「VWショック」のインパクトは、かつての「トヨタショック」と比較にならない
欧州株式相場は22日、まさかの大幅安となりました。フォルクスワーゲン(VW)の不正問題による影響が出た模様。この問題は一端が発覚しただけであり、波紋はさらに大きく、強く、広範囲に、広がると思われます。「制裁金2兆円」「赤字転落不可避」「まさかの経営危機か」というショッキングなニュースも飛び交っていますが、全貌が明らかになるまでは少し時間がかかることでしょう。
さて、今回の「VWショック」を考えるにあたり、本記事においては、かつての「トヨタショック」と比較してみたい。そのうえで、どのような性格のインパクトを世界に与えるのか、少しでも整理できたらと思います。
それでは、まず、本問題を簡単にまとめてみます。フォルクスワーゲン(VW)の不正は、米国で排ガス規制を逃れようと意図したものであり、刑事訴追の可能性も示唆する事態にまで発展しています。この点が重要です。不正操作されたディーゼル車は1100万台以上、大規模リコールにかかる引当金は8700億円を見込みます。さらに制裁金は2兆円を超えるともいわれ、昨年(2014年)過去最高を記録した純利益額は1兆4500億円と巨額であるものの、赤字転落は避けられそうにありません。1937年に創設されて以来の”大スキャンダル”に発展することは間違いないでしょう。
いっぽう、俗にいう「トヨタショック」とは、当時、2兆円を超える利益を出し、名実ともに世界ナンバーワンの自動車関連企業として君臨したトヨタ自動車が、2008年のリーマンショック以降に急転直下、赤字に転落。大胆なリストラ策、賃金カット、社長交代を断行しました。この一連の事態を「トヨタショック」と呼びます。膨大な数の関連企業の業績を直撃。城下町である愛知県や名古屋市の不動産価格を強烈に押し下げるなど、その衝撃は凄まじかったと言えます。
この年、愛知県豊田市、田原市の法人税収は9割減となり、学校や病院の改修工事や、街の整備計画のほぼすべてがストップ。実際に豊田市の市長が「この財政上の急変は未曽有の事態だ」と表明したほどです。
さて今回の「VWショック」と「トヨタショック」とを比較する場合、忘れてはならないのは、要因が、「外部」にあったのか「内部」にあったか、そのどちらであるか、についてです。
「トヨタショック」の場合は、明らかにサブプライムローン問題に端を発した世界不況という「外部要因」が引き金です。いっぽう「VWショック」はというと、ディーゼル車の排ガス不正操作という「内部要因」が発端。したがってインパクトの性格がまるで異なります。
もちろん「トヨタショック」も、トヨタ自動車自身に構造上の問題を抱えていたからこそ、衝撃的な業績悪化を招いたわけであり、「外部要因」はあくまでも”引き金”であったという位置づけです。ただ、今回の「VWショック」の場合、不正が直接要因であり、なおかつ一年以上も前から認識していたとされるだけ、株主や消費者に与える「負」のインパクトは大きい。
VWの車のイメージも、経営のイメージも同じ。「質実剛健」。派手さはないが、見えないところにコストをかけるマジメな企業というイメージです。この不正は、世界の多くの人が「やっぱり」ではなく「まさか」と受け止めたはずで、「落差」が大きい分だけ「裏切られた」と感じたファンも多いのではないでしょうか。
トヨタは、世界不況による「トヨタショック」の後、「東日本大震災」「タイの大洪水」「超円高」といった外部要因による厳しい変化をも乗り越え、2014年には、「トヨタショック」以前にたたき出した利益を超える過去最高益を更新するまでに至りました。
VWは「内部要因」による不正問題で、経営環境が厳しく悪化することは免れません。頼みの中国市場も今年度下半期から鈍化しており、「外部要因」を味方につけた復活の糸口を見出すまでには時間がかかりそうです。なにより、悪化したブランドイメージを浄化するには、相応の時間がかかります。10年の歳月は必要かもしれません。単純比較はできませんが、それほどに、VW甦生の道は、トヨタ復活の道のりよりも際しいものになりそうです。