なぜ岸田内閣の若者支持率は低いのか?「改革」か「非改革」かという対立軸
岸田内閣の若者支持率が低い。
安倍政権・菅政権時代は、若年層の支持率が突出して高かったのは、周知の通りだ。
例えば、菅内閣発足2ヶ月後の、2020年11月の調査では、18-29歳の内閣支持率は80%で、70歳以上の支持率とは32ポイントも開いていた。
一方、岸田政権になってから、若年層の支持率は、他世代よりも低くなっている。
岸田政権が誕生した2021年10月以降、18~29歳、30代の若年層のみ、顕著に支持率が下がり、不支持が支持を上回っている。
毎日新聞と社会調査研究センターが8月20、21日に行った世論調査では、岸田内閣の支持率は36%と、前回(7月16、17日)の52%から16ポイントも下落したが、主な要因は高齢世代の支持率低下であり、若年層はそれに比べて変化が小さい。
統一教会への対応と安倍元首相の国葬に対しては高齢層ほど厳しい態度になっており、若年層(30代以下)は好意的にみている(FNNが、8月20・21日に実施した世論調査)。
“統一教会”対応
18歳~20代 :評価する57.9% 評価しない31.5%
30代:評価する53.4% 評価しない34.0%
40代:評価する44.2% 評価しない52.9%
50代:評価する37.3% 評価しない59.1%
60代:評価する25.6% 評価しない68.5%
70歳以上:評価する25.1% 評価しない66.2%
安倍元首相の国葬
18歳~20代:賛成60.0% 反対31.4%
30代:賛成62.0% 反対28.0%
40代:賛成38.9% 反対52.6%
50代:賛成34.9% 反対57.6%
60代:賛成34.4% 反対58.1%
70歳以上:賛成28.4% 反対64.2%
旧統一教会・国葬…高齢世代ほど厳しい評価 FNN世論調査#2
岸田内閣の若年層支持率が低い理由は?
では、なぜ同じ自民党が中心の政権にもかかわらず、岸田政権の支持率は下がっているのか?
それは、若者にとって、政権が以前より「保守化」しているからだ。
岸田首相自身は、自民党内で比較的リベラルである宏池会の会長であり(とはいえ、今回の閣僚人事のジェンダーバランスの悪さを見たらリベラルっぽさはないが)、「そんなことはない」と思うかもしれないが、若者と上の世代では、「保守」(と「リベラル」)のイメージは異なる。
以前、筆者がBUSINESS INSIDER JAPANにいた頃に書いた記事でまとめているが、読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所が2017年に共同で行った調査結果によると、40代以下は自民党と日本維新の会を「リベラル」な政党だと捉えており、共産党や公明党を「保守的」な政党だと捉えている。
「自民党こそリベラルで革新的」——20代の「保守・リベラル」観はこんなに変わってきている(BUSINESS INSIDER JAPAN)
この図に沿って考えると、なぜ若者が、安倍政権・菅政権を支持して、岸田政権を支持していないのかがよくわかる。
つまり若者にとって、「改革」を進める勢力こそが「リベラル」であり、「現状維持や反対」色の強い勢力が「保守」なのである。
実際、安倍政権では、働き方改革や幼児教育・高等教育の一部無償化などが進められ、菅政権では、カーボンニュートラルやデジタル庁、不妊治療の保険適用などが進められた。
「改革」か「非改革」かという対立軸
一方、岸田政権に目立った「改革」のメッセージや実績があるかといえば、ない。
結果的に、若者にとって「保守派」に映っており、支持率が下がっていると考えるのが自然だ。
そういう意味では、若者の感覚に特段大きな変化はない。変わっているのは、現状維持派になっている(岸田)政権側だ。
それは、政策実現のために様々な「改革案」を出している国民民主党が政治関心の強い若者から支持を得ていることとも合致する。
つまり重要なのは、「右・左」でもなく、「上・下」でもない。「改革」か「非改革」かという対立軸である。
裏を返せば、現状身の回りに抱える課題が多く、とにかく課題を一つでも解決してほしい、そのための「改革」を進めてほしい、という現状への逼迫感である。
岸田首相は、「しっかり検討します」とばかり言っていることから、「検討使」とも言われているが、課題(+解決策)は明らかであり、検討している余裕はない、というのが、若者の声だ。
どうすれば若者の支持率は上がるか?
これを理解すれば、どうすれば若者の支持率が上がるかも自然と見えてくる。
とにかく、現在顕在化している課題に対する解決策を速やかに実行することに尽きる。
例えば、少なすぎる子育て・教育予算を増加させ、子育て支援策の所得制限を少なくする、学費負担の軽減、賃上げのための労働改革やリカレント教育の整備、緊急避妊薬のOTC化(窓口販売)、中絶環境の改善、炭素税の導入、ジェンダーギャップを解消するために閣僚や党幹部に女性を登用する、といった施策を大々的に進めることだ。
「聞く力」という言葉もすっかり聞かなくなったが、本当に国民の声を聞く気があるのであれば、欧州で広がるくじ引き民主主義を取り入れた「気候市民会議」、国民が予算案を提案する参加型予算、オンライン上の合意形成プラットフォーム(vTaiwan、Decidimなど)、若者の意見を取り入れるために各大臣にリバースメンターシップ制度を導入する、などアイデアはいくらでもあるが、そうした施策も全くやっていない。
古典的な車座対話はやっているが、一部の人しか参加できず、人選に恣意性は生まれるし、その人たちに代表性があるのかもわからない。
日本以外の国では、その課題をクリアするために、上述のような施策を行なっている。特徴とする分野でも、あまりに時代遅れすぎる。
今回の閣僚人事を見ても、国民よりも党内融和を重視していることは明らかだが、逆にいえば、国民を軽視していても、政権を奪われる懸念が少ないということだ。
政権に良いプレッシャーを与え、より良い施策を生み出すためには、やはり野党の台頭も欠かせない。