NetflixやAmazonなど先行の動画配信、米で競争激化 顧客つなぎとめ困難、制作費上昇重荷に
米国の動画配信は市場競争が激化しており、企業はサブスクリプション(定額課金)の利用者をつなぎとめておくことが困難な状況だと米ウォール・ストリート・ジャーナルが米調査会社アンテナのリポートを基に報じた。
大型作品で訴求も半年以内に解約
動画配信サービスの加入者を増やすためには新作ドラマ・映画の配信が必要になる。しかし、多くの人は新作公開時に加入し、数カ月後に解約してサービスから離れていくという。
米ウォルト・ディズニーのDisney+(ディズニープラス)は、2020年7月にブロードウェイミュージカル作品『ハミルトン』を配信し、加入者を一気に増やした。
AT&T傘下ワーナーメディア(旧タイムワーナー)のHBO Max(HBOマックス)は20年12月に映画『ワンダーウーマン1984』を配信。米アップルのApple TV+(アップルTVプラス)は20年7月に米人気俳優のトム・ハンクス氏が脚本と主演を務めた映画『グレイハウンド』を配信し、いずれのサービスも加入者数を大幅に増やした。
だが、これら新作配信開始後の数日間に加入した人のほぼ半数は、その後半年以内に解約したという。
また、米コムキャスト傘下NBCユニバーサルのPeacock(ピーコック)は、昨夏の東京オリンピック・パラリンピック配信権を獲得し、米国の加入者が急増した。しかし、オリンピック開催前後に加入した人の約半数はその4カ月後に解約した。
「大規模作品のリリースや大型イベントの開催に合わせて加入する人は、平均的な顧客よりも早くサービスを離れる傾向がある」とアンテナのアナリストは指摘する。ほとんどのサービスは月額サブスクリプションで利用できる。これにより利用者は特定の番組を一気見した後にキャンセルすることが可能。こうした仕組みがサービス提供会社の課題になっていると、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
ネットフリックスやアマゾン、ディズニーが先行
加入者数が多い米国の主な動画配信サービスは以下の通り。米国では1世帯当たり平均3.6社のサービスに加入しているという。
○ネットフリックス:米国加入者数6590万人で業界トップ
○アマゾンの「Prime Video」:米国加入者数5200万人
メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を買収予定
○ウォルト・ディズニーの「Disney+」:米国加入者数3850万人
傘下にHulu(米国加入者数3970万人)や映画・テレビの21世紀フォックス
○AT&T傘下ワーナーメディアの「HBO Max」:米国加入者数2320万人
傘下にワーナー・ブラザース
※22年半ばにワーナーメディアを分離してディスカバリーと統合、「discovery+」も傘下に
○コムキャスト(米CATV最大手)傘下NBCユニバーサルの「Peacock」
傘下にユニバーサル・ピクチャーズ
○パラマウント・グローバル(旧バイアコムCBS)の「Paramount+」
傘下にパラマウント・ピクチャーズ
制作コストの上昇重荷も、続々作品投入
業界トップの米ネットフリックスは、先の決算発表で21年10〜12月期の営業利益率が8.2%となり、前年同期の14.4%から低下したと明らかにした。要因の1つは制作コストの上昇だという。
アンテナによると動画配信企業のコンテンツ制作・調達費用は年々上昇している。ネットフリックスの21年におけるオリジナル作品制作費用は、前年比33%増の60億8000万ドル(約7000億円)だった。アマゾンは同2倍超の27億1000万ドル(約3100億円)を、アップルは同78%増の21億5000万ドル(約2500億円)を投じた。
企業は、作品数の多いサービスほど顧客定着率が高いとみて投資を続けているという。ディズニーのボブ・チャペックCEO(最高経営責任者)は21年11月、アナリストとの電話会議で「作品は顧客エンゲージメントを高め、解約を最小限に抑える効果があり、新しいコンテンツは新しい加入者を呼ぶ」と説明していた。
- (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2022年2月2日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)