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フィンランド若者は未来思考なぜ高い「私には社会を変える力がある」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オンラインインタビュー中のスクリーンショット

「フィンランドの森林ムーブメント 罵倒や脅迫に若き気候活動家はどう対応」で取材したイーダさんに、「自分には社会に変化を起こす力があるか」と聞くと、「たまに」と答えた。

「私が活動し始めた頃は森林保護は話題になっていなかったけれど、今は大手新聞など毎日どこかで話題になっています。おお、変えることができたのかなと感じますね」Jonne Sippola撮影
「私が活動し始めた頃は森林保護は話題になっていなかったけれど、今は大手新聞など毎日どこかで話題になっています。おお、変えることができたのかなと感じますね」Jonne Sippola撮影

筆者は北欧諸国で多くの若者に取材してきたが、イーダさんのように「自分には影響力がある」「社会に変化を起こすことはできる」と感じている若者にはよく出会う。

このテーマについて深く専門家と話したことはなかったので、フィンランド国政選挙の取材直後、現地の専門家とオンラインで対話をした。

持続可能な未来のための公的イノベーション基金(SITRA)が3月に発表した「未来指標」によると、ロシアのウクライナ侵攻やエネルギー危機がありながらも87%のフィンランド人(15~84歳)は10~20年後の未来に希望を抱いていると回答した。

最も「未来にわくわく・熱狂している」と答えた年齢層は15~24歳の若者だ。

Futures Barometer: Finns’ confidence in the future has not faltered even amidst crises

お話を聞いたのはこの調査チームのレコラ氏とペッキネン氏だ。

レコラ氏(写真下)、ペッキネン氏(左上)、筆者(右上)
レコラ氏(写真下)、ペッキネン氏(左上)、筆者(右上)

レコラ氏「なぜ若い層が極めて未来に対してポジティブで、自分たちは未来に影響を与えられると感じているかは私たちでも議論をしています。重要なポイントの一つはフィンランド社会は世界的にも信頼度が高い国で、社会にある組織を極めて深く信頼していることです。また社会や未来のために共に行動ができるとも信じる傾向があります」

ペッキネン氏「北欧はヒエラルキーがほどんどなく、フィンランドは国としても年齢が若い国家です。そのため社会構築のためには女性から全ての市民参加が必要とされてきました」

レコラ氏「日本で高齢男性ばかりが社会の決定をしているとすると、国に挑戦をするのは難しいでしょうね」

レコラ氏はフィンランド教育の影響も指摘する。

活動的な市民の育成をベースとした学習指導要綱

他の取材先でも学習指導要綱(写真)の重要性が指摘された 筆者撮影
他の取材先でも学習指導要綱(写真)の重要性が指摘された 筆者撮影

レコラ氏「フィンランドには強力な民主教育が根付いています。鍵は国の学習指導要綱です。もちろん改善点もありますが、民主社会と活動的な市民権(Active citizenship)を深く重視した学校制度の影響は大きいです」

「民主社会で市民は社会に影響を与えることができます。国会議員と直接対話するなどの体験を学校でできます」

ペッキネン氏「学習指導要綱は価値観ベースという側面が極めて強いんです。子どもたちに学んでもらいたいのは活動的な市民権に基づく価値。未来に向かって考え行動し、環境や自然と持続可能な方法で共に生きる。教室で教えられる全てのことにこの価値観がきざまれています」

考えるスキル、文化的知識、共同作業、表現、日常生活をおくるスキル、批判的に考えるスキルを伴った識字能力などが、学習指導要綱に盛り込まれているとレコラ氏は話す。ペッキネン氏は現象ベースの学習も指摘する。

実際の出来事から考える現象ベースの学習

ペッキネン氏「例えば気候変動やタリバンでのことなど、実際に起こっていることを、物理学、生物学、スポーツなど様々な科目で異なるレンズを通してみるんです。よって子どもは世界とはとても複雑であり、全てはつながっているのだと知ることができます」

レコラ氏「社会への影響の与え方も変わってきていますね。今はSNSがあるので、必ずしも団体経由でなくとも行動できます」

全ての人に演じる役割がある

ペッキネン氏「北欧には『誰もが自分の演じる役がある』という言い方があります。ライフスタイルの選択においてても、みんなに役割があると。もちろん構造的な選択でもありますが、移動手段・スーパーでの買い物・住宅など、私たちの生活で個人がどのような選択をするかには意味があります」

「個人が持続可能なライフスタイルに与える影響を、北欧の市民は間違いなく気にかけています。時にそれが行き過ぎて、精神的な不安を抱えることもありますが」

若い国家だからこそ、市民で国の未来を築くという意思

レコラ氏「スウェーデンなどに占領されてきた期間が長く、フィンランドは若い国家です。だからこそ『私たちで国歌や福祉制度を築き上げていこう』という考え方が、未来思考につながるのかもしれません」

教育を受けたからこそ若者が気にかける気候危機と不安感

ペッキネン氏「未来指標の調査対象は15~24歳なので、18歳未満の選挙権をまだ持たない層も含まれます。若い層が未来に対して最もポジティブだったのは明白で、未来に影響を与えることができることができるとも信じています。同時に彼らは気候や生物多様性がこれからどうなるのかも不安を感じており、この層のメンタルヘルスは悪化もしています」

レコラ氏「現在の学習指導要綱には持続可能な発展や気候変動も含まれており、若い人はこの分野において学んでいます」

私たちの対話はフィンランド国政選挙の直後におこなわれていた。中道左派から中道右派へと政権交代し、極右政党が連立政権に入るかもしれない可能性は高い。「地球は燃えている」と強く感じている若者が「自分たちの関心が議会に反映されていない」と今後もし感じるとしたら、どのような変化が起こるか。両氏は気にかけていた。

2019年に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の調査書以降、フィンランド社会は明らかに風向きが変わり、気候運動にも注目が向けられるようになったという。

ペッキネン氏「『冬には雪が降るだろうか?』『子どもたちは大きくなった時にスキーができるだろうか?』。猛暑などこれまでとは違う天候が続き、真剣に議論されるようになりました。もともとフィンランド人は天候を話題にしますが、さらに話をするようになったんです」

先日インタビューしたイーダさんは、まさにこの不安を気候行動というアクションで解消しているひとりだろう。

筆者「最後に若い世代にメッセージはありますか」

ペッキネン氏「政治に取り組んで構造を変えることから初めてみましょう。政治にもっと多くの若者や女性の代表者が増えるように」

レコラ氏「物事を変えるには未来に向けたヴィジョンが必要です。Futures Frequencyという同僚が開発したメソッドがあるので参考にしてみてくださいね」

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サンナ・レコラ氏/Sanna Rekola: 21世紀の学び方の考え方をアップデートする「Learning+」プロジェクトのスペシャリスト。地球の収容力の範囲内で人類が持続可能なウェルビーイングと充実した生活を送れるために、学習が有用になるために活動。

イェンナ・ラフデマキ・ペッキネン氏/Jenna Lähdemäki-Pekkinen:社会予測のスペシャリスト。地球の収容力の範囲内で人類がよい生活を送る社会への移行をサポートするためのさまざまなプロジェクトに関わる。

※両氏が所属するSITRAはフィンランド政府傘下の独立調査機関というユニークな立ち位置にいる。政府に調査結果は提出するが、独立機関として政府予算からは補助金はもらわずに運営。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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