香港にみるアートを活用した街づくり
筆者は、本年9月初旬から中旬にかけて、中国の大湾区を訪問し、現地で調査研究を行った(注1)。その間香港滞在中には、香港デザインセンター(注2)が企画した”dd Palette-Embark on a Colour Hunt Journey“というツアーに参加することが出来た(注3)。
同ツアーは、香港島にある旧湾仔の海岸線に沿ったエリア地域に沿って歩きながら、新しくつくられたビルもあるが、香港の植民地時代から残る街並みの中にある、様々なビルの壁面に描かれた絵画やアート作品やリノベーションされた建築物や施設を、同センターの説明を聞きながら、堪能するものであった。
最近では、日本においても、まちづくりやまちの再生や活性化のために、アートを活用している事例も生まれてきている。例えば、瀬戸内海の直島は、アートで島づくりを行い、多くの観光客等が訪れ、新しいビジネスなども生まれてきている。
だが、今回のツアーのように、街中にこれだけアート作品がある地域や街は、日本の中にはないのではないだろうか。
香港の場合、英国植民時時代の街並みや中国人の古い街並みの中に、様々なモダンアート的な作品がビルや施設の壁面などに何げなく、かつ確実な存在感をもって描かれていたり、作品が置かれているのである。
聞いたところによると、どのような作品にするか(或いは描くか)は基本的に任されているようであるが、アーティストは建物の意味・役割やその周囲の雰囲気等を考慮しながら、その作品のテーマや描き方、色彩を決めているようだ。
そのため、かなり大きくかつ大胆な作品であっても、香港の街並み自身が非常に多様で様々な色彩と形が混在していることもあるが、それらは建物や周囲に溶け込み、かつ変化を与えており、存在感も示しているのだ。正に、それらのアートが、香港の街に、よりカラフルさおよび創造性や想像力を与えているといえるだろう。
日本の社会は、どこに行っても落ち着いてきれいである。だが、全国どこに行っても、変化が少なく、多様性が少ない。
日本は、島国で狭い国土といわれることもあるが、南北に広がり、山間部は国土の中心を貫いており、その左右で異なる気候や風土があり、実は地域毎の多様性があるにもかかわらず、それが地域毎に活かされているとはいえない。そのことは、日本のインバウンド観光の今後を考えた場合に、問題・課題になると考えている。
このように考えた場合、上記で説明させていただいたようなアートを用いて、多様で刺激的な街並みを生み出している香港の試みは、日本の街並みづくりやまちづくりに活かせるのではないかと思う。
(注1)同研究調査、特にそのうちの香港滞在中は、香港貿易発展局に、様々な協力や支援をいただいたので、ここでお礼を申し上げたい。
(注2)同ツアーでは、同センターの Coco Wong氏(Manager, Marketing Communication & Partnership)、Samantha Leung氏(Project Manager)、Vincent Lo氏(Project Assistant)らにお世話になった。ありがとうございました。