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いつも一緒だった双子姉妹の前に気になる男の子が…。実体験も交え多感な10代の揺れる女心を描く

水上賢治映画ライター
共同監督を務めたワンウェーウ(左)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹

 タイから届いた映画「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」は、ふたごの姉妹監督によるふたご姉妹の物語だ。

 主人公は、一卵性双生児の姉妹、ユーとミー。

 生まれてからこれまで姉妹は、一緒に行動して隠し事ひとつなく同じ時間を共有してきた。

 しかし、世の中がY2K問題で世界の終わりとざわついていた1999年、中学生でちょっと多感、異性への興味が増したこのとき、二人の前にハーフでちょっとイケてる同級生のマークが現れる。

 映画は、ひとりの男子の出現で、関係が揺らぎ始めた姉妹の戸惑いと葛藤、嫉妬と対立、それでも途切れることのない絆が、ポップに切なく描き出される。

 手掛けたワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹も本作の主人公姉妹と同様に一卵性双生児の姉妹。自伝ではないが、作品には随所に二人の実体験も含まれているという。

 映画長編デビューを果たし、注目を集めるタイのふたご姉妹監督に訊く。全四回/第三回

共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms
共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms

1999年を物語の舞台にした理由

 前回(第二回はこちら)は、主にシナリオについてふたりに訊いた。

 本作は、1999年を舞台に、マークという同級生の男の子の出現で、いままでの関係がどこかぎくしゃくしてしまうユーとミーの心の揺らぎが丹念に描き出される。

 この1999年を舞台にした点は何か考えがあったのだろうか?

ワンウェーウ「そうですね。当時を実体験した人たちは憶えがあると思うのですが、1999年というのは世界がちょっと浮足立っているといいますか。

 世紀末で地球が滅亡するかもしれないと本気で不安を覚えている人もいれば、逆にそんなことあるはずがないとまったくどこ吹く風という人もいました。

 また、地球が滅亡するとは別で、ある意味、実際に起こりうるかもしれないということでY2K問題があって。コンピューターの誤作動によって社会のシステムがおかしくなって混乱が起きるかもしれない。そういう警戒を世界中がしていました。

 そういったことで、なんとなく世界全体がさほど大きな問題は起きないだろうと思いつつも、どこか心の片隅でなにかが起きて、大きな変化が生じて自分の身に降りかかってくるのではないかという先行きのみえない不安があったような気がします。

 それで、思春期の多感な年ごろのふたごの姉妹の将来への不安や焦りを描こうと思ったときに、このどこか不安定な時代に合わせることでより鮮明に彼女たちの心の内が伝わるものになるのではないかと思いました。それはふたりのアイデンティティを際立たせることにもなるのではないかと思いました。

 それで1999年と背景を設定しました。

 あと、もうひとつ加えると、両親の離婚問題を組み込んだのもそう。

 家族がバラバラになるかもしれないという不安が、ある意味、ふたりを大人にさせて、ユーもミーも自分の意思をもつことになる。自我が芽生えることにつながっていく。

 そういうことで両親の離婚問題も入れました」

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」より
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」より

わたしたち自身は、地球が滅びるといわれてもピンとこないし、

騒いでいる大人たちを横目でみていた感じです

 では、ワンウェーウとウェーウワン自身は、1999年で何か覚えていることはあるだろうか?

ウェーウワン「実は、あまりユーとミーと変わらなくて10代で。

 ユーとミーのような感じで過ごしていました。そのままというわけではないですけど、ここはわたしたち姉妹のエッセンスがけっこう入っています」

ワンウェーウ「わたしがよく覚えているのは、『もう世界の終わりだ』といううわさ話がそれこそ町中に蔓延していたことですね。

 それを信じる人たちと信じない人たちと、まあ真っ二つにわかれて。

 映画でも描いていますけど、コンピューターが壊れるかもしれないからどうしようとか、銀行のお金が下ろせなくなるかもしれないからいまのうちにお金をおろしておこうとか、何が起こるかわからないからとにかく食糧を確保しておかないととか、大騒ぎする大人がいっぱいいました。

 そういう危機感を覚える人がいる一方で、『そんなことおこるはずないだろう』と、『何を馬鹿なことを言ってるんだ。くだらない』と言った感じでまったく興味を示さず、いつもどうり大晦日のニューイヤーパーティーを開いていた人もいた。

 そのことをよく覚えています。わたしたち自身は、地球が滅びるといわれてもピンとこないし、騒いでいる大人たちを横目でみていた感じですかね」

共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms
共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms

1999年は、トライアンフ・キングダムに夢中でした

 1999年は、ふたりとも思春期のころということだが、どのようなことを考えて、どのように過ごしていたのだろうか?

ワンウェーウ「これは映画にそのまま反映させていますが、トライアンフ・キングダム(1999年にBakery Musicというインディーズ レーベル傘下のDojo CityからデビューしたBOとJOYCEの2人組からなるガールズ・デュオ、アムラーやカハラーのような日本のカワイくてセクシーなファッションを取り入れ、キャッチ―な歌詞とリズムのナンバーでティーンを中心に大人気となった。本作では2曲が使用されている)に夢中でした。

 もう大好きでいつも聴いていつも歌っていました」

ウェーウワン「補足すると、トライアンフ・キングダムは、タイの当時の若者にとってアイコンのような存在でした。とくに女の子にとっては憧れでした。

 彼女たちはタイの歌手やアーティストのイメージを変えたというか。とにかくすべてが斬新だったんです。

 たとえば、それまではタイの女性アイドルやアーティストはあまり肌を露出するような衣装を着ないのが定番というか、それがふつうでした。

 でも、トライアンフ・キングダムは肌を露出した衣装を着て、思い切り踊って歌っていました。

 で、当時の若い女の子みんなが、『わたしたちもああいう格好をしたい!』と思ったんです。

 わたしもワンウェーウもそうでした。ただまあ、憧れながらも恥ずかしくて、おなかを出しておへそをみせたといった格好はなかなかできなかったんすけどね。

 でも、ちょっとだけがんばってやったことがありました」

(※第四回に続く)

【「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」姉妹監督インタビュー第一回】

【「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」姉妹監督インタビュー第二回】

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」ポスタービジュアル
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」ポスタービジュアル

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」

監督・脚本:ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット

プロデューサー:バンジョン・ピサンタナクーン

出演:ティティヤー・ジラポーンシン、アンソニー・ブイサレートほか

公式サイト https://www.reallylikefilms.com/futago

全国順次公開中

作品に関する写真はすべて(C)2023 GDH 559 Co., Ltd. All Rights Reserved / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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