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セビージャ、6-1大敗の理由。サンパオリ監督の[5-2-3]はなぜ機能しない?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
やりたいサッカーができないのならやれることをすべきでは。代表ではメッシも指揮した(写真:ロイター/アフロ)

4日のアトレティコ・マドリー戦、セビージャは6-1と大敗した。サンパオリ監督の[5-2-3]には構造的な欠陥がある。

大敗の大きな理由は2つある。

大きな理由の1つは、ボールが出せないこと。

ボールを出そうとして引っ掛かり、アトレティコ・マドリーのショートカウンターを簡単に喰らった。ロストしてフィニッシュまで3タッチ程度、関与した人数3人程度でネットを揺らされた。

■ボール出しに失敗。ロストして連続失点

ボールが出せないのは、1つは個人的な能力不足のせい。

モロッコ代表で大活躍のGKボヌはセーブは素晴らしいが足技がもう一つ。右CBニアンズは余裕があればある程度ボールが触れるが、圧力を感じるとミスが出る。ともにワンタッチやツータッチでショートパスを繋ぐのは厳しいレベルだ。

残りの2人、センターCBジョルダンと左CBグデリはもともとMFでありボールが触れる。だが、ボール出しを担当しないといけない4人(3CB+GK)のうち2人(GK+右CB)に不安があるとやはり厳しい。

シメオネ監督は、クラブ史上最多、613試合目の記念を大勝で祝った
シメオネ監督は、クラブ史上最多、613試合目の記念を大勝で祝った写真:ロイター/アフロ

アトレティコ・マドリーは2トップ(メンフィス+グリーズマン)なので、数で言えば4対2で2人も余っている。なのに、質が足りないので引っ掛かってしまう。

ボール出しに長けたバルセロナやレアルソシエダ、ビジャレアル、ベティスなら、2トップに対してだったら3人(CB2人+GK)で出してしまう。4人(CB2人+GK+セントラルMF)もいたら万全なのに……。

■デメリット大。SBが上がりっ放しの不思議

ボール出しができない2つ目の理由は、ポジショニングの問題。両SBは上がりっ放しで、ボール出しを助けには来ない。

CBからSBへのパスはイージーで、相手のプレスは届かないので、それだけではボールは出せないかもしれないが、逃げ道にはなる。SBがボールを持てばCBやMFとのコンビ、同じサイドのウインガーとのコンビ、サイドチェンジで逆サイドのウインガーを走らせるなどのオプションが生まれる。

なのに、サンパオリ監督はSBに高い位置取りをさせる。彼らにボールが入ればビッグチャンスになるが、その前段階のボール出しでロストしてしまうのだから意味がない。

まずSBを下げてボール出しに関与させ、ボールを出しが終わって前進できたらSBもポジションを上げていく、というのが、普通のやり方。なぜそうしないのかは不思議でしかない。

グデリ(右)は良い守備的MFだがCBとしてはやや軽い
グデリ(右)は良い守備的MFだがCBとしてはやや軽い写真:ロイター/アフロ

■ロングボールという逃げ道も用意せず

技が足りない。フォローも足りない。そんな状況でなぜショートパスでのボール出しにこだわるのか? アトレティコ・マドリーも、前節のオサスナも無理せずGKなりCBなりが大きく蹴っていたではないか?

ロングボールを落としてポストプレーできる選手がいないのは、事実である。エン・ネシリは裏抜けはできるが、ハイボールを収めることはできない。

では、単独で無理ならば、なぜ2人掛かりでハイボールを収めるコンビを確立しない? オカンポスが頭ですらして、その落下点にエン・ネシリが走り込むとか。アトレティコ・マドリーはグリーズマンがすらしてメンフィスが走り込むなどのコンビをちゃんと確立していた。

ロングボールを収めるコンビができていれば、ボール出し時にプレスを掛けられた時の逃げ道としても役に立つ。ロングボールを収めることができれば、相手も警戒してラインを上げること、プレスを掛けることを躊躇する。

メンフィスは2ゴール。2点目はゴラッソだった
メンフィスは2ゴール。2点目はゴラッソだった写真:ロイター/アフロ

セビージャの前監督ロペテギのボール出しはシンプルだった。無理をせずCBやSBが大きく蹴っていた。無理をするメリットよりデメリットの方が大きい、と計算していたからだろう。

サンパオリはポゼッションサッカーの信奉者として知られている。なぜ今のセビージャのこの顔ぶれでショートパスによるボール出しなのか? まさか“ポゼッションが好きだから”なんてことではないことを願う。

■見た目通りの、あり得ない!中盤の数的不利

大敗の大きな理由の2つ目は、中盤の構造的な人数不足。サンパオリのシステム、[5-2-3]を見れば一目瞭然。2列目は2人(ダブルボランチ。ラキティッチとパペ・ゲイェ)しかいない。

普通、見た目通りに数的有利になったり、数的不利になったりはしない。1列目から下がって来たり、3列目から上がって来たりのサポートがあるからだ。

例えばよく使われる[4-2-3-1]も3列目は2人(ダブルボランチ)しかいないが、その分トップ下が2列目から下がって来たり、両サイドが内側に絞ったりして、ダブルボランチが裸にならないような工夫をする。

ソシエダのシステムは[4-3-3]でも、中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]でもスビメンディの1ボランチだが、彼が孤立しないようにブライス・メンデスやミケル・メリーノが必ず下がって来る。2人が間に合わない非常事態にはDFラインを下げず、コンパクトにして相手のパスコースを無くすことで対応しようとする。そういうメカニズムができている。

だが、今のサンパオリの[5-2-3]は見たまんまである。ダブルボランチは裸なのだが、人数が余っている5バックや贅沢な3トップからサポートが来るわけでもない。

セビージャの戦意を喪失させる3点目を決めたグリーズマンはシメオネに抱き着いて喜んだ
セビージャの戦意を喪失させる3点目を決めたグリーズマンはシメオネに抱き着いて喜んだ写真:ロイター/アフロ

アトレティコ・マドリーは[5-3-2]だった。2列目は3人(コケ、ウィツェル、レマル)なので、2-3=-1、1人足りないという算数が成立してしまう。こんな算数通りにチームに穴が開いてはいけないのだ。そうならないように、寄せや上下・水平ライン間の人数移動をさせるなどの手当をするのが、監督の仕事ではないか。

ボール出しが拙い+中盤の数的不利=自陣深くでロストしてショートカウンターを喰らう。

こういうシナリオが成立してはいけないのだ。

■開き過ぎの3トップでプレスも空振り

中盤の人数不足は、もう1つの深刻な問題――なかなかボールを奪えない――を引き起こす。よって、カウンターは喰らい放題だが、こっちが喰らわすことはできない。

問題があると思ったのは、3トップのポジショニングである。センターにエン・ネシリがいてスソとオカンポスがサイドに大きく開いている。サイドを広く使って攻撃したい、という意図はわかるが、あんなに開いていてはボールロスト時に内側に絞るのが間に合わない。絞ってダブルボランチを助けることができない。

それと、あんなに開いていては相手のボール出し時に効果的なプレスができない。

3トップであっても相手のボール出し時には2トップにするのが定石である。

例えばバルセロナは[4-3-3]だが、相手のボール出し時には[4-4-2]にして、CFレバンドフスキとMFの1人(ガビかケシエが多い)が2トップのような形で相手DF4人にプレスを掛けてボール出しを妨害する。

途中出場のモラタも2点。これだけ人数がいてなぜカウンターを喰らう?
途中出場のモラタも2点。これだけ人数がいてなぜカウンターを喰らう?写真:ロイター/アフロ

だが、今のセビージャは勢いのあるエン・ネシリがプレスに行き、それにつられて次に勢いのあるオカンポスが行く感じ。オカンポスがプレスに行くと、担当の左サイドが空いてしまい、簡単にボール出しを許してしまう。

そうならないように、バルセロナのように普通のチームはMFが1枚上がって来るのだが、セビージャは裸のダブルボランチなので、上がって来るMFがいない。よって、エン・ネシリ+オカンポスでもエン・ネシリ+スソでもサイドが空いてしまい、簡単にボールを出されて後退する一手になってしまう……。

前節のオサスナ戦、監督の指示を書いた紙をアクーニャがもぎ取り丸めてグラウンドに叩き付けたことがあった。83分で2-2、“そんな紙を見ている場合か!”という怒りだったのだろう。その3分後に決勝点を奪われた。

やはり紙が回って来た1カ月前のバルセロナ戦では、その5分後に決定的な追加点を奪われた。紙を見ないとわからないような大変更をされても混乱するだけ、ということだ。

昨夜の選手の怒りぶりを見ても、チームが監督を信頼していないような気がする。セビージャ、かなりやばい状況だ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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