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「臆病で偽りの解決策なんて必要ない!」石油の国、ノルウェー市民の叫び

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
「石油を愛している」のTシャツを着た石油大臣プラカードを市民が掲げる 筆者撮影

ドバイで開催される国連気候サミットCOP28を控え、環境保護団体や労働組合などがノルウェー全土で大規模な抗議行動「気候大行進」を行った。

「石油をそのままに」のメッセージで国会前に集まった市民 筆者撮影
「石油をそのままに」のメッセージで国会前に集まった市民 筆者撮影

20日は各都市で気候デモが一斉に始まり、自然保護団体、労働組合、オスロ司教区、政党、動物愛護団体など、政治や価値観の異なる50以上の団体が連名で参加した。

ノルウェーの気候政策は劇的に強化される必要があります。機能する気候政策が必要です。誰もが目標を達成できると信じられるような、うまく機能する政策が。

世界中で森林火災が発生し、ノルウェーやその他の国々では1,000年に一度の洪水が発生し、いくつかの大陸では記録的な気温となり、記録的な数の熱帯暴風雨が発生した夏が意味するのは「気候危機はここにあり、不公平であり、さらに悪化する可能性がある」ということです。

世界中の人々は、化石燃料の時代を長引かせるような誤った解決策ではなく、気候変動対策を求めています。特に化石燃料で経済的に豊かになった国々に対して。

気候変動に関する政府間パネルと国際エネルギー機関(IEA)は、これ以上壊滅的な気候変動を避けるためには、ノルウェーを含むすべての国が石油探査を中止し、石油とガスを段階的に廃止し、大規模なエネルギー効率と再生可能エネルギーに投資しなければならないと述べています。

しかし、ノルウェーは積極的な石油政策を続けています。

12月に石油の都ドバイで開催されるCOP28気候サミットでは、すべての化石燃料の段階的廃止が主要議題となります。ノルウェーのような化石燃料生産国には、真の公正な転換を求める圧力が高まっています。ノルウェーは、化石燃料の使用を段階的に削減することを受け入れなければなりません。

ノルウェーの政治家を含め、多くの人々が気候変動対策を望んでいます。

気候大行進のプレスリリース

ノルウェー政府は石油とガスを段階的に廃止するという提案には消極的だ。その姿勢に対して「ノルウェーは責任を取らなければいけない」と市民が政府に圧力を与えている。

「気候正義を今!」と訴えるノルウェー最大級の青年自然団体 筆者撮影
「気候正義を今!」と訴えるノルウェー最大級の青年自然団体 筆者撮影

タリエ・オースラン石油・エネルギー大臣(労働党)は、国会前のデモに顔を出して、「政府として野望的な気候政策を実行し、社会転換にはみんなが参加しなければいけない」と語っていた。だが市民のブーイングや嘲笑も多く、全ての言葉は筆者も聞き取ることができなかった。

市民から石油大臣にスーツケースをプレゼント

各団体が次々と提案書などをスーツケースに入れていく 筆者撮影
各団体が次々と提案書などをスーツケースに入れていく 筆者撮影

現場は石油大臣に対してずっと「冷たかった」わけではない。それはノルウェーらしい民主的な社会の変え方ではなく、政治家の背中を後押しする重要性も団体や市民は理解している。

そこで用意されたのが「スーツケース」。国連気候サミットCOP28に参加する大臣への応援として、次々と団体が「提案書」をプレゼントし、「スーツケースに入れて、飛行機で読んでね」と手渡した。

ブーイングされながらも抗議の場に出てくる石油大臣(右) 筆者撮影
ブーイングされながらも抗議の場に出てくる石油大臣(右) 筆者撮影

それでもノルウェー政府は石油に頼り続けながら、国際社会では「気候フレンドリーな国だ」とアピールする姿勢を変えないだろう。その矛盾を国民は知っているからこそ、このような抗議活動は頻繁に起きる。

国連気候サミットでノルウェー政府は大したことはしないだろうが、もし市民がこれで諦めて沈黙したら、さらに石油依存は止まらない。だから市民はこうして今日も抗議活動を続けるのである。

中には13歳の少女もおり、大臣に話しかけた若者たちは「私たちは心配で、不安で、怖がってもいる」と、気候不安を隠さずに伝えていた 筆者撮影
中には13歳の少女もおり、大臣に話しかけた若者たちは「私たちは心配で、不安で、怖がってもいる」と、気候不安を隠さずに伝えていた 筆者撮影

「COP28の持っていくものリスト」に「歯ブラシ、綺麗な靴、パジャマ、気候野心」と書かれ、「CCSロビー(二酸化炭素回収・貯留)」が「持っていかないもの」になっていた 筆者撮影
「COP28の持っていくものリスト」に「歯ブラシ、綺麗な靴、パジャマ、気候野心」と書かれ、「CCSロビー(二酸化炭素回収・貯留)」が「持っていかないもの」になっていた 筆者撮影

大学生や文化人はダンス、詩、音楽など、自分たちの得意分野で抗議活動の場を盛り上げた 筆者撮影
大学生や文化人はダンス、詩、音楽など、自分たちの得意分野で抗議活動の場を盛り上げた 筆者撮影

若者から高齢者まで、幅広い市民が国会前に足を運んだ。気候スピーチの間には音楽などの演奏が入り、文化とアクティビズムがこの国では常に共にあることを改めて感じた 筆者撮影
若者から高齢者まで、幅広い市民が国会前に足を運んだ。気候スピーチの間には音楽などの演奏が入り、文化とアクティビズムがこの国では常に共にあることを改めて感じた 筆者撮影

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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