アップル、批判受けアプリ手数料半減 どんな事情があったのか?
米アップルは先ごろ、一定の条件を満たす事業者に対し、同社のアプリストア「App Store」でのアプリ販売・課金手数料をこれまでの30%から15%に下げると明らかにした。
2021年1月1日に始める中小のアプリ事業者向けプログラムへの加入資格を持つ企業が対象だ。条件とは2020年にApp Storeから得た収益の合計が100万ドル(約1億300万円)以下の企業。2021年から新規にアプリ販売を始める事業者も減額の対象になるとしている。
また、2022年以降も前年の収益が基準額に満たない場合、引き続き軽減措置を受けられるという。
アップルがApp Storeを立ち上げたのは2008年。同社はそれ以降、手数料に関して明確な指針を示してきたが、今回のような措置は異例だ。
ゲーム大手や米議会がアップルを批判
その背景には、App Storeの商慣行が独占的で、手数料が高すぎるとの批判の高まりがあるようだ。米ウォール・ストリート・ジャーナルは、今回の措置は批判をかわす狙いがあると報じている。
アップルは音楽・動画配信や電子書籍、ゲームなどの「デジタルグッズ・サービス」で、開発者やサービス運営企業に自社の決済システムを利用するよう義務付け、それらの課金に対し手数料を徴収している。
例えば、有料アプリやアプリ内課金の場合、アップルの取り分は販売額の30%、アプリ内のサブスクリプション型サービスは、1年目が同30%で、2年目以降が同15%。
しかし今年8月、この手数料が法外だとして、米人気ゲーム「フォートナイト」開発元エピックゲームズがアップルを提訴した。
発端はエピックがアップルの課金を回避する独自決済システムを導入したことにある。これを受け、アップルはフォートナイトを配信停止にする措置を取った。
その後、エピックの開発者としてのアカウントも停止。ゲーム開発ソフトを除くすべてのエピック製アプリの配信も停止した。これに対しエピックは「App Storeは独占的だ」と非難した。
今年9月、アップルは「エピックはApp Storeから莫大な価値を得ており、アップルの課金を回避するシステムの導入は契約違反だ」とし、損害賠償などを求めて反訴した。
こうした中、米国の独禁当局や欧州の競争当局がApp Storeの独占的行為の有無に関する調査を始めた。また、米議会の下院司法委員会は7月、アップルなどの米テクノロジー大手4社のCEO(最高経営責任者)を呼んで公聴会を開いた。
同委員会はその後、4社を対象にした反トラスト法(独占禁止法)の報告書をまとめた。その中で4社が、それぞれの市場で独占的な力を享受していると結論づけ、法改正や法執行の強化を求めた。
アップルに対しては、アプリ配信で独占的な地位にあり、競合アプリを不公平に扱ったり、締め出したりして自社を優遇したなどと批判した。
エピックCEO、「開発者の分断を狙った策略」と批判
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、現在、世界で利用されているアップル製機器は15億台以上。App Storeで流通しているアプリは180万種に上る。
しかし、年間100万ドル(約1億300万円)以上の収益を上げているアプリはわずか0.2%。この0.2%がApp Storeの収益全体の92%を稼いでいるという。
つまり、今回の中小企業向け減額措置を導入しても、アップルの手数料収入が大きく落ち込むことはない。アップルはApp Storeから得られる膨大な収入を確保しつつ、中小企業をいじめているという批判をかわすことができると、同紙は報じている。
これについて、エピックゲームズのティム・スウィーニーCEOは「アプリ開発者の分断を狙った策略だ」と批判しているという。
「App Storeが生み出した50兆円の8割超が事業者に」
ただ、アップルは調査会社に依頼したレポートを提示し、自社の料率は米グーグルなどの競合アプリストアと同じだと主張している。
アップルは一定の譲歩も示している。9月には、規約を改訂し、複数のゲームをカタログ形式で提供するストリーミングゲームアプリの配信を条件付きで容認したと報じられた。
オンラインの授業や医療相談、フィットネストレーニングなどを提供するアプリは1対1のサービスに限り、アップル以外の決済システムで課金できるようになるという。
このほか、2021年6月末までの期間限定で、アプリ内で開催されるオンラインイベントなどのサービスに対し手数料を徴収しない措置を取る(米アップルの発表資料)。
同社によると、2019年にApp Storeを通じて生み出された売上高は計5190億ドル(約53兆6200億円)。
同社はこのうち約12%に当たる「デジタルグッズ・サービス」(610億ドル)から手数料を徴収している。「総額5190億ドルのうち85%以上が事業者の手に渡った」と説明している。
- (このコラムは「JBpress」2020年11月20日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)