氷川きよしとエルサ 「ありのままで」孤高の生き方が教えてくれること
年末に注目を集めた歌手の氷川きよしさん(42)。演歌でキャリアを積んだ氷川さんが、アニメ・ドラゴンボールの主題歌「限界突破×サバイバー」をビジュアル系ロッカーさながらに歌う姿に、びっくりした人は少なくありません。氷川さんの発言やインスタグラムからは、ありのままで自分らしく生きる決意が伝わります。そんな姿は、映画「アナと雪の女王」のエルサとも重なり、教えられることがあります。
〇カテゴライズは「苦しい」
歌唱力とオーラの強さで演歌界の「貴公子」という印象が強かった氷川さん。このところ、メイクやファッションのきれいさ、自分らしく生きたいという発言が注目されています。デイリー新潮(2020年1月6日)によると、年末のNHK紅白歌合戦のリハーサル後に、記者に思いを語っています。
「今までの氷川きよしは氷川きよしで、バックボーンとして、毎日、一生懸命やってきたんですけど、20周年を迎えて、時代も変わって、自分らしく、ありのままの姿で、音楽を表現したいって。どうしても人間って、カテゴライズしたり、当てはめよう、当てはめようって、人と比べたりする傾向があると思うんですけど、そこの中でやっているのはすごく苦しいです」
「自分の限界を決めないで、このドアを開こう。そういう思いで自分も戦ってきたし、そんな限界突破の使命感を感じますし、誰も切り開いていない道を1人で切り開いていくような気持ちで挑戦してきた。いろんなことに挑戦すると、やっぱり摩擦とか生まれるとは思うんですけど、それを怖がっていたら、次のドアは開けない」
◯赤でも白でも大丈夫
紅白の本番後、ツイッターでは、歌唱力がすごい、すがすがしい表情だった、と氷川さんに好意的な声が多く見られました。
改めて本番の映像を見ると、初めは「白い衣装でキリッ」「赤い衣装でニッコリ」という二種類の氷川さんの写真パネルが背景。紅白の着物で新曲「大丈夫」を歌唱し、赤でも白でも大丈夫、とのメッセージを感じました。
「限界突破〜」の前奏が始まり、スモークで隠れている間に早着替え。黒いキラキラ衣装の氷川さんが、黄金のドラゴン上にすくっと立ち上がると、会場がどよめきます。片足を台にかけるロッカーポーズを取って、顔をきゅっと上げました。
自分らしさを前面に出しての歌唱は、紅白に20回出場の氷川さんだからこそ、勇気がいることだったのでしょうか。コンサートで同じ曲を歌う動画と見比べると、緊張していた様子。ドラゴン台のバーをぎゅっと握りしめ、一生懸命に、丁寧に歌っていました。
間奏時、シャウトから、髪をフリフリのヘッドバンギングに驚いた人も多いかもしれません。ダンスや音楽に親しんできた筆者は、ビジュアル系のロッカーって、こんな感じだよね?と違和感なく受け止めました。氷川さんは最後の一節を歌い上げると、真剣な表情を一瞬見せ、最後は素の笑顔になり、手を振っていました。
◯孤高のエルサと重なった
ドラゴンと共に照明の光に包まれ、スッと立つ氷川さんを見た時、映画「アナと雪の女王」のエルサが浮かびました。
アナ雪が公開された2014年。「ありのー、ままのー、姿見せるのよー」と松たか子さんが歌う劇中歌「ありのままで」が大ヒット。魔法の力を隠してきたエルサが、歌いながら自分を解放し、ひとりで生きる決意をするシーンが印象的でした。強い意志を持つ、新しいプリンセスが誕生したのです。
現在、公開中の「アナと雪の女王2」では、さらに強いエルサの生き方が描かれています。エルサが目的地に向かって進もうと、荒れた海で何度も体当たりして、未知の旅へ。物語の最後には、仲良しの妹アナに王国を任せ…。7歳の娘は「エルサ、きれい」と見入っていましたが、アラフィフの筆者は、エルサが選んだ孤高の生き方に、衝撃を受けました。
娘に「アナや王国の人と一緒にいたらいいのに。エルサ、寂しくないのかな」と投げかけると、「大丈夫だよ。仲間もいるし、アナにもすぐ会えるし」との解釈。確かに、魔法の力があり、人と違うということは、孤独です。でも、自分の気持ちに従って生きるエルサは、強くて美しい。孤独なようでいて、応援してくれる人や家族もいるよね、と思い直しました。
紅白での氷川さんの大変身を、引いて見た視聴者もいると思います。けれど、努力して一流の芸を見せてくれる、その一生懸命な姿は、エンターテインメントを愛する人の心に響きます。舞台では、星野源さん、応援に来た声優の野沢雅子さん、ISSAさんたちスターが、心からの笑顔で手拍子してノリノリでした。歌唱後も、高い位置にいる氷川さんを見上げて、手を振ったり、声援を送ったりしていました。
TBSが30日に放送した「第61回輝く!日本レコード大賞」でも、「限界突破~」歌唱後の氷川さんに、司会の安住紳一郎アナウンサーが「やりたいことをやったらいいよ!」と呼びかけました。
◯日常にある、多様な生き方
氷川さんは、湯川れい子さんが日本語に訳したクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を歌い始めたそうです。筆者はクイーンのボーカル・フレディのセクシュアリティと孤独について記事にした際、映画や楽曲、文献を見直してその生き方に向き合いました。
当時はイギリスでも偏見をぶつけられ、フレディは若くして亡くなってしまったけれど、楽曲を通して、自分らしさを世界中の人に伝えています。多様性の理解や受容を強調されるより、何気なくスターの表現に触れ、「こういう生き方もあるんだなあ」と知ることで、少しずつ心の壁が低くなっていくと思います。
氷川さんのクイーンもフルコーラスで聞いてみたいですし、演歌もアニソンもロックも、鍛えあげた歌声と自分らしい方法で、表現していってほしいですね。