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【インタビュー後編】アムガラ・テンプルの語るノルウェーの音楽シーンとジャズ・ロック

山崎智之音楽ライター
AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records

ファースト・アルバム『インヴィジブル・エアシップス』を発表したノルウェーの先鋭ジャズ・ロック集団、アムガラ・テンプルへのインタビュー全2回の後編をお届けする。

前編記事ではバンドの原点を語ってもらったが、今回はその音楽性と今後の展望、そして同郷ミュージシャン同士の交流について、ベース/シンセ奏者のラーシュ・ホーントヴェットに掘り下げてもらった。

<聴く人のイマジネーションをかき立てたい>

●アムガラ・テンプルというバンド名にはどんな意味があるのですか?「アムガラ・アヴェニュー」という曲もありますが、モロッコのベンスリマンに実在する通りですね?

2017年、このバンドで初めてのライヴをやることが決まった時点で、まだ名前がないことに気付いたんだ。それでアムンド(マールド)のAm、ゴード(ニルセン)のGa、そしてラーシュ(ホーントヴェット)のLaと、3人のファースト・ネームの最初の2文字ずつを取ってAm+Ga+Laとした。その後ネットで調べて、モロッコのサハラ砂漠にあるオアシスの名前だと知ったんだ。それからバンド名に引っ張られる形で、ライヴではアフロビートの要素や、ティナリウェンみたいなサウンドも取り入れていった。それともうひとつ、“アムガラ”と“アシュラ”の響きが似ていると思ったんだ。それでアシュラ・テンペルみたいにアムガラ・テンプルとしたんだよ。言葉遊び・ジョークでもあるけど、それにバンドの音楽性が引っ張られたことも事実なんだ。東洋風のメロディも取り入れたりね。実はまだモロッコには行ったことがないんだ。いつかこのバンドでモロッコでライヴをやるのが夢だよ。

●「ボスポラス」という曲タイトルとトルコのイスタンブールにあるボスポラス海峡は、どのように関連しているのでしょうか?

『Invisible Airships』ジャケット P-VINE RECORDS 発売中
『Invisible Airships』ジャケット P-VINE RECORDS 発売中

トルコは大好きな国なんだ。別のバンドで、イスタンブールで何度もライヴをやったことがあるよ。この曲のタイトルをボスポラス海峡から取ったのは、メロディに“東洋と西洋の出会い”みたいなイメージがあったからだ。

●アルバム・タイトル『インヴィジブル・エアシップス』=“目に見えない飛行船”とはどんな意味ですか?

ノーコメントだ(笑)。説明するのは蛇足だよ。聴く人のイマジネーションをかき立てるタイトルにしたかったんだ。どんな意味だろう?...ってね。ミステリアスなのが良いんだ。ジャケットのアートワークも、グラフィック・アーティストに何も説明せず、タイトルから浮かぶイメージを描いてもらった。とてもビューティフルなものに仕上がったよ。

●海外でアルバムを発売する“ペキューラ・レコーズ”の資料によると『インヴィジブル・エアシップス』は“シリーズ第1作”とのことですが、第2作以降はもう作っていますか?

幾つかアイディアはあるよ。まだレコーディングはしていないけどね。さっき(前編記事参照)言ったようにアコースティックやエレクトロニカの要素も加えたいし、自分たちの音楽性の幅を拡げていきたい。もちろんインプロヴィゼーションの要素も加えてね。実際、レコーディングするときにならないと、どんなアルバムになるか判らない。その場での3人のエネルギーの融合なんだ。まだ1枚目が出たばかりだし、次のアルバムがいつ出るかは判らないけど、ファースト同様ノルウェーの“ペキューラ・レコーズ”から出すつもりだ。

●“ペキューラ・レコーズ”はアムガラ・テンプルとエイミング・フォー・エンリケ、それからレーベルのアーランド・モッケルボストがやっているペキューラ・プロジェクトの作品を出していますが、どういった性質のレーベルなのですか?

“ペキューラ”はアーランドが始めたレーベルで、“ヤンセン・レコーズ”が配給を担当している。エイミング・フォー・エンリケはノルウェーのバンドで、俺たちのお気に入りなんだ。ジャガ・ジャジストのサポートを務めたこともある。彼らの新作が2019年に出るんだ。もう聴いたけど、素晴らしいよ!アーランドはいろんなライヴ・バンドのイベントも企画していて、素晴らしい嗅覚をしている。レーベル・オーナーとして理想的だよ。

●アムガラ・テンプル最初のライヴはいつだったのですか?

アルバムを作る前に、2回ライヴをやったんだ。初めてのライヴはオスロの、20人ぐらいしか入らないクラブだった(2017年5月10日、“グリュ・グリュ(Grus Grus)”)。2回目はオスロのコンサート・ホールでのライヴだったよ(9月23日)。どちらも完全にインプロヴィゼーションだった。それが『インヴィジブル・エアシップス』への序章になったんだ。アルバムのレコーディングは2018年3月、5日しかかからなかった。ジャガ・ジャジストだと半年から1年かかるから、かなり異なっているよね。アルバムを出してからノルウェー国内のツアーをやった。まだアムガラ・テンプルとしては国外でライヴをやっていないから、ぜひ日本でショーをやりたいね。

AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records
AMGALA TEMPLE courtesy of P-Vine Records

<ノルウェーではいろんなミュージシャンと共演する機会がある>

●アムガラ・テンプルのライヴがどのようなものか教えて下さい。

アルバムからの曲とインプロヴィゼーションが一体となったものだよ。公演ごとに異なったショーになる。毎晩がスペシャルなんだ。生々しくエネルギーに満ちていて、ライティングも個性的なものだ。誰もが楽しめるものではないかも知れないけど、スリルのあるエキサイティングなショーだ。

●ジャガ・ジャジストでは何度も来日公演を行っていますが、ぜひアムガラ・テンプルでも日本に来て下さい。

うん、もう日本には8回行ったことがあるんだ。ジャガ・ジャジストで7回、それとトッド・テリエと1回ね。日本に行くと、たいてい1週間以上いるんだ。可能な限り長期滞在するようにしているよ。日本の音楽ファンはきっとアムガラ・テンプルの音楽を楽しんでくれると確信している。もちろんヨーロッパでもショーをやるつもりだよ。アムガラ・テンプルは数ヶ月前に本格的に始動したばかりだし、お楽しみはこれからだよ。

●ジャガ・ジャジストとしての活動予定はありますか?

今年ニュー・アルバムを作る予定だよ。少なくとも数ヶ月をかけて、じっくり曲を書く。『Starfire』(2015)から約4年ぶりの新作だし、最高のものにしようと考えているんだ。その後にもいろんなアーティストとのプロジェクトをやるつもりだし、アムガラ・テンプルとしても夏フェスにも出演するつもりだ。いろんな音楽をやるのが好きなんだよ。

●あなたはノルウェーで意外なアーティストとのコラボレーションを行ってきましたが、a-haとの共演はどのようなものでしたか?

彼らの『MTVアンプラグド』(2017)でプロデュースとストリングス・アレンジ、それからサックスを担当したんだ。a-haは好きだよ。特に最初の2枚のアルバムは名盤だね。彼らはノルウェーの国民的ポップ・ヒーローなんだ。『MTVアンプラグド』はなかなか良い仕上がりになったし、ハッピーな作業だった。彼らとは親友というわけでもないけど、俺がニューヨークに住んでいた頃、ギタリストのポール・ワークター=サヴォイと数回飲みに行ったよ。

●ノルウェーの“デス・パンク”バンド、ターボネグロとも共演したことがあるという話ですが...。

ああ、「ファック・ザ・ワールド」という曲が入っているアルバムだったね(『スカンジナビアン・レザー』/2003)。ストリングスのアレンジをやったんだ。ギタリスト、ユーロボーイの別バンド、ユーロボーイズの作品でもストリングス・アレンジをやったよ。彼とは特別に親しいわけではないけど、友人の1人なんだ。それ以外にもモーターサイコの新作を共同プロデュースするし、他のアーティストとの共演やプロデュースもしているよ。ノルウェーの音楽シーンは狭いから、いろんなミュージシャンと共演する機会があるんだ。交流することで刺激を受けて、自分の音楽も豊かになっていく。それがノルウェーでやっていることの利点だね。

アムガラ・テンプル

『インヴィジブル・エアシップス』

P-VINE PCD-21818

2019年3月6日発売

日本レーベルサイト

http://p-vine.jp/news/20190213-170000

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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