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統一地方選、致命的な投票率の低さ。どうしたら投票率は上がるのか?フィンランド主権者教育との比較から

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

4月9日に投開票が行われた、統一地方選前半戦の9道府県知事選の投票率は、統一選として過去最低だった2015年の47.14%を0.36ポイント下回り、46.78%となった。

41道府県議選は41.85%。過去最も低かった前回19年の44.02%から2.17ポイント落ち込んだ。

もはや過半数が投票に行っていないことになり、これでは投票結果の正統性も損なわれかねない。

そもそも選挙さえ行われていない無投票で当選が決まったのは全体の25.0%。選挙区でみると全体の37.1%に上る。とくに山梨県は6割を超えている。

なぜここまで投票率が低いのか?

国政選挙と異なる選挙制度、時期がバラバラになり統一感のない統一地方選挙、メディア報道の少なさなど、さまざまな要因が考えられるが、大きな要因の一つが、主権者教育が全く不十分であることは疑いようがない。

2022年から、新しい学習指導要領のもと、高校では「公共」が始まっているが、現役の高校生らに話を聞く限り、成果を期待することは難しい。

筆者は、4月2日に行われたフィンランドの選挙に合わせて、1週間ほどフィンランド視察に行っており、そこで感じた、日本とフィンランドの主権者教育の大きな違いを紹介したい。

ちなみに、今回のフィンランドの投票率は、71.9%だった。

現実的事象を取り扱わない日本の主権者教育

日本で主権者教育が“解禁”となったのは、2015年。

2016年の18歳選挙権実現に向けて通知を発出し、1969年から続いていた政治教育の原則禁止の方向性を大きく転換した。

議会制民主主義など民主主義の意義、政策形成の仕組みや選挙の仕組みなどの政治や選挙の理解に加えて現実の具体的な政治的事象も取り扱い、生徒が国民投票の投票権や選挙権を有する者(以下「有権者」という。)として自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要です。

引用元:高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)27文科初 第933号平成27年10月29日

関連記事:日本教育の大きな岐路となった「1969年」。今こそ根底にある価値観のシフトを(室橋祐貴)

一方、教員に対しては、政治的中立性を厳しく求めており、現場の教員は萎縮、一部の私立学校を除いて、多くの学校は現実的な事象を取り扱うことができていない。

指導に当たっては、教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導すること。

引用元:高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について(通知)27文科初 第933号平成27年10月29日

さらに、大きな選挙の度に、政治的中立性を守るよう、文部科学省から通知が出されており、大きく逸脱する場合は、「地方公務員法の信用失墜行為の禁止に抵触する可能性」があると記載している。

これで積極的に主権者教育をやろうとする教員がどこにいるのだろうか。

教職員等の選挙運動の禁止等について(通知)

本年4月に統一地方選挙が行われる予定ですが、公務員は、全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではなく、公共の利益のために勤務すべき職責があり、その政治的中立性を確保するとともに、行政の公正な運営の確保を図る必要があることは言うまでもありません。

 特に、教育公務員については、教育基本法等における教育の政治的中立性の原則に基づき、特定の政党の支持又は反対のために政治的活動等をすることは禁止されています。さらに、教育公務員の職務と責任の特殊性により、教育公務員特例法において、公立学校の教育公務員の政治的行為の制限は、国家公務員の例によることとされ、人事院規則で定められた政治的行為が禁止されています。また、公職選挙法においても、選挙運動等について特別の定めがなされているところです。

 なお、学校の内外を問わずその地位を利用して特定の政治的立場に立って児童生徒等に接することなどにより、その職の信用を傷つけ、学校教育に対する国民の信頼を損なうこととなる場合は、地方公務員法に基づき、信用失墜行為の禁止に抵触する可能性があります。

引用元:教職員等の選挙運動の禁止等について(通知)

このように、現場の教員を信頼せず、裁量を与えない結果、政治的中立性=立場の分かれる現実的事象を取り扱わないという誤った考え方(消極的政治的中立性)が浸透し、真に意味のある主権者教育となっていないのが、日本の現状である。

とことん“現実”を取り扱うフィンランドの主権者教育

フィンランドの総合学校(写真:筆者)
フィンランドの総合学校(写真:筆者)

一方、諸外国では、全党やさまざまな立場を取り扱うことによって、政治的中立性を守る考え方(積極的政治的中立性)が一般的であり、今回視察したフィンランドも同様である。

視察に訪れたヘルシンキのクロサーリ総合学校では、9年生(日本の中学3年生に相当)は全員、週3回シティズンシップ教育を受ける。

フィンランドでは、教員が一方的に教える形式ではなく、生徒が教科書やパソコンなどを使ってリサーチを行い、プレゼンをしながら学んでいくスタイルが一般的だが、この授業も同様の形式になっている。

訪れた日は、議会制度について調べ、グループごとにプレゼンの準備を行っていた。

驚くべきは、その教科書の内容だ。

日本の教科書では、衆議院と参議院の違いなど、抽象的な内容が多いが、フィンランドの教科書はとことん現実を取り扱っている。

中学3年生用の教科書(筆者撮影)
中学3年生用の教科書(筆者撮影)

こちらのページでは、政党の役割が書かれているのに加え、各党のポジションや特徴まで書かれている(以下、引用箇所はフィンランド語をGoogle翻訳で和訳しているため、不自然な表現もあるかもしれない)。

政党と政治

政党は、おそらく最もよく知られている非営利組織です。政党は、メンバーが望む方向に社会を発展させるために努力する志を同じくする人々の集まりです。誰もが自分の選んだ政党の地方組織に参加することができ、それによって共通の問題に影響を与えることができます。政党は選挙で候補者を指名し、有権者はその中から市議会や議会などの政治的意思決定者を選びます。(中略)

伝統的に、政党は右派と左派に分かれています。

(中略)右翼、またはブルジョアの政党は、自分自身に対する努力と個人の責任を強調しています。彼らの意見では、たとえば、地方自治体は必ずしもすべての基本的なサービスを自社で作成する必要はありませんが、合理的な場合には民間企業からそれらを購入する必要もあります。右翼政党の意見では、課税は起業家精神を奨励するものであるべきであり、人々の間の所得格差は課税の助けを借りて過度に平準化されるべきではありません。

一方、左翼政党は、特に裕福でない人々の利益を促進することを強調しています。彼らは強力な公共部門を信じています。したがって、州と地方自治体の任務は、無料または安価な社会保障と医療サービスを可能な限り広く市民に提供することであると彼らは考えています。彼の意見では、地方自治体も民間企業の参加なしにこれらのサービスを独自に作成する必要があります。左翼政党によると、サービスは税金で賄われており、高所得者は低所得者よりも多くを支払わなければならない。

投票の具体的な方法も記載されている(筆者撮影)
投票の具体的な方法も記載されている(筆者撮影)

最新=教科書発行時点=この時は2019年の内閣の構成員も記載される(筆者撮影)
最新=教科書発行時点=この時は2019年の内閣の構成員も記載される(筆者撮影)

最近の情勢を載せるため、教科書は4年ごとに変更される(国政選挙が終わる度)。

「影響力」という章では、「民主主義では影響を与えることができる」と説明した上で、メディア、キャンペーン、ロビー活動の意義や具体的事例について書かれている。

中学3年生用の教科書(筆者撮影)
中学3年生用の教科書(筆者撮影)

NGOの影響力(右ページ)

非政府組織は一般にサードセクターと呼ばれます。公共部門および民間部門とともに、彼らは社会において独自の重要な役割を果たしています。(中略)

何千人ものメンバーで構成される非政府組織では、1人の市民よりも効果的な影響を与えることができます。組織は社会的議論に新しいトピックを持ち込むことができ、個人の意見よりも組織の意見の方が注意深く耳を傾けられます。たとえば、非政府組織が意思決定者に情報を提供する活動は、ロビー活動と呼ばれます。その目的は、政治の決定に直接影響を与えることです。

実践的な模擬選挙や政治家と対話する機会も

そして、知識を得て終わりではなく、選挙権を持っていない世代を対象に(中高生)、模擬選挙も行う。

もちろん、投票先は、本物の政党だ。

その際、大人が使うものと同じ「選挙コンパス」(ボートマッチ)も活用し、有権者になる前に、“本物”の選挙を体験する。

質問に答えるとマッチする政党や候補者が出てくる(出典:YLE)
質問に答えるとマッチする政党や候補者が出てくる(出典:YLE)

その結果は、本物の投開票日の前に、国営放送YLEで放送される。

出典:YLE
出典:YLE

この模擬選挙は1960年代にスタートし、1990年代からはフィンランドの若者協議会「Allianssi(アッリアンシ)」が全国の模擬選挙をコーディネートしている。

今回の模擬選挙は、895の学校や関連機関が参加し、投票者は9万435人と過去最高記録を達成したという。

今回フィンランドでは、中道右派の国民連合党と極右のフィン人党が大きく躍進し、政権交代が起こったが、若者向けの模擬選挙では、フィン人党が1位となっている。

この理由については、別の記事で書きたいと思うが、TikTokの活用が大きいという。

こうした授業や体験を通して、生徒は各党の特徴をよく理解しているため、「どこの政党を支持しているか?」と質問すれば、明確に回答が返ってくる。

クロサーリ総合学校の9年生(筆者撮影)
クロサーリ総合学校の9年生(筆者撮影)

他にも、国会では14〜15歳を対象にした「若者議会(Youth Parliament)」が、各地域でも「若者議会(Youth Council)」が設置され、本物の行政の意思決定に関わったりする(詳細は別記事で取り上げる)。

さらに、街に出れば、選挙小屋が並び、政治家と対話する機会がたくさんある。

ヘルシンキの選挙小屋(筆者撮影)
ヘルシンキの選挙小屋(筆者撮影)

政治家がパンやコーヒーを配り、お祭りのようだ(筆者撮影)
政治家がパンやコーヒーを配り、お祭りのようだ(筆者撮影)

選挙小屋ではポップコーンやクレープ、ソーセージなども無料で提供される(筆者撮影)
選挙小屋ではポップコーンやクレープ、ソーセージなども無料で提供される(筆者撮影)

ペッカ・ハーヴィスト外務大臣も選挙小屋を訪れ、メディアの取材を受けていた(筆者撮影)
ペッカ・ハーヴィスト外務大臣も選挙小屋を訪れ、メディアの取材を受けていた(筆者撮影)

近年、日本でも少しずつ重要性が浸透してきた「学校内民主主義」(学校内の意思決定に生徒が参加すること)も当然行われている。

こうした重層的な取り組みが至るところで行われており、日本との違いは歴然だ。

日本の投票率の低さは、構造的な結果であり、決して有権者個々の問題ではない。

投票率の高い国々と比較すれば、民主主義教育に力を入れていないから、という極めてシンプルな理由であることがわかる。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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