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羽生結弦選手が「精神的攻撃」で離婚 私人逮捕系ユーチューバーとの共通点は?

小宮信夫立正大学教授(犯罪学)/社会学博士
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

オリンピック2連覇を達成したフィギュアスケートの羽生結弦選手が離婚した。公式X(旧ツイッター)「羽生結弦 official_Staff 公式」で発表された。

その報道は多くの人を驚かせた。筆者もその一人だ。

筆者も羽生選手のファンで、金メダル獲得の瞬間には大きな感動をもらった。

しかし、プライベートな部分には関心がなかったので、まさかこれほどひどい精神的攻撃に見舞われているとは思いも寄らなかった。

苦渋の決断――

インターネットにアップした書面は下記のものだが、それによると、「様々なメディア媒体で、一般人であるお相手、そのご親族や関係者の方々に対して、そして、私の親族、関係者に対しても、誹謗中傷やストーカー行為、許可のない取材や報道がなされてい」るため、「お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断を」したという。

「羽生結弦 official_Staff公式」
「羽生結弦 official_Staff公式」

これが事実なら、今週、逮捕者を出した「私人逮捕系ユーチューバー」と問題の根は同じ。自分のために他人を犠牲にする構造だ。

「私人逮捕系ユーチューバー」とは、他人の行為を犯罪と決めつけ、取り押さえたり、謝罪させたりする様子を流す人たちのこと。「自警団系ユーチューバー」「世直し系ユーチューバー」「迷惑系ユーチューバー」などとも呼ばれている。

有名人のプライバシー報道にしても、私人逮捕系ユーチューバーにしても、「金儲けのためだからけしからん」と非難する声がある。しかし、これは論点がずれている。この視点に立てば、「お金は汚い」ということになってしまう。

「お金」はあくまでも中立で、仕事の対価にすぎない。つまり、需要と供給をつなぐのが「お金」だ。

「金儲けだからけしからん」と非難するなら、その矛先は「知りたい」「見たい」と思っている一般の人に向かうことになってしまう。

正義はどこへ行く?

問題の本質は、報道機関や自警団系ユーチューバーが掲げる「正義」だ。

彼らの「正義」が「危うさ」を含んでいることに、彼らは気づいていない。

これまでも、危うさを含んだ「正義」の行使は、とんでもない結果をもたらしてきた。

例えば、日本では、関東大震災の時、自警団に参加した人が、刀や竹槍などで武装して通行人の検問を行い、中には、朝鮮人来襲のデマから暴走し、朝鮮人を虐殺する人たちもいた。

アメリカでも、西部開拓時代には、過激な自警団が普通に活動していた。刑事司法制度の整備が遅れたため、開拓地が乗っ取られることを恐れていたのだ。

当初、自警団は、むち打ちと追放を用いていたが、やがて絞首刑を多用するようになっていく。1767年から1910年の間に、700人以上が自警団によって処刑された。

現代社会では、インターネットが、西部開拓時代のように、無法地帯の様相を呈している。

土足でプライバシーに踏み込む人や、自警団系ユーチューバーは、さながら賞金稼ぎのガンマンといったところか。

いずれにしても、彼らが掲げる「正義」が、本当の「正義」である保証はない。というよりむしろ、「正義」は一つではないというべきかもしれない。そこで、「秩序」の出番となる。

報道機関やユーチューバーには、自分勝手な「正義」を振り回し、それを他人に押し付けるのではなく、他人との良好な関係、つまり、「秩序」に配慮してほしいと願う。

それにしても、羽生選手の離婚発表は、思い切った選択に見える。「即断、即決、即行」。まるで織田信長のようだ。羽生選手が「カリスマ」「トップランナー」と呼ばれるゆえんである。

ご本人と、ご本人が大切に思っている方々に、穏やかな日々が戻ってくることを切に願っている。

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士

日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ――遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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