なぜエムバペの移籍は決定しないのか?レアルの“思惑”とパリ残留の可能性。
スタープレーヤーを確保したいと願うのは、当然のことだ。
キリアン・エムバペの去就に注目が集まっている。パリ・サンジェルマンとの契約は2022年夏まで。つまり、この夏にフリーの選手になる。
そのエムバペを、かねてから狙ってきたのがレアル・マドリーだ。先月には、「移籍は来週に決定する」(3月12日のスペイン『マルカ』一面)スペインメディアが“当確”を報道した。
■パリに残る可能性
ただ、依然として公式発表は行われていない。
パリSGはエムバペの残留を諦めていない。そもそも、クラブとしてはカタール・ワールドカップまでエムバペを繋ぎ止める予定だったのだ。
パリSGは2011年にQSI(カタール・スポーツ・インベストメンツ)に買収された。カタール投資庁の子会社に買収され、実質上の“国家クラブ”となった。そのパリSGがビッグプロジェクトとして掲げていたのが欧州制覇とカタールW杯に向けたブランドイメージの向上で、そのために補強されたのがネイマールとエムバペだった。この2人の獲得には、4億ユーロ(約520億円)が費やされている。
計算外だったのは、カタールW杯が秋冬開催だったことだろう。厳密に言えば、すでにパリSGは大きなミスを犯していた。もっと早い段階で、エムバペとの契約を少なくとも2023年夏まで更新しておくべきだった。
とはいえ、パリSGが完全に希望を失ったわけではない。エムバペが移籍を考慮している理由の一つに、肖像権の問題がある。彼は自身の好まないメーカーとのコラボレーションやプロモーションを望んでいない。パリSG側には、この点でエムバペに譲歩する考えがあるようだ。
■レアル・マドリーの思惑
一方、マドリーは数年前からエムバペの獲得に向けて準備してきた。
両者の“邂逅”は2012年である。当時14歳だったエムバペが、誕生日に際する両親の粋な計らいで、マドリーの練習場バルデベバスの施設見学の機会を得た。そこでジネディーヌ・ジダンやクリスティアーノ・ロナウドに出会い、エムバペの夢は膨らんだ。
また、マドリーは近年、補強に大金を投じてきていない。2020年の夏のマーケットでは、基本的にレンタルバックの選手たちが到着したのみ。昨年夏においては、ダビド・アラバ(フリートランスファー)、エドゥアルド・カマヴィンガ(移籍金3100万ユーロ/約40億円)とローコストで補強を行った。
そういう金銭的な意味でも、マドリーは手筈を整えてきた。ガレス・ベイル、マルセロ、イスコといった選手が今季終了時に契約満了を迎える。サラリーキャップに関しても余裕がある状況で、エムバペを迎え入れる用意ができている。
「このクラブの未来は、(会長の)フロレンティーノ・ペレスのおかげで、最大限のレベルにある。今後、数シーズン、そのレベルは維持されるだろう。誰が移籍してきたとしてもね」
「私は幸運な監督だ。それは間違いなく言える。非常にアイデンティティーを感じるチームで、指導をさせてもらっている。そのことで、非常に満足感を得ている。オーガナイズが整ったクラブだ。レアル・マドリーに感謝すべきは私の方で、再び指揮するチャンスを与えてくれてありがたく思っている」
これはカルロ・アンチェロッティ監督の言葉だ。
ヴィニシウス・ジュニオール、ロドリゴ・ゴエス、エデル・ミリトン、フェデリコ・バルベルデ、カマヴィンガ…。現在のマドリーには、若い選手が揃っている。この数年の補強策が実り、年齢のバランスは非常に良い。
攻撃の中枢にはカリム・ベンゼマがいる。今季、公式戦40試合で39得点13アシストを記録しているベンゼマだが、エムバペとはフランス代表で一緒にプレーしている。
無論、移籍は最後までどうなるか分からない。ただ、マドリーはいつでも移籍が完了できるように、虎視淡々とやるべきことをやっているように見える。