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桜の枝に付いた貝殻の正体は?アワなしアワフキ、トゲなしトゲアワフキもちょっと残念な虫かも

天野和利時事通信社・昆虫記者
桜の枝先の貝殻を剥がすと出てくる不気味な生物の正体は?

 桜の枝先にはよく、白い貝殻のような物体が張り付いている。気になっている人、その正体を知りたいと思っている人がいるかもしれないので(きっといないだろうが)、1つ剥がして中身を確かめてみることに。

 貝殻の形状は、磯遊びでよく見かけるオオヘビガイに似ている。もしかして、カタツムリとか陸貝の仲間だろうか。「ベリベリ!」、と言うほどの抵抗はなく、簡単に剥がれた。

ムネアカアワフキ幼虫の巣は磯遊びでよく見かけるオオヘビガイに似ている
ムネアカアワフキ幼虫の巣は磯遊びでよく見かけるオオヘビガイに似ている

 すると中から出てきたのは、不気味な姿の生物。どうやら貝ではなく、昆虫の幼虫のようだ。

 虫好きでない人々は「もったいぶってないで、早く正体を明かせ」と思っているだろうし、虫好きは「誰でも知ってるよ。ムネアカアワフキだろ」と、昆虫記者を嘲笑するだろう。ご指摘の通り、この貝殻風物体の正体は、虫好きならほぼ誰でも知っているムネアカアワフキの幼虫の巣だ。

剝がした貝殻から顔を出したムネアカアワフキの幼虫
剝がした貝殻から顔を出したムネアカアワフキの幼虫

ムネアカアワフキ幼虫の全身はこんな感じ
ムネアカアワフキ幼虫の全身はこんな感じ

 ムネアカアワフキの成虫は小さな虫だが、数が多いし、桜というメジャーな植物にいるし、背中のオレンジ色が鮮やかなので、虫好き以外の人々も「なんだろね、これ」と気になったことがあるかもしれない。

 アワフキと言えば、幼虫が草の茎にアワアワの隠れ家を作ることで知られている。誰かマナーの悪い人が、野原で唾を吐いたように見えるあの泡だ。

 しかし、ムネアカアワフキの幼虫は泡を吹かず、貝殻状の巣の中でひっそりと暮らしている。幼虫がこういう巣を作るのは、トゲアワフキの仲間。つまりムネアカアワフキは、トゲアワフキの仲間なのだ。しかし、トゲアワフキと言えば背中に立派な棘があることで知られているのに、ムネアカアワフキにはそんな棘もない。

 幼虫が泡を吹かず、成虫にトゲもないムネアカアワフキは、泡なしアワフキ、棘なしトゲアワフキといったところだろうか。そう考えると、こいつもまた、ちょっと残念な虫ということになるのかもしれない。

ムネアカアワフキは、赤い部分が広いのがメス、狭いのがオス
ムネアカアワフキは、赤い部分が広いのがメス、狭いのがオス

 (写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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