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書籍『FUTURE EDUCATION!』…教育の現状とその今後の可能性を考えるための貴重な本

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
今、新しい教育の構築が求められている。(写真:つのだよしお/アフロ)

 最近『FUTURE EDUCATION!-学校をイノベーションする14の教育論』という興味深い本が出版された。

 本書は、学校現場の改革実践者である校長や教師、教育研究者、ノーベル賞受賞者、注目のベストセラー著者、児童・生徒から大人気の教育系YouTuber、EdTech(注1)の先駆者の企業のリーダーなど、狭義の教育者にかぎらず広い意味で教育に強い関心を有する14名の多士済々で現在教育分野で大きな影響力のあるKOL(注2)ともいうべき人材のインタビューで構成されている。

本『FUTURE EDUCATION!-学校をイノベーションする14の教育論』 写真:筆者撮影
本『FUTURE EDUCATION!-学校をイノベーションする14の教育論』 写真:筆者撮影

 そのインタビューを通じて、現在の教育の問題や課題が浮き彫りになると共に、現在そして今後に向けて変化しつつあるあるいは変わらざるをえない教育の状況や方向性が示されている。

 しかしながら、同書はこれほど多彩な方々の教育の考え方や意見ではあるが、それは相互に補完し合い共鳴しており、そのポイントは驚くほどに集約されている。

 そのポイントとは、次の5点である。しかも、これらの5点は相互に連動し、密接に関わっている。

(1)社会における大きな変化

(2)新しい教育の必要性

(3)教育の原点の再認識

(4)テクノロジーの活用

(5)「学校×X」の発想

 次に、上記の点についてもう少し検討していこう。

(1)社会における大きな変化

 社会が大きく変化し、従来の学校や教員の在り方や教育の方法だけでは、時代に応じた教育の機会や内容を提供できなくなってきている。

(2)新しい教育の必要性

 (1)の状況を受けて、現在そして今後に向けて新しい教育を構築していく必要性が高まっている。現在のコロナ禍において、そのことはさらに鮮明に顕在化および現実化してきているが、そのような新しい教育の探求および構築はすでに時代の要請であったといえるのである。

(3)教育の原点の再認識

 (2)の「新しい教育」は、「学校は子供が学ぶ所」「学校は人を育てる場所」「一人一人の子供が主体的に学び、その能力を最大限伸ばしていく」という教育の原点を再認識した上で、その認識に基づいて構築していくべきである。

(4)テクノロジーの活用

 STEAM教育(注3)やEdTechについて言及するまでもなく、テクノロジーを教育において活用することで、子供たち一人一人に応じた教育の進捗の把握や教育対応が可能になったり、時間や空間を越えて教育機会を設けることができるなどの新しい教育のシステムや方法を構築することができる。これらのことは、上記のポイントとも密接に繋がっていることは申すまでもない。

 また子供たちが低学年の時から、テクノロジーの活用などに習熟したり知見をもつことで、新しい社会で活躍できるようになる準備をしたり、新しい社会や教育を今後構築していく人材に成長することができると考えられる。

(5)「学校×X」の発想

 学校は、やや極端ないい方をするとこれまでは自己完結的あるいは孤立した教育施設やコミュニティであったといえる。地域社会にありながらも、それとの繋がりは、その改善のためのいくつかの試みはすでに行われてはきているが、十分ではなかった。

 また子供・生徒も、実はその資質・成長や学力など多くの面で多様化してきているが、日本の今後の発展や可能性の向上のためにも、これまでとは異なり、その多様性に応じられる教育や学校が求められてきているのだ。

 しかし、学校は、その教職員のみで自己完結的に運営し、一人一人の子供たちが十分に学ぶことができる場であることやあり続けることが非常に難しくなってきたということができる。

 そのような意味からも、様々な外部の人材や知見・ノウハウ、システムなど様々なもの(それを「X」とする)と学校を有効に組み合わせて、一人一人の子供が主体的に学び、その有する能力や潜在性をできるだけ伸ばせるようにしていく教育が必要になってきたということができるのである。

 以上のことからもわかるように、本書は、現在に日本の教育の現状の問題や課題を知り考え、そしてその教育の今後の可能性を模索している方に、非常に貴重かつ有効な示唆を与えてくれている。お薦めである。ぜひご一読を!

(注1)EdTech(エドテック)は、EducationとTechnologyをかけた造語で、「教育分野にテクノロジーの力を入れることで変革(イノベーション)をもたらすこと」(出典:コエテコHP)。

(注2)KOLは、「key opinion leader」の略で、一般的には、中国のソーシャルメディアにおいて、強い影響力をもつ人や製薬業界において、新薬の普及に影響力をもつ医師や専門家のことを指すが、ここではメディアにおいて強い影響力をもつ専門家や実践家(本記事では特に教育分野において)を意味している。

(注3)STEAM教育とは、「『Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics等の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育』であり、『学際的なアプローチ』『アカデミックと現実世界の融合』『学校と社会の接続』をしながら学ぶこと(出典:STEAM教育協会HP)。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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