ラットの脳細胞の音をクラシック音楽に!ノーベル賞を受賞したノルウェー人女性、モーザー氏とは?
ノルウェーが誇る2人のノーベル賞受賞者といえば、マイブリット・モーザー氏とエドバルド・モーザー氏だ。2014年に医学・生理学賞を受賞した2人は、10年ぶりのノーベル賞受賞者となり、ノルウェーの人々を大いに喜ばせた。
ノーベル平和賞の授与式が開催される国としては知られているが、ノーベル賞受賞者はこれまでノルウェーからは14名しか出ていない。
モーザー両氏は、現在ノルウェーの都市トロンハイムにある科学技術大学NTNUで研究を続けている。
6月にトロンハイムで開催された科学と音楽の祭典STARMUS。脳における研究内容を、2人は会場で分かりやすく解説した。
科学を分かりやすく説明するために、研究成果を音楽で表現
「難しそうな科学」をみんなに親しんでもらいたい、ということがSTARMUSの目的でもあった。そこで印象的だったのが、マイブリット・モーザー氏による脳科学についてのレクチャーだった。
地元の音楽隊トロンハイム・ソリスツとの協働で、ラットの脳細胞から送られる電気信号を「音楽」で表現したのだ。クラシック音楽となった脳細胞の音を聴くことになるとは、来場者の誰が予想していただろうか。
世にも珍しいこの音楽は、どのようにして生まれたのか?
モーザー氏の研究チームは、脳細胞からの電気信号が、ポップコーンのような音を出していることに気づいた。その音は、大脳辺縁系の一部である海馬(かいば)から発生していた。海馬はタツノオトシゴのような形をしており、新しい記憶の形成に必要とされる部位だ。
そこで、たまたまラボで働き、副業が音楽家でもあるスタッフの一人が、こう言ったそうだ。「このポップコーンの音が、まるで音楽のように聞こえるんだ!そうは思わないかい?知り合いに作曲家がいるのだけれど、この人をラボに連れてきてもいいかい?」。
作曲家はラボを訪れ、ラットの脳の音を録音して帰宅。結果、花火が空で散っている時のような音の連続が、ピアノなどの楽器によって再現された。
会場では、トロンハイム・ソリスツがラットの脳細胞の音楽を奏で、人々を魅了させた。
他にも、「死にゆく細胞の音」も表現された。モーサー氏は、「クラシックオーケストラが死ぬ細胞の音を再現するのは、恐らく世界で初でしょうね」と語る。
そこではSTARMUSがモットーとする「科学と音楽の融合」がまさに実現されていた。
クラシック音楽との組み合わせで、科学のレクチャーはまるでコンサート会場に。科学の面白さを改めて認識した人もいたかもしれない。
女性のノーベル賞受賞者はなぜ少ない?
STARMUSでは多くのノーベル賞受賞者が招かれていたことが話題となったが、受賞者トークショーでは、女性はマイブリット・モーザー氏ただ一人だった。
このことは司会者も見逃さず、男性が圧倒的に多いジェンダーの割合についてどう思うか聞かれ、モーザー氏はこう答えた。
「男でも女でも、誰が科学をしているかは重要ではありません。けれども、もっと女性が科学の分野にいれば、“私も難しい問題提起をしてみよう”と、他の女性たちを勇気づけることはできるかもしれません」と回答。男でも女でも、高いリスクに挑み、高度なゲームに挑戦し、チャンスをつかもうとする意欲は必要だと述べた。
モーザー氏の研究室の前には、数多くの家族や友人との写真が飾られていた。そこには、「諦めないで!」という言葉や、ネルソン・マンデラの名言「何事も成功するまでは不可能に思えるものである」というメモなどが大量に貼られていた。「努力家で諦めない人なのだろう」、そのことは十分に伝わってきた。
Photo&Text: Asaki Abumi