ノーベル賞受賞者11人や著名人が集結、科学と音楽の祭典STARMUS/ノルウェー
科学と芸術の大規模な祭典「スタームス」(STARMUS)が6月18~23日、ノルウェーの都市トロンハイムで開催された。
今年で4度目となるStarmusが北欧で開催されたのは初。ホストとなったノルウェー科学技術大学NTNUは、ノルウェー最大級の規模を誇る大学で、科学者や技術者の育成に貢献してきた。2014年のノーベル医学・生理学賞を受賞した元夫婦のマイブリット・モーザー氏とエドバルド・モーザー氏はNTNUで研究を続けている。
今年のSTARMUSには11人のノーベル賞受賞者、10人の宇宙飛行士、46人の著名人が招かれ、市内で100以上のイベントがおこなわれた。日本の生物学者である利根川 進博士も現地で講演した。
英国の物理学者スティーブン・ホーキング博士が最も話題を集めたスピーカーだったが、体調悪化のため、直前に出席がキャンセルされた。予定されていた講演には、会場のスクリーンを通して生放送で出演。「人類はいずれ別の惑星に移住する必要がある」という言葉は多くの国々で報じられた。
講演では、今後の科学者の役割と課題、トランプ大統領誕生による気候変動懐疑論と研究への反発、経済格差問題、宇宙への移住、フェイクニュースが溢れジャーナリズムや科学への信頼が薄れているとされる世の流れ、再生可能エネルギーの重要性など、多種多様なテーマが繰り広げられた。
このようなメインプログラムのほかに、Starmusでは初めて「シティプログラム」を設立。メインプログラムの高価なチケットを購入していなくともStarmusを楽しめるように、市内各地で一般市民向けのさまざまなイベントが行われた。
「科学や数学は難しい」という思い込みを取り除き、学問に親しんでもらうためのたくさんの工夫が施されていたシティプログラム。「分かりやすく・楽しく」が目標とされ、子どもや学生が参加しやすい内容となっていた。
首都オスロでこのような大規模なイベントが開かれると警察官などの姿が増えるが、トロンハイムではのんびりとした空気が漂っていた。
ノーベル賞受賞者や宇宙飛行士の話を生で聞き、直接話をして交流できた環境は、人口が19万人と少ないまちで、どのような肩書の人でも近い距離で接しあう「平等」を重んじる国だからこそ、実現できたのかもしれない。
科学や研究についての講演だけでは、「よくわからない」と距離を置く人がいたかもしれないが、音楽とアートを盛り込むことで、Starmusは誰でも楽しめる祭典となっていた。
市内各地の美術館やコンサート会場が共同でイベントを盛り上げ、毎夜、ジャズやポップ音楽を代表する様々なアーティストが曲を披露した。無料で開放されていたライブも多く、有料でもチケット料金がおよそ2600円とお手頃価格だった。クオリティが高い音楽ばかりで、「なぜこの価格?」と筆者は驚いてしまった。
トロンハイムは住民の5人に1人が学生という、「学生のまち」とも評されている。世界の有名な著名人との出会いで、今後の進路に影響を受けた若者や子どもがいればと期待された。
Starmusの関係者や、支援したノルウェーの政治家たち、教育・研究大臣は「私たちが大好きなサイエンスと音楽が、当たり前のように一緒になっているこの祭典は最高だ」という意見で一致していた。
ノルウェーは石油・ガス資源で経済的には潤っているが、いずれはなくなるエネルギーだとして、今後国を支える力の育成に必死になっている。科学者を育てるトロンハイムは、政治家や教育関係者の間でも重要視されている地域だ。世界的に有名なスターたちが集ったことで、地元の人々や若者になんらかの活力と自信を与えたことは間違いなさそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi