部下がとても嫌がる「上司のコーチング」2つの原因
■コーチングの広がりと残念な現状
最近、「コーチング」の考え方を取り入れた部下育成が広まりつつある。以前は興味のある人だけが学ぶコミュニケーション技術だったが、今では組織全体で「コーチング」の手法に注目し、取り組んでいる企業も増えている。
私は「コーチング」の主要テクニックを熟知している。そして、プロのコーチも多く知っている。だからこそ、にわか仕込みの「コーチング技術」が、コミュニケーション相手の行動変容を促すどころか、かえって悩ませてしまうリスクも分かっている。
素晴らしい技術であるにもかかわらず、なぜこれほどコーチングはうまくいかないのか? 今回はビジネスの現場で「コーチング」がうまくいかない理由について解説していく。ぜひ最後まで読んでいただきたい。
※コーチングの技術を身につけたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
■超ハイレベルなコーチングスキルを身につける「8フレームアウトカム」徹底解説
■どうしてコーチングスキルは身につかないのか?
ビジネスの現場で「コーチング」がうまく機能しない原因は、大きく分けると以下の2つである。
(1)スキル不足
(2)コーチング対象の誤解
まずは「スキル不足」について簡単に解説しよう。
私は「コーチング」の技術に精通しているが、コーチではなくコンサルタントである。クライアントに「コンサルティング」はするが「コーチング」はしない。なぜなら、私は「コーチング」のプロではないからだ。知識はあっても、膨大なトレーニングの経験がない。
「コーチング」で使う主な技術は「質問」である。
クライアントの中にあるリソースに焦点を合わせ、効果的な「質問」を通して頭の中を整理させ、新たな気づきを誘発し、行動変容を促す。そして、クライアント自身が設定した目標を達成させる支援をするのがコーチの役割だ。
コーチは「アドバイス」や「提案」をしない。「質問」だけをするのだ。手を使ってはいけない競技――サッカーのようなものだ。
「質問」はとても難しい。ただ何でも「質問」すればよいわけではない。
効果的な「質問」をするためには、相手とペースを合わせた呼吸・リズム・話し方に気を配る必要がある。正しくペーシングできないと、相手は「誘導尋問」をされていると感じ、頭の整理もできず、新たな気づきも得られないからだ。
したがって数日間の研修を受けただけのマネジャーが「コーチング」を試みても、部下が混乱して意欲を失うケースが多い。
「コーチング」のスキルは、基本要素だけでも多岐にわたる。生半可なトレーニングでは身につかないことを知っておくべきだろう。
■ほとんどの上司はコーチング対象を誤解している
次に、「コーチング対象の誤解」について紹介しよう。
「コーチング」の基本的な考え方は、「答えはクライアントの中にある」というものだ。これは多くの人が聞いたことがあるだろう。答えは自分の中にあるが、行動が伴わない場合にコーチングは効果を発揮する。
コーチングは目標達成のための行動変容を促す技術である。しかし、「目標達成意欲」がなく、「能力」がない場合には、コーチングは効果を発揮しない。
コーチングは、もっと速く走りたい、もっと高く飛びたいと願うアスリートに対する手ほどきのようなものである。一般企業で言えば、経営者やマネジャーがコーチングの対象にふさわしい。
達成意欲もなく、どのような行動を起こすべきか分からない人には「コーチング」は効果がない。この場合、必要なのは「ティーチング」である。
また、「重要だが緊急ではない」仕事に「コーチング」を使うべきであり、急を要する仕事には逆効果である。早く結果を出してほしいときには、「コーチング」は機能不全に陥りやすい。
「コーチング」は素晴らしい技術であるが、誰に対して、どのような行動変容を、どのような時間軸で実現させるかをしっかり押さえておくべきである。人間の思考は過去の体験によって形成される。目標達成に向けた行動変容を促すための「答え」が自分の中にないのなら、成功体験を積み重ねるべきだ。その成功の歴史が自分をコーチングしてくれる。
<参考記事>