AIと天気予報 気象予報士が消える日
イーロン・マスク氏が署名したことで注目が集まる人工知能(AI)開発停止を求める公開書簡(フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート)。高度な人工知能は人類の理解を超えるとの指摘に複雑な思いです。
現在の天気予報は人工知能によって支えられているといっても過言ではありません。世界中から集めた一日あたり約400万の観測データを、大気現象を支配する物理方程式で解くことが天気予報の元になっていますが、計算結果は気温、風、湿度などの数値データの集まりに過ぎず、そのままでは扱えません。
人が理解しやすい形に、使いやすい形式に作り替える必要があり、天気に翻訳することが考え出されました。これをガイダンスといい、天気分布予報もそのひとつです。
ガイダンスの歴史は古く、日本では1977年から機械学習を使ってガイダンスを作成しています。機械学習は人工知能の一部として、応用範囲が広がっていますが、天気予報はその先駆けと言えるでしょう。
人工知能が取って代わる
最近では線状降水帯の予測に利用されるなど人工知能の機械学習が進み、高度で緻密な天気予報が手に入る時代になりました。良いことずくめのように聞こえますが、気象予報士としては危機感もあります。
それは年を追うごとに天気予報がブラックボックス化しているからです。完ぺきな天気予報はあり得ず、必ず誤差が含まれています。これまでは統計的や経験的に、人が修正してきました。しかし、人工知能が示す天気予報は、なぜそうなるのか、過程や理由がわかりません。整合性のとれた修正ができず、適切な利用を促すような天気解説がしにくくなるのです。
人工知能をフルに使った天気予報はすぐそこまで来ています。そこに気象予報士が関わる余地が残っているのか疑わしい。一万人を超える気象予報士のひとりとして生き残れるのか。今後、ますます人工知能との向き合い方を模索することになるでしょう。
【参考資料】
Future of Life Institute:Pause Giant AI Experiments: An Open Letter
気象庁:数値予報の基礎知識、平成30年度数値予報研修テキスト
気象庁:気象観測・予測へのAI技術の活用に向けた共同研究を始めます~より高精度・高解像度な気象観測・予測を目指して~、2019年1月23日