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気象庁は命名基準を大幅に引き下げ「平成29年7月九州北部豪雨」

饒村曜気象予報士
福岡県の地図(ペイレスイメージズ/アフロ)

平成29年7月九州北部豪雨と命名

気象庁は7月19日に、7月5~6日に九州北部で発生した豪雨を、これまでの命名基準を大幅に引き下げ、「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。気象の命名では28番目です(表1)。

しかし、福岡県朝倉から大分県日田にかけて甚大被害が発生しましたが、九州北部全域の豪雨ではありません。

表1平成16年以降の気象に関する命名
表1平成16年以降の気象に関する命名

顕著異常現象の命名

気象庁では、顕著な災害を起こした自然現象について命名をしています。

顕著な災害を起こした自然現象については、命名することにより共通の名称を使用して、過去に発生した大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承するとともに、防災関係機関等が災害発生後の応急、復旧活動を円滑に実施することが期待されるからです。

最初に命名したのは昭和33年の台風22号で、狩野川台風と命名しました。

このとき、遡って、昭和29年の台風15号を洞爺丸台風と命名しました。

その後、大きな災害が起きるたびに命名が検討され、命名されたりされなかったりしてきました。

昭和36年9月16日に台風18号が大阪地方を襲った2日後、「台風、地震等顕著異常現象の命名について」という方針が、気象庁の庁議で決まっています。

このときの考え方は、「顕著異常現象の名称については、次第に法律名にも引用される状況になってきたことから、異常現象に対する命名の根本方針を明らかにさせたい」ということでした。

顕著異常現象の命名

時代がたつにつれ、命名された顕著異常現象が増えてきたり、命名に対する要望が多岐にわたってきたことから、気象庁では平成16年3月15日に「命名についての考え方と名称の付け方」を決め直しています。そして、基準を厳しくすることで、命名する顕著異常現象を抑制することを考えていました。しかし、基準を厳しくしても命名するケースが減っていません。それだけ顕著異常現象が増えてきたともいえます。

豪雨の命名の考え方

顕著な被害(損壊家屋等1000 棟程度以上、浸水家屋10000 棟程度以上など)が起きた場合

名称の付け方

豪雨災害の場合は被害が広域にわたる場合が多いので、あらかじめ画一的に名称の付け方を定めることが難しいことから、被害の広がり等に応じてその都度適切に判断している。

豪雨についての命名は浸水家屋10000棟

気象庁が命名するときの基準の一つに、浸水家屋(床上浸水と床下浸水の合計)が10000棟というものがあります。直近3つの命名は、いずれも10000棟を越えています。

平成24年7月九州北部豪雨の被害:死者30人、12600棟

平成26年8月豪雨の被害:死者14人、浸水家屋5500棟(広島市北部を除く)

(広島市北部では死者76人、浸水家屋4200棟)

平成27年9月関東・東北豪雨の被害:死者14人、浸水家屋12100棟

しかし、平成29年7月九州北部豪雨の被害は、7月19日現在、消防庁によると、死者・行方不明者43人、浸水家屋1000棟と浸水家屋の基準の10分の1です(表)。

表2 梅雨末期(6月30日以降)の豪雨被害
表2 梅雨末期(6月30日以降)の豪雨被害

これは、猛烈な雨の範囲が福岡県朝倉から大分県日田にかけてと狭い範囲で、被害もこの地域に集中しているからです。

図1 九州北部の24時間降水量(7月5日12時から6日12時)
図1 九州北部の24時間降水量(7月5日12時から6日12時)

平成29年7月九州北部豪雨の被害範囲は、5年前の平成24年九州北部豪雨よりも狭い範囲です(図1、図2は気象研究所報道発表資料より)。福岡県朝倉から大分県日田にかけて甚大被害が発生しましたが、北九州全域の豪雨ではありません。

また、バックビルディング現象(あるいは、線状降雨帯)という特異な現象でおきて命名というなら、平成26年8月の広島市北部の豪雨も命名でしょう。

7月22日4時に線状降雨帯を追加:

図2 線状降雨帯の説明図
図2 線状降雨帯の説明図

災害の変化により命名基準が変わるべきとは思いますが、変わるなら変わるで、「命名についての考え方と名称の付け方」の新しい基準を早く公表する必要があると思います。

基本は、「命名することにより共通の名称を使用して、過去に発生した大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承するとともに、防災関係機関等が災害発生後の応急、復旧活動を円滑に実施することを期待する」です。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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