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多感なころ、気になる男性の出現に双子の姉妹の心が揺れる。タイの姉妹監督の注目デビュー作

水上賢治映画ライター
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」より

 タイから届いた映画「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」は、ふたごの姉妹監督によるふたご姉妹の物語だ。

 主人公は、一卵性双生児の姉妹、ユーとミー。

 生まれてからこれまで姉妹は、一緒に行動して隠し事ひとつなく同じ時間を共有してきた。

 しかし、世の中がY2K問題で世界の終わりとざわついていた1999年、中学生でちょっと多感、異性への興味が増したこのとき、二人の前にハーフでちょっとイケてる同級生のマークが現れる。

 映画は、ひとりの男子の出現で、関係が揺らぎ始めた姉妹の戸惑いと葛藤、嫉妬と対立、それでも途切れることのない絆が、ポップに切なく描き出される。

 手掛けたワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹も本作の主人公姉妹と同様に一卵性双生児の姉妹。自伝ではないが、作品には随所に二人の実体験も含まれているという。

 映画長編デビューを果たし、注目を集めるタイの姉妹監督に訊く。全四回/第一回

共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms
共同監督を務めたワンウェーウ(右)&ウェーウワン・ホンウィワット姉妹  (C)大西弘司 (JK Creation) / ReallyLikeFilms

映画監督デビュー作を前に、まず考えたことは

あまり背伸びをしないで、自分たちらしい作品を作りたいということ

 「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」は、姉妹にとって初の映画監督作品。ただ、タイで社会現象になるほど大ヒットとなったドラマシリーズ「ホルモン・シリーズ」((2013~2015年の全3シーズン)の共同脚本を担当し、2019年のドラマシリーズ「グレートメン・アカデミー」では監督を務めている。

 映画としてはデビュー作となるが、ここまで脚本家・演出家として確かなキャリアを積んできた。

 その中で、映画監督としての長編デビュー作で、何か考えていたことはあったのだろうか?

ワンウェーウ「そうですね。

 ここまで先ほどおっしゃっていただいたようにドラマシリーズの脚本を手掛けたり、ドラマやミュージックビデオの監督をつとめたりと、いろいろな経験をしてきました。

 でも、実はそれもすべては映画のため。

 わたしたちが一番やりたかったのは、自分たちが監督を務めての映画作りでした。

 いつか映画を作りたいと思って、ずっと頑張ってきたんです。

 それでここまで映画監督デビューを目指していろいろと経験を積んできたけれども、そろそろその集大成で映画に踏み出そうと思い立ったんです。

 ただ、自分たちの中で長年温めていたり、『デビュー作はこれでいこう』といったり、という確たる企画をもってはいませんでした。

 映画監督デビュー作を前に、まず考えたことはあまり背伸びをしないで、自分たちらしい作品を作りたいなと。

 ということで、わたしたちがいままで生きてきた中でよく知っていること、ほかには負けないぐらい得意で細かな部分まできちんと描けることについての映画を作ろうと思いました。

 そう考えたとき、自然と浮かんできたテーマはやはり『ふたご』でした。

 そして、これまではいろいろと要望を受けて脚本を書くことがほとんどだったんですけど。

 今回は誰に指図されることなく、自分たちの思うがまま、ふたごをテーマに脚本を書き始めました」

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」より
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」より

この映画で描かれることは、わたしたち自身のエピソードも入っていれば、

ほかのふたごの逸話も入っている

 逆に、ふたごであるがゆえにテーマとして身近すぎるので、避けたいといったことはなかったのだろうか?

ウェーウワン「どうだろう。そういう風に思ったことはなかったよね?」

ワンウェーウ「そうだね。

 ふたごをテーマに書こうとは思ったのですが、ふたごの姉妹である自分たちについて書こうとはあまり考えていませんでしたから、避けたいといった意識は持ちませんでしたね。

 ふたごをテーマにした脚本をと考えたとき、リサーチを兼ねてまずわたしたちはたくさんのふたごの方々にインタビューをすることにしました。

 インタビューを通して、姉妹の関係やふだんの生活、恋愛話までいろいろと話をききました。

 そこで得たエピソードのひとつひとつをヒントにして、わたしたちならではの独自の物語を書き上げていきました。

 ですから、この映画で描かれることは、わたしたち自身のエピソードも入っていれば、ほかのふたごの逸話も入っているし、場合によってはいくつかのふたごのお話しをミックスさせたものも入っています。

 そんな形で脚本を書き上げていったので、わたしち自身の物語とは考えていなかたのでためらうようなことはなかったです」

『理解できるなぁ』とシンパシーを覚えるエピソードが多かった

 いま話に出た、何組ものふたごへのインタビューで、何か発見はあっただろうか?

ウェーワン「まったく想像もしないことを話されてものすごく驚いたということはあまりありませでした。

 逆で『理解できるなぁ』とシンパシーを覚えるエピソードが多くて、『やっぱりそうなんだ』と思うことが多くて、そのことにむしろ驚きましたね。

 たとえば、あるとき、わたしたちとほぼ年齢の変わらないふたごの姉妹の話を聞ききました。

 すると、いまだに『ふたご』と呼ばれることに対して、ひじょうに抵抗があると。

 わたしたちは一人と一人であって、同じところもあるかもしれないけども、それぞれ違う人間である。けれども、常に『ふたご』でくくられてしまう。

 年を重ねたいまでも『ふたご』として扱われるところがある。ふたごといえど、個人と個人なのに一緒くたにされるのがとても嫌だといったことをいっていて。

 これはよく理解できましたね。たぶんふたごの人たちはみんなこういう感情は抱えているのではないかと思いました」

(※第二回に続く)

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」ポスタービジュアル
「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」ポスタービジュアル

「ふたごのユーとミー 忘れられない夏」

監督・脚本:ワンウェーウ&ウェーウワン・ホンウィワット

プロデューサー:バンジョン・ピサンタナクーン

出演:ティティヤー・ジラポーンシン、アンソニー・ブイサレートほか

公式サイト www.reallylikefilms.com/futago

新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかにて公開中、以後、全国順次公開

作品に関する写真はすべて(C)2023 GDH 559 Co., Ltd. All Rights Reserved / ReallyLikeFilms

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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