子供の車内熱中症死を防げ:置き去りも置き忘れも防ぐための虐待とヒューマンエラーの心理
<車内に放置された子供が亡くなる事件。とても悲しく、悔しい。では、どうすれば次の悲劇を防ぐことができるのか。私たちはどう考えたら良いのか。>
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■高松市の女児二人車内置き去り死亡事件
高松市で、車内に置き去りにされた女児二人が亡くなる悲しい事件が発生しました(2020年9月3日)。私も普段子供の側に立った仕事をしていますし、虐待の被害児にも会いますので、本当に胸が痛くなる事件です。
第一報が流れた時には、「死因は熱中症とみられ、母親は車を止めてその場を離れていた」と報道され、母親は容疑者ではなく事故の被害者遺族でしたから、一般的論として「置き忘れ」の話をしました。
<熱中症か、高松市の女児二人死亡、車内で意識失い救急搬送:子供の車内事故の心理学>
現在報道されている続報では、警察は「置き忘れ」ではなく「置き去り」と判断して、母親を「保護責任者遺棄致死」の疑いで逮捕しています(容疑者は黙秘)。事故ではなく、事件の扱いとなりました。
*保護責任者遺棄致死罪:3年以上20年以下の懲役
それでももちろん、まだ起訴すらされていない「推定無罪」ですので、この母親を加害者として扱い、母親の罪の問題をここで論じるわけにはいきません(そのあたりのヤフーのルールは、NHKのような慎重さがあります)。
いずれにせよ、幼い子供の命を何とかして守りたいと思います。そこで今回は、私たちみんなに関わる問題としての、「置き去り」の問題と「置き忘れ」の問題を、虐待とヒューマンエラーの両面から考えたいと思います。
■起きてしまう置き忘れ
自分の愛する我が子(我が孫)を車内に置き忘れるなど、そんなことするわけがないと、多くの人が思うことでしょう。自分も自分の周囲の人も、そんな人は一人もいないと。
たしかに、よくあることではありません。それでも、子供の車内置き忘れは日本中で、世界中で発生し、「赤ちゃん忘れ症候群」と呼ぶ医師もいるほどです。
愛がないとか、注意力がたりないということで片づけて良い問題ではありません。
<子ども車内置き忘れは私にも!?:赤ちゃん忘れ症候群:記憶とヒューマンエラーの心理学(碓井2019)>
今年2020年6月にも、つくば市で2歳の女の子が死亡する事故が起きました。
<「子どもを忘れるなんて…でも…」車内に放置され女児死亡:NHK 2020年6月29日>(筆者の解説や、ヒューマンエラーの専門家、JAFの解説などが載っています。)
昨年2019年8月に富山市で発生した、女児が車内に放置されて熱中症で死亡した事件では、母親が「重過失致死罪」で起訴されました。母親は、飲食店などで飲酒を重ね、車から降ろし忘れて自宅で眠り込み、約4時間放置したと報道されています。
*重過失致死罪:5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金
自分が降りるときに忘れたのではなく、意図的に車内に置いた場合などは、保護責任者遺棄致死罪や重過失致死罪が適応されることもあります。こうなると、単なる置き忘れ事故ではなくなります。ただし一般的には、殺人罪にはなりませんが。
■意図的な車内置き去り
意図的に子供を車内に置いておく場合も、様々でしょう。
自宅前で子供をチャイルドシートに座らせた後、忘れ物を思い出し、子供を1分車内に置き、忘れ物を取りに戻ることがあるかもしれません。
スーパーやコンビニの駐車場で、熟睡している子供を車内に置き、5分買い物に行くこともあるかもしれません。
アメリカだと、5分10分でも子供だけを家や車内に置いておくことは禁止です。児童虐待(児童遺棄)となることもあるようです。
日本ではここまで厳しくはありませんが、わずかな時間と思っても、キーの閉じ込めや子供が車内からロックしてしまい、大騒ぎになることもあるでしょう。
数分ではなく、パチンコ店の駐車場で数時間も子供を置き去りにし、何かの拍子でエアコンが切れて子供が熱中症死する悲劇も、何度も起きてきました。
報道によれば、子供を車内放置した親は「大丈夫だと思った」などと供述しています。
このような出来事に関して、社会全体もパチンコ業界も問題解決に乗り出し、キャンペーンや駐車場の見回りなども行っています。
業界団体のホームページには、次のような記述があります(全日遊連「やめて!子供の車内放置」)
お客様へお願いします
幼い命を車内放置事故から守りましょう!
全日遊連の全国各ホールでは、~お子様連れでのご来店を固くお断りしています。
事故防止ポスターの掲示、店内アナウンスによる注意喚起、ホールスタッフによる駐車場の定期的な巡回などを実施しています。車内に残されたお子様を見かけたら至急通報を!
車内放置は「児童虐待」です!
人間の行動を変え、事件事故を防ぐためには、様々な工夫と人々の協力が必要なのです。
■虐待の心理
子供を一晩車内に置き去りにするようなケースは、ひどい虐待とも言えるでしょう。
児童虐待は、評判の悪い生活が乱れた親が起こすこともあります。一方、評判も良く、経済力もあり、一生懸命子育てしていたはずの親が起こすこともあります。
子供への虐待は本当にひどいことで、世間では鬼、悪魔と言われたりもしますが、多くの場合、少なくとも最初は子供をかわいがってケースが多いのです。
愛はあっても、子育ての力がない親もいます。まじめな子育てをしすぎて、緊張の糸が切れてしまう親もいます。夫の浮気がもとで、子の虐待をはじめる親もいます。
しつけと言って子供を虐待する親もいますし、再婚した夫に従って、不本意ながら我が子を虐待する母親もいます。
そして、困っているのに、だれにも助けてもらえず、虐待してしまっている親もいます。
報道によると、今回の事件の姉妹が通っていた幼稚園の園長は、
「運動会などの行事を率先して手伝ってくれていた。とても優しいお母さんと思っていた」と語っています(車内から食べかけのパンや飲みかけの水 2女児放置死:朝日新聞2020年9月5日)
■置き去りから置き忘れ:ヒューマンエラーとは
子供が車内にいたことを忘れてしまうことがあります。また、車内に置いておいても大丈夫だと思い、意図的に長時間置かれていたケースもあります。
そして、最初は意図的に置いておいたが、そのあと降ろし忘れたという富山の事件のようなケースもあります。
疲れ、焦り、ストレスなどは、ヒューマンエラーのもとになります。飲酒は、言うまでもありません。
子供の車内死を防ぐためには、意図的な違法行為を防ぐのと同時に、意図しない失敗であるヒューマンエラーも防がなくてはなりません。
ヒューマンエラーとは、「意図しない結果を生じる人間の行為」です。一般的には、事故防止のときに使われる言葉で、事件ではあまり使われませんが、事件事故防止のためには、大切な考え方だと思います。
意図的な信号無視はヒューマンエラーではありませんが、赤信号の見落としはヒューマンエラーです。
意図的にスピード違反をするのはヒューマンエラーではありませんが、大丈夫だと思ってスピードを出した結果ハンドル操作を誤るのは、ヒューマンエラーです。
ヒューマンエラーという考え方は、人間の間違いや失敗を過小評価するものではありません。
たとえば、防災担当者のヒューマンエラーの結果によって多くの被害者が出たり、原発作業員のヒューマンエラーによって大事故が起これば、それは「人災」と呼ばれるでしょう。ヒューマンエラーだから仕方がないといったものではありません。責任は重大です。
自動車の運転でも外科手術でも、失敗(ヒューマンエラー)をした本人が、刑事罰を受けることもあるでしょう。
ただし、次の事件事故防止のためには、本人をきつく罰するだけでは不十分だと考えるのが、ヒューマンエラーの考え方です。
様々な職場で、失敗を防ぐための工夫がされていることでしょう。制裁や刑罰も必要ですが、事件事故を防ぎ、被害者発生を防ぐためには、家庭でも職場でも総合的な対策が必要なのです。
<JR福知山線脱線事故から学ぶヒューマンエラー・心の傷の心理学:事故防止と被害者保護のために>
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皆さんからのご意見ご質問にお答えしました。
<「高松市子供車内置き去り死事件と逮捕の母に関するご意見ご質問に答えて:より良い議論のために」>
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