるいは一部)や資源化を始め、様々な取り組みを続けてきている。
たとえば長野県廃棄物処理計画(第4期) 廃棄物削減のための「取組事例集」には、県内の複数の事例が挙げられている。
東京都品川区は、東京都23区で初めて集積場を無くす取り組みを実施した。戸別収集にしたところ、マナーの問題は改善し、ごみが減ったという。宮城県仙台市が2018年1月29日に発表した調査結果によれば、(1)集合住宅が多い中心部(2)一戸建てと集合住宅が混在する郊外(2)一戸建てが多い郊外-の3地区の中で、集合住宅が最も食品ロス量が高かったという。集合住宅の場合、ごみは集積場に一括して出され、誰が出したかわからないことも一つの要因なのだろうか。
このように、全国的には、ごみを減らすための先進事例が多数ある。ただ、自治体ごとに取り組み方に温度差があるのも現実だ。
ごみ削減の機運をさらに進めていくために、自治体は、市民への啓発として、何をすべきか。また、市民はどんな形でごみを減らしていけるだろうか。食品ロスの観点から5つのポイントにまとめてみた。
1、家庭用生ごみ処理容器の助成で生ごみを乾燥・堆肥化・水キリ
生ごみは、とにかく水分を切ること。これだけで大きく重量を減らすことができる。
東京都八王子市では、家庭用生ごみ処理機器等の購入費補助を実施している。愛媛県松山市でも、生ごみ処理容器等購入費の補助を行なっている。全国の自治体が、このような生ごみ処理機器の助成制度を導入している。処理容器を使うことによるごみ重量の軽減は大きく、有効と考えられる。
また、コンポストによる堆肥化や、生ごみの水切りも有効だ。京都市は、市民に対して生ごみ3キリを啓発している。食べキリ、使いキリ、水キリ。乾燥機を使わなくても、生ごみを水切りするだけでも、重量を減らすことができる。
2、環境省発表の「リデュース(1人1日当たりのごみ排出量)上位10位市町村」ランキングを啓発に活用する
これは自治体にお願いしたい。全国の多くの自治体が「平成32年までに、1人1日当たりのごみ排出量を、現在の○グラムから、○グラムに削減する」と、3桁の細かい数字を設定している。もちろん、これは、自治体の廃棄物の関係部署が、現状と目標との乖離を把握するのに、とても大切な数字だ。だが、市民向けに啓発するのにふさわしいとは思えない。たとえば「875グラムを、平成32年までに824グラムに減らそう!」と言われても、具体的に何をどうすればいいのか。普段、ごみの重さなんて、いちいち量っていない人がほとんどではないか。全くピンと来ない。食品ロス問題に関わる筆者ですら「?」と思う。
愛媛県松山市が、「また全国1位の座を取り戻そう」と、市民の取り組みへの感謝と士気を高める文章をホームページに掲示しているように、全国の市区町村同士でごみの少なさを競い合い、良い取り組みを学び合うのは良いことだと思う。ランキングや「半分にする」は、市民にとってもわかりやすい。ごみ処理費用を減らせば、市区町村の限られた財源を他の用途に有効活用することにもなる。3桁の数字は関係部署が使えばいいことで、市民に対しては、もっとわかりやすく、やる気が出る、腑に落ちる表現を工夫してはどうだろうか。
京都市は、食品ロスを含めたごみを半分に減らす「ごみ半減」を呼びかけている。これはとてもわかりやすい。京都市は、通称「しまつのこころ条例」を制定し、2000年(平成12年)には82万トンだったごみ量が、2017年(平成29年)時点には40万トン台まで削減しており、2020年(平成32年)に30万トン台を目指している。
参考記事:
16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?
2017年11月、埼玉県川口市の川口商工会議所より依頼を受けた講演のタイトルは「川口は全国一を狙うことができる!」だった。全国で5番目に(1人1日当たりの)ごみ排出量が少ない位置にあるので、充分に1位を狙えるのではないか、と、2017年7月の講演で話したところ、それを聴いていた主催者の方が「みんなのモチベーションが上がるので、このタイトルでぜひお願いしたい」と指定してこられた。
3、フードドライブを実施する
フードドライブとは、家庭で余っている食品を集めて必要なところで使う取り組みだ。家庭の中で余っているものを無くして必要なところで活用することができる。お中元やお歳暮、冠婚葬祭で頂いたけれど家では食べないもの。安売りにつられてたくさん買ったけど使いきれないもの。備蓄していて入れ替える時期が来たもの、など。
八王子市は、2月3日の消費生活イベントで、フードドライブを実施していた。東京都世田谷区は、これまで区のイベントで単発で実施してきた「フードドライブ」を、常設化した。2018年2月1日付「フードドライブ(未使用食品等の回収)情報」にもその旨が書かれている。これを市区町村が行なうことにより、家庭から出る食品ロスを抑制(Reduce:リデュース)し、ごみ削減につなげる一助となる。
4、飲食店や各家庭で適量を求め、食べきることの啓発
飲食店で注文した食べ物や、買い物で買ってきた食べ物は、食べきること。飲食店で頼んだ料理を美味しく食べきることを啓発する運動や、市区町村が優れた取り組みを行なう店舗を認定する制度は、全国の自治体に広がっている。
全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会の参加自治体は、317団体となった(2018年1月16日現在)。2006年(平成18年)にはすでに宴会の食べ残しをなくす運動を始めていた、いわば「食べきり先進自治体」である福井県が、この協議会の事務局となっている。
2017年4月、京都市は食べ残しゼロ推進店舗が500店を突破した。八王子市の食べきり協力店舗は100店を超えているそうだ。
国連が2015年に定めたSDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)の17の目標のうち、12番目では「つくる責任、つかう責任」が謳われている。
5、賞味期限の意味を市民に啓発
これは最も重要だと考える。
訪日中の、ダニエル・グスタフソン国連食糧農業機関(FAO)事務局次長は、2018年2月2日の外務省主催のセミナーで、賞味期限表示が食品ロスを生み出すことについて指摘している。
2018年1月26日付毎日新聞の投書欄には、賞味期限を気にして、商品棚の奥から新しい日付のものを取り出し、罪悪感を覚える女性の声が投稿されている。
日本だけではなく、ドイツでも、消費期限と賞味期限を混同する消費者が多かったため、2012年には「捨てるには良過ぎる」という国民啓発運動が展開されている。ヨーロッパ諸国でも、賞味期限表示を緩和することでロスが削減されたという結果が出ている。日本も、省庁や企業側では、年月日表示から年月表示を進めている。賞味期限の真の意味について、自治体は市民に向けて徹底的に啓発する必要があると思う。
提言:ごみ(廃棄物対策)部門は賞味期限の意味を今以上に啓発していただきたい
行政の、ごみの部門(環境・資源循環・廃棄物対策など)と賞味期限表示の部門(消費生活など)は別なので、ごみの部門で賞味期限の意味を積極的に啓発している事例は少ないように思う。全国のいくつかの自治体で調べてみたが、賞味期限の意味を、消費期限と混同してホームページで発信している自治体すら見つかった。
食品メーカーとフードバンクに勤めた経験のある筆者は、『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』という書籍を上梓した。講演依頼を全て受けきれないし、本であればもっと大勢に伝わると思ったからだ。賞味期限は「美味しさの目安」であり、品質の切れる期限ではないこと、リスクを考慮し「安全係数」をかけて短めに設定されていることを啓発してきた。でも、まだまだ足りない。全国で、宴会の食べ残しを減らす「30・10(さんまるいちまる)」運動は広がってきた。これと並行し、ドイツが国ぐるみで行なったような、(賞味期限は)「捨てるには良すぎる」キャンペーンも必要だと思う。
「ごみを減らそう」というのと並行して、賞味期限の真の意味を徹底的に啓発し、頭で理解するだけでなく、普段の購買行動・消費行動で実践できるようにまでならなくては、家庭ごみとして捨てられる食品ロスは減らないだろう。ごみでないものをごみだと勘違いしているのだから。
ごみ(廃棄物)の部門の方には、これまでにも増して、賞味期限についての啓発をしっかりして頂きたいと願っている。われわれ消費者の側も、賞味期限を理解し、消費することは、家計が助かり実収入が増えることだ。普段から食べきるようにしていこう。
2018年3月には、環境省から新たな「リデュース(1人1日当たりのごみ排出量)」取組の上位市区町村が発表される。結果が楽しみだ。
2018年2月6日追記:データはそのままで、グラフの形状を改編した。