レアルが欧州で4強入りした理由。ヴィニシウスとロドリゴへの「投資」と中長期での回収。
歴史と伝統が、継続的な強さを担保するのかもしれない。
チャンピオンズリーグ準々決勝、レアル・マドリーはチェルシーを撃破した。欧州最高峰の大会で4強入りを果たして、リーガエスパニョーラでは首位を快走している。
「3点差になり、解放されたところがある。このスタジアムの、このクラブの魔法があらわれた」とはチェルシー戦後のカルロ・アンチェロッティ監督の弁だ。
ベルナベウの魔法――。確かに、その側面はあるだろう。だがマドリーが2シーズン連続でCLベスト4進出を決めたのには、理由がある。
■ロドリゴの活躍
先のチェルシー戦で、起死回生のゴールを記録したのはロドリゴ・ゴエスだった。
ファーストレグを1−3で落としていたチェルシーだが、セカンドレグでは立て直してきた。3−0でリードを奪い、ラウンド突破に手をかけた。3点目が入った2分後、カルロ・アンチェロッティ監督はロドリゴを投入する。その2分後、ルカ・モドリッチのアウトサイドのクロスからロドリゴのボレーシュートが決まり、マドリーは息を吹き返した。
ロドリゴは“持っている”選手であり、“CLの男”だ。2019−20シーズン、CLのガラタサライ戦で、18歳301日の若さでハットトリックを達成。キリアン・エムバペ(20歳306日)の記録を塗り替え、CLのレコードを更新した。
そして、先のチェルシー戦での得点だ。「ロドリゴのゴールでスイッチが入った。そういった習慣があると、まるでスタジアムにオーナーがいるような感覚が生じる。それは拡散される。対戦相手が、そのことを信じるようになる。そこが重要なんだ」とはかつてマドリー を率いた経験のあるホルヘ・バルダーノの言葉である。
マドリーは今季、アンチェロッティ監督が早い段階でスタメンを固定した。しかしながら、右WGのポジションに関しては、ロドリゴ、マルコ・アセンシオ、フェデリコ・バルベルデらがレギュラーを奪うために競争してきた。
左足の強烈なキックがあるアセンシオ、ポリバレントなバルベルデとは、ロドリゴは異なる特徴を備えている。右利きで、縦に突破できて、ハードワークで守備においても貢献する。マドリー加入の際には、60キロほどだった体重も、66キロまで増えた。フィジカルベースを高くして、虎視淡々と定位置の座を狙ってきた。
■マドリーの補強方針
ロドリゴは2019年夏に移籍金4500万ユーロ(約60億円)でマドリーに正式加入している。
また、マドリーはその一年前に移籍金4500万ユーロでヴィニシウス・ジュニオールを獲得している。
近年、マドリーは若手選手の発掘に腐心してきた。エデル・ミリトン(移籍金5000万ユーロ/約67億円)、アンドリュー・ルニン(移籍金850万ユーロ/約11億円)、アルバロ・オドリオソラ(移籍金3000万ユーロ/約41億円)、ブラヒム・ディアス(移籍金1700万ユーロ/約23億円)、ルカ・ヨヴィッチ(移籍金6300万ユーロ/約85億円)、ヘイニエル・ジェズス(移籍金3000万ユーロ)といった選手たちだ。
フロレンティーノ・ペレス会長にとって、それはある種の投資であった。
この数年、欧州では国家クラブの台頭が著しい。他ならぬマドリーが、昨年夏の移籍市場でエムバペの獲得に失敗している。そういった状況で競争力を維持するため、若い選手に早めに唾を付けるというのがペレス会長の至った考えだった。
ロドリゴとヴィニシウスは、その象徴的な存在だと言える。
彼らの獲得に、暗躍したのが国際フットボール部門のトップであるフニ・カラファトだ。カラファトがマドリーに入閣したのは2013年である。その夏、マドリーはネイマールの獲得競争でバルセロナに敗れていた。南米、とりわけブラジルのマーケットのスカウティングを強化する目的でカラファトに白羽の矢が立てられた。
スペイン生まれ、ブラジル育ちのカラファトは、うってつけの人物だった。ヴィニシウスの獲得に際しては、10回以上ブラジルを訪れたといわれている。2016−17シーズンのレアル・マドリーのユニフォームに全選手にサインを入れ、ヴィニシウスにプレゼントするなど、論理と情熱で選手を口説き落とした。
現在、ヴィニシウスやロドリゴを獲得しようと思えば、移籍金がいくらになるか。その点とこれまでの活躍を考慮すると、マドリーの投資は彼らを売却するまでもなく回収の段階に入ったといえるだろう。
レアル・マドリーといえば、“金満クラブ”というイメージが強いかもしれない。
実際、ガレス・ベイル(移籍金1億ユーロ)、エデン・アザール(移籍金1億ユーロ)と高額な移籍金での補強を行なってもいる。
ただ、一方で、未来を見据えてマドリーとペレス会長は手を打ってきた。今季、決定力が爆上がりしたヴィニシウスの躍動とロドリゴの一発の前には、したたかな準備があったのである。