夢や希望を歌いあげなくても、ディズニーの“魔法”は輝く。『ラーヤと龍の王国』
新型コロナウィルスの影響で、昨年、日本でも『ムーラン』の劇場公開を見送り、自社の動画配信サービス・ディズニープラスで有料配信したディズニーだが、最新作となる長編アニメーション『ラーヤと龍の王国』(原題:Raya and the Last Dragon)は、3月5日から公開されると同時に、ディズニープラスでも有料配信される。
『ラーヤと龍の王国』の舞台は、かつて聖なる龍たちに守られ、龍と人とが共存する平和な王国だったクマンドラ。邪悪な魔物ドルーンに襲われたクマンドラを、龍たちは自らを犠牲にして守ったものの、人々は信じあう心を失っていき、王国は5つの領土に分かれてしまったのでした。
それから500年。ドルーンの魔力を封印する〈龍の石〉の守護者一族であり、分断した領土のひとつ「ハート」の長ベンジャは、人々の心をひとつにしてクマンドラを復興しようとしますが、その願いは叶わず、世界は再びドルーンに襲われてしまいます。ベンジャの娘ラーヤは、 伝説の“最後の龍”シスーを蘇らせ、世界をひとつにしようとするのですが…。
そんなラーヤとシスーの冒険を通して描かれるのは、「信じあうこと」の大切さと難しさ。そもそもラーヤは、ドルーンの封印が解かれることになった少女時代の出来事が原因で、他人を信じなくなっています。一方、シスーは楽観的で純粋。他人を疑うことをしりません。
ラーヤの相棒であり、彼女を背中に乗せて運んでくれる巨大な生き物の名前トゥクトゥクが、タイの三輪自動車と同じであることが示すように、東南アジアにインスピレーションを受けた世界観は、ディズニー・アニメーションとして初めて。その世界観にも多様性の時代を感じる本作ですが、大切な人たちのために世界を救う旅を続けるラーヤもまた、『モアナと伝説の海』にも連なる近年のディズニー・ヒロインの新たな王道といえる存在です。が、本作には、ディズニー・アニメーションへの観客の期待を軽やかにかわす一面も。
シスーはおしゃべり好きですが、『アナと雪の女王』のオラフのように歌ったり踊ったりしません。まだ掌に乗るサイズだった頃からラーヤと行動を共にしているトゥクトゥクは、愛らしい表情でラーヤと交流するものの、言葉を話しません。登場キャラクターたちが披露する楽曲は、観客の共感を呼び、ストーリーにひきこむ大きな要素ですが、ラーヤやシスーのみならず、登場キャラクターたちは、自分の願いや悩みや日々の生活などを高らかに歌いあげたりしないのです。シスーの登場シーンは、饒舌な彼女がいまにも陽気に歌い出しそうだというのに。
けれども、楽曲のかずかずを期待していた筆者も、いつのまにか作品世界に引き込まれ、登場人物たちが自分の感情を歌いあげても踊ってもいないことに、エンドクレジットが流れだすまで気づかなかったほど。それほど、青く輝く〈龍の石〉をはじめとした美しい映像と力強いストーリーや、アニメだからこその躍動感溢れるアクション、そして個性豊かなキャラクターたちが魅力的。
トゥクトゥクはもちろんのこと、散り散りになった〈龍の石〉を集める過程で出会う少年ブーンや、愛くるしさを武器にしているのが小憎らしいはずだった赤ちゃんが、いつの間にか本当に愛らしくてたまらなくなっていたり。ストーリーの進展につれて、どんどん魅力が深まるキャラクター作りには、ディズニー・アニメーションのならではの“魔法”を感じずにいられません。
しかも、〈龍の石〉をかざして、ドルーンの力を封じようとする姿には、『アベンジャーズ』を思わせるMCU的な画力のカッコよさもありつつ、アニメキャラクターならではの健気さにも溢れていて、母性本能がくすぐられまくり。両手の指を合わせて円を作り、顔の前にかざす、龍への敬意を表しているらしい挨拶のポーズと共に、何かにつけて真似したくなること確実。そう、夢や希望を歌いあげなくても勇気をくれる登場人物たちは、作品が心に残る要素としての決めポーズの重要さにも気づかせてくれるのです。
吹き替え版の試写に参加しましたが、声優初挑戦の吉川愛は、クマンドラの歴史を語るオープニングからしてラーヤの芯の強さを感じさせ、シスー役の高乃麗はひょうきんな喋りで観客を笑顔にさせる一方で、信じ合うことの大切さを語りかける穏やかな声がたまらなく魅力的。その声の温かさは、シスーがなぜ、そんなに他人を信じられるのかが明らかになるラーヤとの語らいを、観客の心に深く沁みいらせます。
分断の時代と言われる今に限らず、大切な「信じあう心」。簡単に誰でも信じてはいけないという苦い現実も織り込みつつ、信じあうことの大切さを描く物語は、自分が相手に信じてもらえる存在になることの大切さも見つめさせてくれるはず。
『ラーヤと龍の王国』
3月5日(金)、映画館 and ディズニープラス プレミア アクセス 同時公開
※プレミア アクセスは追加支払いが必要です。
2021 Disney. All Rights Reserved.
2021 Disney and its related entities