ロシア軍の新兵器、空中発射弾道ミサイル「Kh-47M2 キンジャール」
3月10日にロシア国防省が新兵器「Kh-47M2 キンジャール」を公開しました。キンジャールとはロシア語で両刃の短剣を意味します。MiG-31戦闘機に搭載され、最大速度マッハ10、射程2000kmを発揮し、陸上目標および海上移動目標を攻撃できると公式発表では説明されています。(※射程は搭載母機の戦闘行動半径が足されている可能性が高い。最高速度もマッハ10に達しないと推定される。)
ロシア国防省公式YouTubeアカウントより
キンジャールの形状と大きさは地対地短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」に近く、一段式固体燃料ロケットエンジンだと推定できます。空気取り入れ口が見当たらないのでジェットエンジンではなく、滑空用の主翼も無い事から弾道ミサイルそのものであり、空中発射弾道ミサイルという種類の兵器に分類できます。空中発射弾道ミサイルは過去に幾つかの国で試作されましたが採用には至らなかった兵器で、現在使われているのは地対空ミサイルの迎撃試験に使う標的用しかありません。実戦用の空中発射弾道ミサイルが配備されたとなると、キンジャールが史上初となります。
キンジャールについて公表された速度や射程などのスペックが正しいかどうか、また海上の移動する艦船への攻撃が可能かどうかについては懐疑的な部分もあります。キンジャールの外見は従来型の短距離弾道ミサイルとほぼ同じで、戦闘機に搭載した事以外に技術的な新しさは無く、マッハ10の速度で対艦攻撃を実用的に行える兵器には思えません。主目的は対地攻撃用であり、対艦攻撃は停泊中なら狙えるといった性格の兵器だと筆者は考えます。
それよりもキンジャールの本質は「短距離弾道ミサイルを空中発射する事で準中距離弾道ミサイルに相当する射程に延ばした」という設計です。つまり既存のミサイルを改良する事で短期間の内に開発できる上に、空中発射なのでINF条約(中距離核戦力全廃条約)の制限も受けません。合法的な中距離核戦力を早急に得るという二つの目的を達成した事こそが、この兵器の開発理由ではないでしょうか。