2013年の気象を振り返る(前編)
京都・清水寺で毎年恒例の「今年の漢字」が発表されました。170,290票の応募のうち一番多い9,518表を集めて選ばれた漢字は「輪」とのこと。応募した人が選んだ理由として、2020年東京五輪の開催決定のほか、台風や集中豪雨などの災害に対して支援や助け合いの「輪」が印象に残った一年だった、とも挙げられています。
「今年の漢字」のニュースを耳にすると、いよいよ年の瀬が迫ってきている気がします。2013年も残すところあと20日足らず。今年の気象を振り返ってみます。
■ 頻発した豪雨災害
7月28日には、梅雨前線の南側に暖かく非常に湿った空気が流れ込み、山口県・島根県で猛烈な雨が降りました。山口県山口市(山口特別地域気象観測所(旧・測候所))では、最大1時間雨量が143.0ミリとなり、気象庁の全国歴代11位の記録に。山口県萩市や島根県津和野町などで土砂災害や河川の氾濫が発生し、死者・行方不明者を出す大きな被害をもたらしました。
8月9日には、東北でも集中豪雨となりました。日本海から湿った空気が流れ込んで大気の状態が非常に不安定となり、秋田県を中心に発達した雨雲がかかりました。鹿角市(鹿角アメダス)では1時間に108.5ミリの猛烈な雨を観測。同地点の観測史上第1位の記録を更新しました。この大雨でも河川の増水や土砂崩れが発生し、秋田県・岩手県で大きな被害が発生しています。
また、8月23日から25日にかけては、前線が山陰付近に停滞し、島根県で再び集中豪雨になりました。島根県江津市(桜江アメダス)では24日14時半までの24時間降水量が413.5ミリとなり、平年の8月の月降水量の約3倍ともなる記録的な大雨になりました。この大雨でも土砂崩れなど大きな災害が引き起こされました。
これらいずれの大雨の際も、気象台は「これまでに経験したことのないような大雨になっている」という文言を使い、警戒を呼びかけました。
8月末からの「特別警報」(後述)の運用開始を前に、それに匹敵する事態として最大級の警戒を呼びかけたことになります。
気象情報で使われる「経験したことのない」という言葉は、
(1)それぞれの地域において、
(2)「数十年に一度」程度の記録的な大雨になっている
ことを示しています。テレビなどで「経験したことのない」と今年も何度か伝えられましたが、「経験したことのない」を安売りしているのではなく、「それぞれの地域において」なのです。その大雨の地域が自分の生活する地域に当たっていないかをしっかり注視しなければなりません。
今後、もし自分の地域が名指しで示されているのである事態に遭遇した場合には、それは今あなたの身にも甚大な災害が襲いかかる(あるいはすでに襲いかかっている)おそれのある状況を意味しているのです。すぐにあなた自身が、できうる限りの最大級の警戒をする必要があります。
■ 台風も多かった
今年発生した台風は31個(12月11日現在)。36個発生した1994年以来、19年ぶりに30個以上も発生しました。そのうち日本に接近した台風は14個で去年より少し少ないくらいですが、「北海道・本州・四国・九州」に接近した台風に限ると8個で、2004年以来9年ぶりの多さになります。今年は「北上してくる台風が多かった」と言えるでしょう。
今年上陸した台風は、17号と18号。特に台風18号は、各地に大きな被害をもたらしました。京都府や滋賀県などで大規模な河川の氾濫が発生し、観光地である京都市の嵐山が濁流に襲われた様子は大きく報じられました。
本州の南の海上を北上してきた台風18号は、9月16日午前8時前に、愛知県豊橋市付近に上陸。東日本から東北を北上し、同日夜には三陸沖へ抜け、温帯低気圧に変わりました。
台風より北側に広がる前線の雨雲が活発になり、台風の接近前から大雨が続き、雨量が多くなったのがこの大雨の特徴のひとつです。奈良県内などでは総雨量が500ミリを超えるような大雨となりました。
また、京都府・滋賀県・福井県では、日本海から流れ込む湿った空気の影響も加わったため雨量が多くなり、15~16日の2日で降った雨の量が400ミリ以上に達した地域も。この地域に48時間で降る雨の量としては「数十年に一度」あるかどうかというレベルに達したため、16日午前5時5分、気象庁は上記3府県に「大雨特別警報」を発表しました。8月末の運用開始以来、初めての「特別警報」の発表でした。
特別警報とは…?
「特別警報」は「経験したことのない…」の情報と同じように、それぞれの地域で「数十年に一度」レベルの豪雨などの場合に発表されます。2011年に台風12号により紀伊半島で発生した大水害のような、府県をまたぐような大災害のおそれがある場合に発表されます。
「府県程度の広がり」というところがポイントで、範囲の狭い局地的な豪雨などでは発表されません。また、「府県程度の広がり」の前には、すでにある程度の広域では「数十年に一度」レベルに達しているはず、という点も見逃せません。
「特別警報が出されたら、逃げよう」では、手遅れの場合があるのです。「特別警報待ち」は絶対にしてはいけません。特別警報が出される時には、事態はもう最終段階で、大規模な土砂災害や河川氾濫などが起こりつつある・起こっている状況といっても良いでしょう。特別警報が出された際にまだ避難行動が完了していない場合には、周囲の状況を自分で判断し、命を守るための最善の行動を尽くす、ということが肝要になります。繰り返しになりますが、「特別警報が出る前に、防災行動は完了しておく」ことが大切です。
また、上陸しなかった台風でも、台風26号は東京都の伊豆大島に大きな被害をもたらしました。
台風を取り巻く暖かく湿った空気と、関東平野から南下した冷たい空気が伊豆大島付近でぶつかり、猛烈に発達した雨雲がかかり続けました。先日発表された気象研究所の分析では、島の地形も、大島の元町地区周辺で特に集中的に豪雨をもたらした一因、とされました。
大島元町(大島特別地域気象観測所(旧・測候所))では、10月16日午前8時20分までの24時間雨量が824.0ミリに達しました。これは、大島元町で平年の10月1か月に降る雨の約2.5倍に当たります。大規模な土砂災害や河川氾濫が起こり、大島では死者35人・行方不明者4人の人的被害を含む、甚大な被害が発生しました。
気象庁は、この大雨に際しては「大雨特別警報」を発表しませんでしたが、特別警報は前述の通り「府県程度の広がり」を持った大災害を対象としています。そもそも島嶼部(とうしょぶ)では、運用するのが難しい情報なのです。離島で発生する大規模な災害についても気象庁の持つ危機感をどのように適切に伝えるか、特別警報の課題が表面化した災害でした。
また、災害の発生する前夜から大雨警報や土砂災害警戒情報など各種の防災情報が出されていたのに、自治体の避難勧告・指示は事前に出されていなかった、という問題も報じられました。気象庁の発表する防災情報の意味・価値を、自治体では必ずしも上手に理解し活用されていないことや、その原因のひとつとも指摘されている情報の多さ・複雑さについても、改めて問題が浮き彫りになった災害でもありました。
(2013年は、竜巻・大雪・猛暑もありました。後編に続きます。)