マルハラはいつどこで生まれたのか?
マルハラという言葉はご存じでしょうか?
LINEやチャットの文章で文末の「。」に若者が威圧感を覚えるという「マルハラスメント」が話題となっているそうです.
様々なメディアでマルハラがなぜ起きるのか等,識者による解説が行われていますが,一方で若者の声として「。」があれば何でもかんでもマルハラではない,など反論も出ています.そもそもどこの記事を読んでも,実際にどの程度の若者がマルハラを感じているのか調査されたものはなく,せいぜい身の回りの2,3人の声を紹介している程度だったりします.
そこで,若者は本当にマルハラを感じているのか,「存在している」という前提ではなく,まず非実在の可能性がないか大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授と社会調査を行いました.
調査の報告書はこちらにありますので,詳細が気になる方は是非ご覧ください.
マルハラ調査概要
ここでは,ポイントだけ簡単に紹介しておきましょう.
まず,マルハラの知名度はどの世代でも50%程度.思ったより浸透しているというわけではなさそうです.
また,LINE上の句読点は感嘆符に比べて威圧感や冷淡さを感じることがあるが,それは若者世代に限ったことではないようです.
LINEなどのやりとりにおいて,句点「。」を使用したメッセージを受け取った時に,威圧的だと思うことが「たまにある」割合が18~29歳女性で多いが,若者全体では70%がまったくない,ほとんどないと回答しています.
これを踏まえると,「LINEなどで句読点を使うと威圧感を覚える若者は存在しないことはない」というのが主な結論です.
句読点に威圧感を覚えるのは非実在型の現象ではないとはいえ,よくあると答えた人はわずかであり,句読点=マルハラスメントというのは行き過ぎではないかと危惧する次第です.なお,「若者は句読点を嫌がるのか」と鼻息が荒くなる30歳以上の方も多い気がしますが,あくまでも「LINEやチャット」での話なので,句読点があるとすべて威圧的に感じると言っているわけではないことに注意が必要です.
この辺は継続調査が必要だとは思いますが,LINEやチャットでは句読点を使わない方が自然に感じる人が一定数いるというのは,それこそ文化の違いで,それほど不思議ではない気がします.
マルハラはアテンションエコノミーか
ところで、この調査を朝日新聞に取り上げてもらったのですが、その記事につけられた見出しが「。「。で終わる文章は威圧的」 若い女性の4割「マルハラある」と回答」でした。
見出しだけ読むと若い女性の多くがマルハラを受けて困っているように読めます。調査で若い女性4割が「威圧感を覚えることがたまにある、よくある」であることを受けて「4割がマルハラ」としたようですが、そこには飛躍があるのではないでしょうか。「威圧感を覚える若い女性が4割」だったらよかったのですが、厳密には誤った見出し誤解を招きそうな見出しをつけられてしまいました。
確かにこちらのタイトルの方がアテンション・エコノミー的にはアクセス数を稼げそうですし、なんとしてもマルハラに実在していてほしいというメディアの熱い想いを感じます(根拠の無い陰謀論)。
そこで疑問になってくるのが,そもそもマルハラっていつくらいから出てきた言葉なのでしょうか?そして,どのくらいメディアで使われているのか,調べてみました.
マルハラの歴史
まずは,検索エンジンでマルハラがどの程度検索されたのかを調べてみました.GoogleTrendsを使って検索の割合を見た結果がこちらです.3月8日から過去90日の「マルハラ」のトレンドを調べました.
これを見ると,2024年2月2日から急激にマルハラの検索が増えていることが分かります.それ以前はほとんど見られなかった単語であることから,この時に急に登場したと言ってよいのではないでしょうか.
では,なぜ2024年2月2日に急激に検索が増えたのでしょうか?その要因を探るべく,Ceek.jp Newsを使ってマルハラが含まれるニュースの件数を調べました.2024年1月1日から3月8日までのニュース件数がこちら.
2024年2月2日にニュースがあり,その後2月9日以降は毎日のようにマルハラが含まれるニュースがあるようです.
ここで確認できた最初のニュース記事は,AbemaTimesのLINEで句点「。」は誤解を招く… という記事でした.
ちなみに,冒頭が
でしたが,GoogleTrendsで見る限り「マルハラ」が検索されるようになったのは2024年2月からなので「注目されている」はさすがに存在しないものを存在することにする非実在型炎上の手口に近いようにも思えます.
ただし,マルハラという言葉を使わずに「句読点に威圧感を覚える」ということだと,2024年1月21日にAERA.dotに「。」に威圧感や怒りの感情を読み取る若者 背景にタイパ重視世代の“気遣いと正義”という記事が掲載されており,この記事がここ最近のマルハラブームの先駆けなのかもしれません.
マルハラ推進派メディア
最後に,マルハラという言葉が含まれる記事をどこのメディアがどのくらい書いていたのかをCeek.jp Newsから調べてみました.
2回以上記事を掲載したメディアと掲載回数がこちらです.
34のメディアが69の記事を掲載しており,そのうち16メディアが2回以上マルハラが含まれる記事を掲載していました.
特に多かったのは朝日新聞と毎日新聞で,2024年1月以降でそれぞれ6回記事を掲載していました.意外と大手マスメディアが真剣にマルハラを取り上げているようで,なかなかの力の入れようです.大手マスメディアはその取材力を生かして存在するかどうかも調べてくれると良かったのですが.
ここではネットニュースだけを扱っていますが,テレビの放送も調べてみると面白そうです.
ピリハラ疑惑
ところで,研究者の中には私も含めて句読点の代わりに「,」と「.」を使って文章を書く人がいます.これは,論文の書き方に「,」と「.」を使うという決まりがあるためです.分野によっては「,」と「。」だったり様々ですが.
私なんかも設定を直すのが面倒なので通常の文章も「,」と「.」を使ってしまっていますが,時々「ちゃんと句読点を使え」「なんか気持ち悪い」という苦情が来たりします.そのうち,論文風にカンマとピリオドを使って文章を書くとピリハラと言われるようになるのかもしれません.怖い.