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少人数学級の「逆風?」が見落としている、とても大事なこと

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 文科省も政府の教育再生実行会議も前向きに取り組む姿勢をみせている「少人数学級」導入に、もしかすると「逆風」になるかもしれない。

 9月8日に文科省で開かれた小中高校の教育を考える会議の初会合でも萩生田光一文科相は、「令和時代のスタンダードとしての『新しい時代の学びの環境の姿』と、特に少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備や、関連する施設整備等の環境整備の在り方について議論いただきたい」と述べている。少人数学級を令和時代のスタンダードにしようという勢いなのだ。

 それと同じ8日、経済協力開発機構(OECD)のマリーヘレン・ドュメ教育・スキル局シニアアナリストが記者説明会を行い、少人数学級は新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の感染対策としては有効だが、「学習の成果には影響がない」と述べた。とかく学力を重視したがる日本の教育関係者にとっては、聞き捨てならない発言にちがいない。

 少人数学級の議論が活発化するきっかけになったのは新型コロナであり、感染予防のためには1クラスあたりの人数を減らして現在の過密状態を緩和する必要があるとの問題意識が高まったからだ。ただし、それだけの理由では少人数学級を実現するための原動力にはならない。大きく動きだすためには、やはり、「学力」という殺し文句が必要なのだ。

 その学力について、OECDから「影響がない」と言われてしまったのである。これを聞いて、少人数学級実現への熱が一気に冷めてしまった教育関係者も少なくないのではないだろうか。

 さらにOECDのシニアアナリストは、「学級規模を小さくすると、より多くの教員が必要になることから財政に与える影響が大きく、コスト負担に関する議論が必要になる」とも指摘したという。これには、財務省あたりは大喜びしたにちがいない。

 学力に影響がないのに財政負担が大きいとなれば、財務省は大反対である。少人数学級の議論がはじまったときから財務省は財政面を心配し、反論の機会をうかがってきたはずだ。その財務省にしてみれば、OECDのシニアアナリストの指摘は百万の味方を得たに等しいにちがいない。

 しかし、忘れないでほしい。

 少人数学級の実現は、新型コロナ感染対策になり、OECDシニアアナリストは否定的だが学力向上にもつながるかもしれない。それ以上に大事なのは、担任の目が一人ひとりの子どもに行き届きやすくなるということである。一人ひとりの子どもと教員が接する時間が多くなることで、教員が子どもの成長をよりサポートできるようになることだ。それが、少人数学級を実現する最大のメリットである。

 そうした少人数学級を実現するには、教員を増やさなければならないのでコスト増を覚悟する必要はある。とはいえ2019年9月10日にOECDが発表したところによれば、初等教育から高等教育の公的支出が国内総生産(GDP)に占める割合は、日本は2.9%でしかなく、35か国中最下位という状況でしかないのだ。安倍晋三首相も機会あるごとに「教育は最重要課題」と言っているわりには、日本は教育にカネを使っていない。もう少し、カネを使ってもいいはずである。

 子どもたちの成長のために、少人数学級導入議論をトーンダウンさせるようなことがあってはならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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